「公務員になるには、まず筆記試験の突破が第一関門。そして仕事は安定しているけれど、少しお堅いイメージも…。」
そんな「公務員の常識」を、心地よく塗り替えてくれる自治体があります。
愛知県の西部に位置し、緑豊かな自然と活気ある市街地が調和する東浦町。この町では、いわゆる「公務員試験」では一般的な筆記試験を行わず、対話を通じて一人ひとりの個性や思いを深く知る「人物重視」の採用を貫いています。
なぜ筆記試験を行わないのか?主体性を大切にする組織で本当に求められる資質とは?そして、愛知県トップクラスを誇るという、その働きやすさの秘密とは。
今回は、東浦町役場 採用担当の野村さんと鈴木さんに、この町が求める人物像から、選考プロセス、そして職員を温かく支える制度まで、じっくりとお話を伺いました。
- まちづくりへの情熱と、それぞれのキャリアパス
- 筆記試験は、ありません。あなたの「ありのまま」を知りたいから。
- 対話で見極める個性。未来を語り合う選考プロセス
- 「誰もがチャレンジできる」風土と、愛知県トップクラスの働きやすさ
まちづくりへの情熱と、それぞれのキャリアパス
ーお二人の自己紹介と、これまでのキャリアについてお聞かせください。
野村:東浦町役場採用担当の野村です。年齢は38歳で、東浦町の出身です。生まれ育ったこの町で働きたいという思いがあり入庁し、今年で16年目になります。入庁後は保険医療課からはじまり、後期高齢者医療制度や子ども医療費に関する業務を担当しました。その後、企画政策課へ異動し、総合計画や実施計画の策定に6年間携わりました。
一度、人事担当を1年間経験した後、係長として子育て支援課で保育園関係の業務に2年間従事しました。そして再び人事の部署に戻り、現在は係長として3年目を迎えています。

鈴木:同じく採用担当の鈴木です。現在は入庁して8年目になります。出身は静岡県掛川市ですが、大学が隣の刈谷市だったこともあり、この地域で就職先を探すなかで東浦町役場にご縁をいただきました。
大学では教員を目指して免許も取得したのですが、最終的には地域に広く貢献できる公務員の道を選びました。最初の5年間は学校教育課(現:教育課)に所属していました。その後、採用担当となり、野村と同じく3年目になります。
緑とまちが調和する、暮らしの真ん中にある場所
ー東浦町出身の野村さんから見て、この町の魅力はどんなところにありますか?
野村:東浦町の一番の魅力は、緑豊かな自然と、暮らしやすい市街地が美しく調和している点だと思います。少し車を走らせれば、ドライブや散歩が本当に気持ちのいい緑の風景が広がっています。
一方で、駅の近くには大型のショッピングモールがあり、日々の買い物に困ることはありません。都会の便利さと、田舎の穏やかさ、その両方を享受できる場所なんです。
また、日本を代表する工業地域である豊田市や刈谷市に隣接しているため、ベッドタウンとしても多くの方に選ばれています。大きな幹線道路があるわけではないので、騒音も少なく、とても静かで住みやすい環境です。まさに、住民の方々の暮らしに寄り添うまちだと感じています。

筆記試験は、ありません。あなたの「ありのまま」を知りたいから。
ー東浦町の採用試験は「人物重視」だと聞きました。その背景を教えてください。
鈴木:東浦町の採用試験の大きな特徴は、一般事務職において、公務員試験で課されるような専門知識を問う筆記試験を廃止している点です。すべては「人物重視」という考え方に基づいています。

