13年間の消防士キャリアを経て、未経験の「土木技術職」へと転身した宇陀市役所の渡辺さん。結婚を機に、家族との時間を守りつつ「誰かの役に立ちたい」という想いを土木の世界で見出しました。
救助からインフラの「復旧」へ。未経験者を温かく迎え入れる宇陀市の風土や、劇的に変化したワークライフバランス、地域住民と二人三脚で歩む仕事の醍醐味について、新たなキャリアを切り拓いた渡辺さんにお話を伺いました。
- 13年の消防士生活を経て、新たな「貢献」の道へ
- 未経験からでも飛び込める、宇陀市の「開かれた門戸」
- 現場で学び、地域と向き合う。1年目の奮闘と成長
- 災害現場で感じた、消防と土木の「絆」
- 劇的に変わった生活と、宇陀市で描く未来
13年の消防士生活を経て、新たな「貢献」の道へ
ーまずは渡辺さんのこれまでの経歴と、宇陀市で働くことになった経緯を教えてください。
渡辺:出身は滋賀県の大津市です。私は高校を卒業してすぐに、地元の滋賀県で公務員の道に進みました。具体的には大津市の消防局に採用され、そこから13年間、消防士として勤務していました。
宇陀市には結婚を機に移り住み、昨年の4月に宇陀市役所へ入庁しました。
ー13年という長きにわたって消防士をされていたのですね。そもそも、なぜ消防士を目指されたのでしょうか?
渡辺:根底にあったのは「誰かの、人のためになる仕事がしたい」というシンプルな想いです。地元の大津で、これまで自分を育ててくれた地域、そして関わってきた友人や家族を災害や事故から守れる存在になりたい。そう強く願っていました。
実はこの夢、小学4年生の頃に消防署見学へ行った時から抱き続けていたものなんです。その時の「かっこいいな」という憧れをそのまま形にした、まさに私の人生の第一章でした。
ーそこからなぜ、全く異なる「土木」という分野へ転職を決められたのですか?
渡辺:大きな転機は結婚、そして子どもの誕生でした。妻が宇陀市の出身だった縁もあり、家族との時間をより大切にしたい、子どもの成長を一番近くで見守りたいと考えるようになったんです。
前職は24時間勤務でしたから、家族と過ごす時間にどうしても制約がありました。転職にあたって、これまでの「誰かの役に立ちたい」という軸は譲れなかったのですが、その中で目に留まったのが土木職でした。
消防は救急・救助がメインですが、土木はその後の復旧や予防を担う仕事。現場の種類は違えど、地域の安全を守り、人々の暮らしを支えるという点で通じるものを感じたんです。インフラという新しい面から、消防で培った「現場を支える」という志を注ぎたいと考えました。

未経験からでも飛び込める、宇陀市の「開かれた門戸」
ー土木技術職といえば専門知識が必要なイメージですが、渡辺さんは専門的な教育を受けていたのですか?
渡辺:いえ、実は全くの未経験でした。普通なら土木職の公務員試験は、学校で専門的な勉強をしていないと受験資格すらないことが多いですよね。でも、宇陀市はちょうど私が受験する前年から、採用基準における資格や学歴の条件を緩和したんです。
年齢制限さえクリアしていれば、未経験からでもチャレンジできる枠ができました。これは私にとって千載一遇のチャンスでした。
ー入庁後のサポート体制についてはどのように聞いていましたか?
渡辺:試験の段階で、「合格後は先輩たちがしっかりとマンツーマンでサポートする体制があるから安心してほしい」と言われていました。
その言葉を信じて飛び込みましたが、実際に入ってみると本当にその通りで、知識ゼロの私を、周りの皆さんが温かく迎え入れてくれました。
現場で学び、地域と向き合う。1年目の奮闘と成長
ー現在は具体的にどのような業務を担当されているのでしょうか?
渡辺:建設課に所属し、主に道路の維持管理と、それに付随する設計業務を担当しています。
宇陀市には「榛原、室生、大宇陀、菟田野」という4つの地域がありますが、現在は3人の技術職でこれら全域を分担しています。私はその中の「菟田野地域」の担当として、地元の方々からの要望を受け付ける窓口としての役割も担っています。
ー入庁1年目から、かなり責任のある仕事を任されているのですね。
渡辺:はい。今年度だけで既に5〜6件の工事を担当しました。具体的な流れとしては、まず現場へ行って測量をし、CADを使って図面を引きます。それから必要な資材の「数量計算」を行い、積算して金額を算出。
入札・契約を経て工事が始まれば、施工業者さんと調整をしながら進捗を管理し、最後は設計通りに仕上がっているか検査を行います。
まさに【一本の道ができるまでの最初から最後まで】に関わっています。

