福岡県筑前町役場で管理栄養士として働く山口さんのインタビュー記事です。
地元である筑前町で、地域住民の健康を支えるために奮闘する山口さん。
病院勤務も視野に入れていた彼女が、なぜ自治体の管理栄養士という道を選んだのか。
病気になる前の「予防」に携わる仕事のやりがいや、町のたった一人の管理栄養士の正規職員としての想い、そして未来の仲間へのメッセージを伺いました。
これまでの経歴と現在の仕事内容
ーまずは、自己紹介をお願いします。
山口:筑前町役場のこども課に所属しております、管理栄養士の山口です。出身も筑前町でして、物心ついた頃からずっとここで育ちました。大学は管理栄養士の養成校に進学し、国家試験に合格した後、新卒で筑前町役場に入庁しました。
ーこれまでの経歴と、現在の仕事内容について教えてください。
山口:入庁して最初の3年間は、町内唯一の公立保育所である「美和みどり保育所」に配属され、給食業務に携わっていました。献立作成から食材の発注、調理まで、運営のすべてに関わる仕事でした。
その後、健康課に異動し、特定健診や特定保健指導、健康教室の開催、母子保健事業など、より直接的に住民の方の健康を支援する業務を経験しました。
そして現在は、こども課の母子保健係に所属しています。母子健康手帳の交付に始まり、妊産婦さんや授乳中のお母さんへの栄養指導、離乳食相談など、お子さんが生まれてから健やかに育つこと、将来の健康を守ることを、食の面からサポートするのが主な仕事です。

ー現在の部署での、1日の仕事の流れを教えていただけますか?
山口:日によって大きく異なりますが、乳幼児健診や教室などの「事業がある日」と、デスクワークが中心の「事業がない日」があります。
事業がない日は、まず係内のスケジュール確認から始まります。
母子健康手帳の交付などは予約制なので、窓口対応の確認をしたり、これから予定されている健診や教室で使う資料を作成したり、通知を準備したりといった事務作業が中心です。
もちろん、窓口での相談対応や各種届け出の入力作業などもあります。
事業がある日は、朝からその準備で慌ただしくなります。必要な物品や書類を準備して会場へ移動し、設営を行います。
事業が始まれば、受付や案内、そして個別相談の対応であっという間に時間が過ぎていきます。事業が終われば、後片付けをして役場に戻ります。そうすると、もう終業時間に近いという日も多いです。
ー事業は月にどれくらいの頻度であるのですか?
山口:大がかりなものでいうと、健診が月に4回、相談日が2回、その他に教室が1〜2回ありますので、月に7〜8回くらいでしょうか。
ただ、これらすべてを私一人が担当するわけではなく、係のメンバーそれぞれに担当があって、みんなで協力しながら進めています。
管理栄養士という仕事のリアル
ー管理栄養士を目指されたきっかけと、筑前町役場を選ばれた理由を教えてください。
山口:中学生の頃から漠然と「食に関わる仕事がしたい」と思っていました。「食事で人を元気にできる」ことに魅力を感じ、管理栄養士を目指しました。
当初は管理栄養士の特色でもある傷病者に対する療養のための栄養の指導に携わりたいという思いがあり、「病院」への就職を考えていましたが、大学の友人に誘われて自治体の仕事を知り、病気になる前の「予防」に携われることに大きなやりがいを感じたんです。
また、筑前町は生まれ育った町であり、地域の方々に支えられてきたという実感があります。育ててもらった恩返しとして、今度は自分が専門知識を活かして住民の皆さんの健康を守りたい。その想いで筑前町役場を志望しました。
ー管理栄養士としてのやりがいや面白みを感じるのはどんな時ですか?
山口:やはり、栄養指導をしている時ですね。
食べたものが体の中でどう働くのか、それが検査結果にどう影響するのか。そういった体の仕組みを、相談に来られた方が「なるほど!」とイメージできるような伝え方ができた時、心から「楽しいな」と感じますし、大きなやりがいを感じます。
ー逆に、仕事の厳しさや難しさを感じることはありますか?
山口:そもそも、私たちが伺うこと自体を拒否されてしまうこともあります。「私は元気だから大丈夫」「特に困ってないから来てもらわなくていい」と言われてしまうことも珍しくありません。
病院での栄養指導は、医師の指示のもとで行われる「治療の一環」です。患者さんにとっては、薬を処方されるのと同じ感覚かもしれません。
でも、私たちの場合は、健診結果などから「このままだと病気になるかもしれない」という方に対してこちらからアプローチします。
相手の方からすれば、「頼んでもいないのに…」と感じてしまうこともあるのだと思います。
そんな時は、「検査結果だけでも受け取ってください」「資料だけでもお渡しさせてください」とお願いして、少しでも役に立つ情報を届けられるように工夫しています。
こうした地道なアプローチが、いつかその方の健康を守ることに繋がると信じています。

