青い海に囲まれた宮古島。人口5万5千人のこの島には、年間100万人を超える観光客が訪れます。このダイナミックに動く島の最前線で、観光施策を担うのが宮古島市役所の観光商工課です。
今回は、関西の旅行会社からUターン転職を果たした譜久島さんにお話を伺いました。
一企業では成し得ない「業界全体を動かす仕組み作り」や、行政だからこそできる「島の未来を守るルール作り」など、公務員のイメージを覆すエキサイティングな仕事の魅力が詰まっています。
- 豊かな自然の中で育ち、海外旅行の世界へ
- 業界を支える「行政の力」に魅了された転機
- 政策コンテストからデジタルマップ作成まで。若手が主役のプロジェクト
- 「仕組み」と「ルール」を創る、行政ならではのダイナミズム
- 部署を越えた「温かい繋がり」が島の未来を創る
豊かな自然の中で育ち、海外旅行の世界へ
ーまずは、譜久島さんのこれまでの経歴について教えていただけますか?
譜久島:私は宮古島市にある伊良部島の出身です。海と空しかないような自然豊かな環境で高校まで過ごしました。大学進学を機に関西へ出まして、卒業後はそのまま大阪にある旅行会社に就職しました。
ー前職ではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
譜久島:海外旅行を専門に扱うBtoBの会社でした。一般のお客様ではなく、旅行会社さんを相手にする専門性の高い業務です。
目的地までのルート提案を含めた航空券の手配、あるいは「こういうツアーを組みたい」という要望に対して現地のホテルや食事、移動や観光プランなどをアレンジして卸す。お客様からは見えない「裏方」として、海外旅行の土台を作る仕事に誇りを持って取り組んでいました。
ー宮古島へ戻ろうと考えたきっかけは何だったのですか?
譜久島:やはり新型コロナウイルスの流行が決定的な転機になりました。旅行業界、特に海外専門の会社は壊滅的な打撃を受け、私が勤めていた会社も関西の拠点を閉鎖して東京へ集約することになったんです。
「東京へ行くか、それとも会社を辞めるか」という二択を迫られていた時に、ちょうど宮古島市の採用試験があることを知りました。
元々、「いつかは地元に帰りたい」という想いは持っていたので、これも何かの縁だと思って受験を決めたんです。ただ、人生設計の中では島へ帰るのはもっと先の話だと考えていたので、まさか30代というタイミングで戻ることになるとは自分でも驚きでした(笑)。
業界を支える「行政の力」に魅了された転機
ーなぜ、未経験の「公務員」という道に進もうと思ったのですか?
譜久島:最初は「役所の仕事=窓口業務」という漠然としたイメージしかありませんでした。ただ、前職の最後の方で「GoToトラベル」の事務局業務を委託で受けた際、大きな衝撃を受けたんです。
一企業がどれだけ頑張っても太刀打ちできない不況の中でも、行政が施策を打つことで、多くの旅行会社が経営を維持でき、雇用が守られる。その様子を間近で見て、「行政の仕事って、これほどまでに業界全体、そして地域全体を支える力があるんだ」と気づかされました。
ー「視点の大きさ」に惹かれたのですね。
譜久島:そうですね。民間企業は自社の利益を追求することを重視しますが、行政はもっと広い視点で物事を考えます。どうすればこの業界や地域が盛り上がるのか、どうすれば市民の生活がより良くなるのか。
その「公」の視点で宮古島のために動ける仕事なら、前職で培った観光の知識も活かせるし、何よりやりがいが大きそうだと感じました。

政策コンテストからデジタルマップ作成まで。若手が主役のプロジェクト
ーこれまで携わった仕事の中で、特に印象に残っているプロジェクトを教えてください。
譜久島:入庁1年目に担当した、下地島空港の「羽田発着枠政策コンテスト」ですね。羽田空港の貴重な発着枠を、地方自治体や航空会社が共同で提案して勝ち取るという国のプロジェクトです。
宮古島市としてどうこの路線を維持し、島全体を盛り上げていくか。その提案書をまとめ、最終的には市長や航空会社など、提案関係者みんなで国土交通省へプレゼンに行きました。
ー1年目からプレゼン資料作成とは、大役ですね!
譜久島:プレッシャーもありましたが、関係各所と何度も議論を重ねて作った資料でしたから、無事に枠を獲得できた時は本当に嬉しかったです。
今、実際に羽田から下地島に直行便が飛び、多くの方が島を訪れている光景を見ると、行政の仕事が具体的な「形」になる喜びを実感します。
ー他にも、ご自身でアイデアを出して実現したことがあるとお聞きしました。
譜久島:企業版ふるさと納税を活用して「宮古島観光デジタルマップ」を作成しました。単なる観光案内だけでなく、宮古島が抱える課題を解決したいという想いから作ったものです。
例えば、観光客の方は土地勘がないので、万が一の時にどこへ避難すればいいか分かりません。そこで、浸水想定域や避難所の場所を多言語で確認できる「防災」の機能を盛り込みました。
また、観光地案内だけでなく、大型イベント施設である「JTAドーム宮古島」を360度ビューで確認できる機能も付けたんです。これにより島外のイベント主催者の方が、現地に来なくても会場の設営シミュレーションができるようになりました。
お預かりした予算の中で、どうすれば一番宮古島のためになるかを考え抜いて形にしました。