野村:「人物重視」としている理由は、試験の点数だけでは測れない、その人の持つ個性や熱意、そして未来への可能性をなによりも大切にしたいからです。
私たちは「選ぶ」側であると同時に、受験者の皆さんに「選んでもらえる」ような自治体でありたい。その思いから、最初から最後まで私たち職員が皆さんと直接関わり、対話を通して一人ひとりの人柄を深く知ることを心がけています。
ー「人物」を見極めるために、面接ではどのようなポイントを大切にされていますか?
野村:大きく分けて3つの点を重視しています。
1つ目は「ご自身の思いを、明確に持っているか」です。「なぜ東浦町なのか」「この町で、自分は何を成し遂げたいのか」という情熱を、ご自身の言葉で語ってほしいのです。
2つ目は「ご自身の言葉で、話せているか」です。インターネットや書籍で調べたような、型にはまった模範解答は求めていません。たとえ拙くても、飾らない言葉でも、ご自身の心から湧き出る言葉で話していただくことで、その方の人柄や本質が伝わってくると信じています。
そして3つ目が「正直であること」です。自分を良く見せようと、本来の自分とは違うことを話しても、長年多くの人を見てきた私たちには、やはり分かってしまいます。例えば、志望動機で立派な理想を語るよりも、正直な気持ちの方が、かえって私たちの心に響くこともあります。
この3点を大切に、ありのままの自分で面接に臨んでいただければ、あなたの魅力はきっと伝わるはずです。
対話で見極める個性。未来を語り合う選考プロセス
ー「人物重視」の考え方を実現するために、選考ではどのような工夫をされていますか?
鈴木:一次試験の集団面接では、1分間の自己PRの時間を設けています。ここでは、ご自身の個性や強みを自由に表現していただきます。二次試験では「集団討論」を、そして三次試験で最終の個人面接を行います。
ー「集団討論」って、少し緊張しそうなワードですね…。
野村:そうですね、「集団討論」という言葉は少し堅苦しいかもしれません…。今後は「グループディスカッション」という呼び方に変えてしまおうと思います(笑)。
例えば、「もしあなたが町長だったら、東浦町をどんなまちにしたいですか?」といったような、答えが一つではない、自由な発想が求められるものを出題します。私たちが知りたいのは、完璧な正解ではありません。そのテーマに対して、皆さんがどのように考え、アイデアを出し、そして周りの人と協力しながら一つの結論を導き出していくのか、そのプロセスを大切に見ています。
活発な議論の中で見えてくるコミュニケーション能力や協調性、そして何より、まちの未来を真剣に考えるその主体性こそが、評価の対象となります。

「誰もがチャレンジできる」風土と、愛知県トップクラスの働きやすさ
ー新しい町長のもとで、職員の働き方や組織の文化に変化はありましたか?
野村:私たちの町長は「誰もがチャレンジできるまち」というビジョンを掲げています。これは住民の方々だけでなく、私たち職員に対しても同じです。前例がないからと諦めるのではなく、職員一人ひとりが主体性を持って新しいことに挑戦できる。そんな組織でありたい、そして、そうあってほしいという強いメッセージを受け取っています。
特に若い職員には、新人だからと遠慮せずに、そのフレッシュな感性を存分に活かして、どんどん新しい風を吹き込んでほしいと願っています。

ー働くうえで、ワークライフバランスの観点も非常に興味のある方が多いと思います。東浦町の働く環境について教えてください。
野村:東浦町は、職員が心身ともに健康で、長く働き続けられる環境づくりに非常に力を入れています。まず、年次有給休暇の平均取得日数は16.8日で、これは愛知県内の自治体の中でもトップクラスの実績です。
上司が率先して休暇取得を促す文化が根付いているので、若手職員も気兼ねなく休むことができます。
育児休業の取得率も高く、2023年度は男女ともに100%を達成しました。2024年度も女性は100%、男性も80%以上と、非常に高い水準を維持しています。

また、新規採用職員には「フォロー制度」という、年の近い先輩職員が一人ひとりについて、仕事のことからプライベートな悩みまで、親身に相談にのる体制を整えています。新しい環境でも安心してキャリアをスタートできると好評です。
さらに、働き方改革の一環として、役場の窓口が開いている時間を「8時45分から16時まで」に短縮しました。これにより、職員は窓口が閉まった後の時間を事務処理に充てることができ、時間外勤務の縮減にも繋がっています。
そして、特筆すべきは、愛知県内で初めて導入した「子育て部分休暇」という独自の制度です。従来、育児のための部分休業制度は未就学児を持つ職員が対象でしたが、これを小学校3年生までのお子さんを持つ職員に拡大しました。朝夕最大2時間まで休暇を取得できるため、子育て世代の職員が仕事と家庭を無理なく両立できるよう、町が全面的にサポートしています。
ー最後に、これから東浦町の受験を考えている方にメッセージをお願いします。
野村:公務員の「安定」という魅力に加え、東浦町には、職員一人ひとりが主役となって「挑戦」できる風土と、それを支える温かい制度があります。皆さんと一緒に、この町の未来をつくっていける日を楽しみにしています。
ー今日はありがとうございました。
対話を通して、一人ひとりの個性と熱意を深く知ろうとする東浦町の採用スタイル。
その根底には、受験生を「選ぶ」側であると同時に、「選ばれる」存在でありたいという、真摯で温かい想いが流れているのだと感じました。
特に印象的だったのは、「完璧な模範解答ではなく、たとえ拙くても、ご自身の心から湧き出る言葉で語ってほしい」というメッセージです。これはきっと、「飾らないありのままのあなた自身が、東浦町にとって一番大切な資源なのだ」という、揺るぎない想いの表れなのかもしれません。
愛知県トップクラスの有休取得率や、全国的にも先進的な「子育て部分休暇」など、職員の暮らしを大切にする制度もまた、東浦町の優しさを物語っています。
仕事も生活も、そして子育てさえも、無理なく豊かに両立できる。そんな「人」を真ん中においた東浦町で働いてみませんか。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年9月取材)