和歌山県有田市役所のふるさと創生室ブランド推進係で働く吉田さんにお話を伺いました。
—これまでのご経歴を教えてください。
吉田:平成27年から有田市役所で働き始め、今年で9年目です。市役所には中途採用で入庁しまして、前職は民間病院の事務職として働いていました。
有田市は私の地元で、もともと私の父が有田市役所で働いていました。子どものころから市役所で働く父の姿を見ていて、「一緒に働きたい」と思っていたんです。念願が叶って公務員になることができ、短期間ながら父と一緒に仕事ができたのが非常に嬉しかったですね。
入庁後は市立病院に出向し、総務や人事、運営や企画などに携わりました。3年目には、本庁のふるさと創生室でふるさと納税に関係する仕事を担当。
その後「有田みかん課」という部署の所属になりました。有田市はみかんが有名なので、このような課があるんですよ。有田みかん課には3年間所属し、今はふるさと創生室のブランド推進係で働いています。
今も、「原産地呼称管理制度」という有田みかんに関わる事業を中心に担当しています

—「原産地呼称管理制度」とはなんですか?
吉田:平成22年からスタートした制度です。有田みかんに対する安心感や信頼感のお墨付きを持たせ、ブランド化していこうという取り組みです。国内でもワインや焼酎などに取り入れられていますが、みかんに関しては有田市が日本初なんですよ。
原産地呼称管理制度の流れを説明しますと、まずは市の職員がみかん畑を視察し、品質管理ができているかを審査します。これをクリアしたら、収穫したみかんを市役所に持ってきてもらい、糖度を計測。糖度12度以上という基準をクリアできたら、次は味の審査を行います。


糖度では計れないコクをはじめとする味の審査では、パティシエの鎧塚俊彦さんやマスターソムリエ髙野豊さんなど食のプロに召し上がっていただき、点数をつけてもらいます。この審査で認められて初めて「認定みかん」を謳うことができるんです。認定みかんは本当においしくて、一度食べると他のみかんが食べられなくなるくらいなんですよ。みなさんにもぜひ召し上がっていただきたいです。
こうしてお墨付きがもらえると、みかん農家さんは自分の商品をブランド化しやすいというわけです。また、この認定を取れば、ふるさと納税の返礼品として出せるというメリットもあります。ふるさと納税の返礼品の有田みかんは非常に人気ですし、農家さんの収益向上にも繋がっているんですよ。
—ふるさと創生室ブランド推進係の体制やお仕事について教えてください。
吉田:ブランド推進係は私を含めて3名です。3名で業務を分担し、私は前述の業務、係長は万博関連事業、もう一人がお祭りやマラソンなどのイベント系を担当しています。
原産地呼称管理制度に関する業務では、みかんの旬の時期である11月から12月にかけて審査会を6回行います。そのための審査員の調整をはじめ、審査会当日の運営や終了後の事務処理、合格した方への認定証の発行などが主な業務です。そのほか、SNSでの情報発信やみかん農家さんの販路開拓の補助事業、DX関連のプロモーション業務にも携わっています。
役所と言えば窓口対応や事務処理をイメージされると思いますが、私の場合は人に会いに行ったりアイデアを出す仕事が多く、ルーティンワークは少ないです。新しいことをやりたい私には向いている仕事だと思います。