ー実際に入庁してみて、働く前のイメージとのギャップはありましたか?
山口:ありましたね(笑)。入庁してすぐ配属されたのが保育所の給食業務だったのですが、栄養指導をしたいと思っていた私にとって、「栄養指導をする場がない…」と最初は少し戸惑いがありました。
ただ、当時の筑前町では、管理栄養士の配属先が給食業務しかなかったんです。配属先の一つとして予測はしていましたが、他の配属先がないとは思っていなかったので、少しショックではありました。
今はこうして保健指導ができる部署に異動でき、あの頃の経験も、食を通じた健康づくりの視点を養う上で、かけがえのないものだったと感じています。
筑前町役場の職場環境
ー職場の雰囲気や人間関係について教えてください。
山口:職種に関わらず、皆さん本当に親身になってくれるので、すごく相談がしやすいですね。どうしても栄養士は私一人なので、専門的な判断に迷うこともあります。
そんな時、保健師さんや事務職の方に相談すると、それぞれの専門的な視点からアドバイスをくれるんです。他職種の方と連携することで学ぶことも非常に多く、日々助けていただいています。
同期も私を含めて8人いて、部署は違いますが、廊下などで会った時に気軽に話せる関係です。
また、労働組合や互助会の活動を通して、レクリエーションや懇親会など、業務外で他部署の方と交流する機会もたくさんありますよ。
ーワークライフバランスはいかがですか?残業や休暇の取りやすさについて教えてください。
山口:残業は、私はほとんどありません。ただ、住民の方が参加しやすいように教室を土日に開催することもあるので、そういった時に時間外勤務が発生することはあります。
休暇については、事業がある日はどうしても休めませんが、それ以外の日であれば調整は可能です。
職員数は限られているので、みんなで日程を譲り合いながら休みを取るという感じです。協力体制がしっかりしているので、取りにくいと感じたことはありません。
自分の時間もしっかり確保して、リフレッシュできています。
ー筑前町役場には現在、正規の管理栄養士は山口さんお一人とのことですが、専門職として一人であることのやりにくさを感じることはありますか?
山口:ないことはないです(笑)。知識的なことであれば、研修に参加したり自分で調べたり、会計年度任用職員の栄養士の方に相談したりもできます。
ですが、正規職員として事業の方向性を考えたり、新しい取り組みを企画したりする場面では、栄養士としての視点で一緒に考えてくれる仲間がいたらもっと良いのに、と感じることもあります。
だからこそ、今回の採用で仲間が増えるのがすごく嬉しいです!

未来の仲間へのメッセージ
ー最後に、これから筑前町の管理栄養士を目指す方へメッセージをお願いします。
山口:市町村の管理栄養士の大きな特徴は、ご家庭を訪問したり、ご本人が必要性を感じていない段階からアプローチできることだと思います。
病気を未然に防ぎ、住民の方の健康な生活を長く支えていく。そこに、この仕事の大きなやりがいがあります。
「住民の皆さんの健康を守りたい」「食を通して地域に貢献したい」そんな熱い思いをお持ちの方と、ぜひ一緒に働きたいです。
皆さんと一緒に頑張れる日を楽しみにしています!
ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年7月取材)