ー未経験からのスタートとのことですが、特に苦労されたことは何でしたか?
渡辺:やはり一番は専門用語ですね。器具や部材の名前一つとっても、最初は全くピンと来ないことばかりでした。
その都度、先輩に「今の話、どういう意味ですか?」と食らいついたり、業者さんにも「実はまだ不慣れなので、一から教えてください」と素直にお願いしたりして、がむしゃらに知識を吸収してきました。
職場には知識豊富な先輩ばかりで、どんな些細な質問をしてもすぐに明確な答えが返ってきます。そんな心強いサポート体制のおかげで、未経験の私でもこの1年で着実に成長することができました。
ー地域住民の方とのやり取りについてはいかがですか?
渡辺:要望の数は想像以上に多いです(笑)。「あそこの道路に穴が開いている」「カーブミラーを付けてほしい」といった切実な声が毎日届きます。
最初の頃は一人で現地確認へ行っても「どう判断すればいいのか」と戸惑いましたが、1年が経った今ではある程度自信を持って受け答えができるようになってきました。
住民の方の困りごとを直接聞き、それを形にして解決できる。このスピード感は土木職ならではのやりがいだと感じています。

災害現場で感じた、消防と土木の「絆」
ーこの1年間で特に印象に残っている現場や出来事を教えてください。
渡辺:昨年の6月に発生した記録的な大雨の時のことです。側溝から水が溢れ出し、道路の冠水や土砂崩れが市内のあちこちで発生しました。私はまだ入庁して間もなかったのですが、先輩と二人で丸一日、車で市内を駆け回りました。
土砂をどかしたり、現場の安全を確認したり。次から次へと入ってくる通報に対応する様子は、まさに消防士時代の緊急出動そのものでした。
ーまさに消防での経験が活きた瞬間だったのではないでしょうか?
渡辺:そうですね。パニックになりそうな状況でも、前職で培った「冷静に現場を把握する力」が役に立った気がします。
ただ、消防と土木の違いを一番強く感じたのもこの時でした。消防は現場で救助することが第一ですが、土木はその後に「どう復旧させ、どう防ぐか」という工程までを担います。
目の前の現場が少しずつ元の姿を取り戻していく過程を間近で見て、住民の方から「すぐに来てくれて助かった、ありがとう」と声をかけていただいた時、改めて【この道を選んで間違いなかった】と実感しましたね。

劇的に変わった生活と、宇陀市で描く未来
ー職場の雰囲気についても教えてください。
渡辺:職場の風通しは非常に良いですよ!私のように転職してきた人もいれば、年齢が近い若手もいて活気があります。専門知識がなくても、先輩たちに気兼ねなく質問できる雰囲気があり、わからないことはすぐに解消できる環境です。
また、日ごろから先輩たちと一緒にランチに行ったり、仕事帰りにはプライベートな話をしたりと、本当に仲が良いですね。

ー転職して、生活リズムはどのように変わりましたか?
渡辺:これが一番大きな変化かもしれません。前職では「24時間勤務して、次の日の朝に帰宅する」という過酷なスケジュールでしたし、何より通勤に往復4時間かかっていました。
それが今、宇陀市内に住んでいるので、通勤時間はなんと徒歩5分です(笑)。家族と過ごす時間が劇的に増えました。
ー徒歩5分!それはお子さんとの時間も増えたでしょうね。
渡辺:はい。毎朝、1歳と5歳の子どもと一緒に起きて朝ごはんを食べ、保育園の送迎もしています。夜は一緒にお風呂に入って、寝かしつけもできる。子どもが一日でどれだけ成長したかを、毎日隣で感じられるのが本当に幸せです。
自分で仕事の段取りをしっかり組めば残業もコントロールできますし、有給休暇も柔軟に取得できる環境には感謝しかありません。
ー最後に、宇陀市の土木技術職を目指す方へメッセージをお願いします。
渡辺:「土木なんて難しそう」と思っている方にこそ、宇陀市を知ってほしいです。地元を良くしたい、誰かの力になりたい。その想いさえあれば、技術や知識は後からいくらでもついてきます。
私のような全くの未経験者でも、1年後には現場を任され、地域の方に感謝される喜びを感じることができています。宇陀市の美しい風景を守り、創っていく楽しさを、ぜひ一緒に味わいましょう!

ー本日はありがとうございました。
かつて「赤色灯」を背負って走り抜けた街を、今は「現場用ヘルメット」を被り、一歩一歩踏みしめるように歩く渡辺さん。その穏やかな語り口の裏側には、消防士として命の尊さを知るからこその、インフラへの強い責任感が宿っていました。
「通勤時間が徒歩5分になって、子どもの笑顔が増えました」と語る瞬間の優しいパパの顔こそが、この転職の正解を物語っているようです。
命を救う強さと、日常を支える優しさ。その両方を持つ彼が、これからの宇陀市の未来を明るく照らしていくに違いありません。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年3月取材)