「仕組み」と「ルール」を創る、行政ならではのダイナミズム
ー仕事をする上で、民間企業時代と一番変わったマインドは何ですか?
譜久島:やはり「お金」に対する意識ですね。民間企業は、企業が自ら稼いだお金で投資をしますが、私たちは市民の皆さんが納めてくださった「税金」をお預かりして仕事をしています。
だからこそ、「この事業に予算を投じることは、本当に市民の皆さんに喜ばれるのか、宮古島のためになるのか」という自問自答を、常に自分の中で繰り返しています。
ーそのマインドを持って取り組む中で、行政職だからこそ感じられるやりがいや魅力は何でしょうか?
譜久島:今まさに進めている「宿泊税」の導入などは、行政ならではのダイナミズムを感じますね。宮古島にとって観光客が増えることは経済的に喜ばしいことですが、一方で島の環境や、インフラに負荷がかかったりといった課題も生じます。
これまではその費用を市民の税金で賄ってきましたが、観光客の皆さんにも一部をご負担いただくことで、市民と観光客が一緒になって「いい島」を作っていけるような、持続可能な仕組みにしたいと考えています。
こうした新しい仕組みを「条例」という形で一から作り上げ、島の未来をデザインできるのは、行政にしかできない非常に重要で魅力的な仕事です。
ー新しい仕組みを作るとなると、苦労されることも多いのではないですか?
譜久島:そうですね。やはり100%の賛成をいただくことは非常に難しいです。観光の担当だからといって観光振興だけを見ていればいいわけではなく、市民の方々の生活もしっかり見なければなりません。観光客と市民、双方がWIN-WINになれるバランスをどこに落とし込むのか、その調整にはいつも頭を悩ませています。
また、民間側の合意と行政側の合意、その両方が揃わなければプロジェクトは前に進みません。その高いハードルを一つひとつ乗り越えていく粘り強さが求められる仕事だと痛感しています。

部署を越えた「温かい繋がり」が島の未来を創る
ー職場の雰囲気や、宮古島市役所ならではの特徴について教えてください。
譜久島:とにかく「人の温かさ」に助けられています。市役所には多くの部署があり、異動すれば「別の会社」に転職したかと思うほど業務内容が変わると聞いています。
でも、自分の部署では分からないことがあって他部署の誰かに相談すると、「それならあの人が詳しいよ!」とすぐに電話を繋いでくれたり、自分のことのように親身になって教えてくれたりするんです。
上下関係も良い意味でフランクで、若手のアイデアを「面白いね、やってみよう」と受け入れてくれる土壌があるからこそ、自分のやりたいことに挑戦できているのだと思います。
ー最後に、これから宮古島市の職員を目指す方へメッセージをお願いします。
譜久島:公務員の仕事は、法律や条例・規則など決められたルールに則って行いますが、皆さんが想像しているよりもずっと幅広くて、柔軟で、そして大きな影響力を持っています。「宮古島をもっと良くしたい」「この魅力を次の世代に残したい」。そんな熱い想いがある人にとって、これほど面白いフィールドはありません。
島に住んでいる人も、これから島に来ようとしている人も、ぜひ自分なりの「やってみたいこと」を持って宮古島市役所の門を叩いてください。
宮古島の未来を一緒にデザインしていける仲間に出会えることを、楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
インタビューを通して伝わってきたのは、譜久島さんが持つ「圧倒的な主体性」でした。「島のためになること」を考え抜く姿勢は、とても力強く頼もしいものです。
ただ、決して肩に力が入ったストイックさではなく、島の未来を創るプロセスそのものを、心から楽しんで取り組んでいる様子が印象的でした。
譜久島さんのような熱意と柔軟な発想を持った方々が、地域をより豊かに、そして未来へと繋いでいく。そんな希望を感じさせてくれる、素晴らしい出会いでした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年1月取材)