—みかん課でもみかんに関連する事業をやっていたんですよね。
吉田:はい、有田市と株式会社リクルートさんとの間で包括連携協定を結び、約5年間実施した「CAP(Cheers Agri Project)」の業務が非常に印象に残っています。みかん生産の経営支援やブランドの確立、販売力強化などについて、リクルートさんとともに事業を進めました。
プロジェクトメンバーは10名。直属の上司も同僚もリクルートの方だったので、市役所といった感じはありませんでしたね。また、ルーティン的なこともなく、目標数字達成のために動いていくので、正直しんどかったです。
それでも、リクルートさんとの仕事はとても楽しくて。業務の早さやスキル、仕事に対する考え方など、民間企業の人の仕事を間近で見られたのは非常に勉強になりました。そのおかげで、いま自信を持って仕事に取り組めていると思います。
このプロジェクトは終了しましたが、この時に培った制度やスキーム、ノウハウなどはその後の業務にも活かされており、原産地呼称管理制度をさらに進化させるために取り組んでいます。
また、有田市の外に向けての発信だけでなくインナーブランディングも必要だと実感し、去年は「みかんシンポジウム」を開催しました。市長や市議会議員、生産者だけでなく、原産地呼称管理制度の審査員であるソムリエの髙野豊さんや俳優の大桃美代子さんにも来ていただき、有田みかんのおいしさについてパネルディスカッションをしたんですよ。
—「CAP」の活動はどのように進めていったのですか?
吉田:まずは有田市の現状を知るために、有田市の農家さん全員にアンケート調査を行いました。その結果、農業に携わっている方の平均年齢が66歳、共撰農家の割合が7割、そして過半数の農家に後継者がいない状況。2030年度予測の数値を出したところ、農家さんの平均年齢は79歳、面積や産業規模は縮小傾向にありました。
このままではまずいという危機感を持ちましたね。まずは情報を共有して、農家さんにも危機感を持ってもらうための取り組みから始めました。状況を変えるために、先に始まっていた原産地呼称管理制度に参加してもらうことに注力。ふるさと納税の返礼品として出品できるメリットをお伝えしました。

その結果、平成22年には約20軒だった農家さんの参加数が、令和3年には117軒にまで増加。ふるさと納税に出していただいているみかんの量も5年で634%増加、出荷量や平均単価も右肩上がりで、農家さんの収益向上にも繋がり、有田みかんのブランドも確立されてきました。
次に、販売力の強化にも着手しました。農家さんは生産者としてはプロでも、売るのは素人です。それをどうしたらいいのかということで、販路開拓のための講義や講座を実施。商談会での折衝を有利に進めるために、名刺交換や商談のロールプレイを行いました。その結果、みかん販売単価が前年と比べてアップしたんです。

加えて、市が認定みかんをPRします。日本橋三越本店など、東京で認定みかんのPRイベントを行い、富裕層に向けてアピールしたんです。有楽町のど真ん中でみかん狩りができるイベントなど、毎年開催しており今年で7年目になるのですが、リピーターの方も来てくださるようになりまして。
「有田みかんが一番おいしい」とか「みかんは苦手だけど有田みかんは食べられる」なんてお声を直接聞くことができるので、非常にやりがいがありますね。

—これから取り組みたいことを教えてください。
吉田:有田みかん産業を100億円規模にまで成長させたいです。そのためには、さらなる原産地の進化やみかんの高品質化を図り、高単価で売れる仕組みづくりに取り組まなくてはなりません。また、新規就農者を増やすのも大切です。そのための制度について検討したいところです。
また、有田みかんの差別化を図りたいと考えています。生産地域別の味の違いを追求していけば、さらなるブランド化につながるのではないかと思うんですよ。この仕事はやりがいがあって面白いです。農家さんから「原産地呼称管理制度があってよかった」という声を直接聞けるのが嬉しいです。
農業って、「きつい・汚い・危険」の「3K」だと言われた時代がありました。でも、その「3K」が「かっこいい・感動する・稼げる」の「3K」農業になったらいいなと思っています。その実現のために、ドローンを使った農薬散布の実証実験なども行っています。今後もそんな有田市のみかん農業を盛り上げる仕事に携わっていきたいですね。
ーなるほど。引き続き挑戦を続けていくのですね。そういった動きは有田市では吉田さんだけな形なのでしょうか?
吉田:いえ、有田市は私と同じように手を挙げれば若手職員も新規事業に参加することができる環境です。「エンジン01」という新規事業があるのですが、それが始まる時は職員内でその事業への参加職員の公募が行われました。若手でも新規事業に参加ができて市長や副市長と直接話ができるなんて、全国の市役所でも珍しいのではないかと思います。
私も20代のときにリクルートさんと働いて大きな学びを得たように、今の若手職員にもそうあって欲しいと思っています。

ーありがとうございました。
※本記事は2023年12月7日時点のインタビューに基づくものであります