愛知県みよし市役所で働く藤根さんのインタビュー記事です。
民間企業でシステムエンジニア(以降「SE」)として20年のキャリアを積んだ後、公務員へと転職した藤根さんに、全く異なる環境に戸惑いながらも、新たな知識を吸収し、仕事と生活のバランスを大切にしながら働くことについてお聞きしました。経験が全て活かされるわけではなく、それでも働きがいがある、そんなキャリアチェンジの魅力に迫ります。
- SEとして20年。公務員へのキャリアチェンジ
- 新たな環境への挑戦。前職の経験は活きるのか
- 「毎日が新しいことの連続」。ゼロから学ぶ楽しさとやりがい
- 仕事と生活の調和。転職で掴んだ生活の「余裕」
- 転職を考えているあなたへ。一歩踏み出す勇気を
SEとして20年。公務員へのキャリアチェンジ
ーまずは、これまでのご経歴と転職のきっかけについて教えてください。
藤根:出身は和歌山県で、大学進学を機に三重県に移り、卒業後は名古屋の企業にSEとして就職しました。大学では生物資源学部に所属し、海洋環境の保全に関する研究をしていました。
その大学では、生物資源を活用した化粧品開発の研究をしているゼミがあり、そちらを目当てに進学したのですが、人気のゼミだったため希望は叶いませんでした(笑)
私が入った海洋学のゼミは第二希望だったのですが、その分野ではとても有名な教授がいたということもあり、結果的にとても充実した研究を行うことができました。ダイビングのライセンスを取得し、実際に海で調査したりもしました。

ー化粧品や海洋環境保全といった興味から、なぜSEになろうと思ったのでしょうか?
藤根:当時は就職氷河期だったこともあり、希望する職種だけではなく、とにかく幅広い業界を調べ、受験をしていたんです。
システム関連にものすごく興味があったというわけではないのですが、漠然と「手に職がつくかな」という思いがあり、将来のことなども考える中でSEになることを決めました。
卒業後はSEとして20年間、産業系の工場システム開発や公共系の国保システム開発など、幅広い分野に携わり、開発から運用まで一貫して担当したこともありました。
ーまさに第一線で活躍していた時期かと思いますが、そこから転職に至った理由を教えていただけますか?
藤根:転職を考えた一番の理由は、子育てとの両立です。
子どもが2人いるのですが、みよし市の自宅から名古屋の勤務先まで、通勤をしつつ育児をするのが、正直なところ厳しいと感じていたんです。
そんな時に、家族がたまたまみよし市の社会人経験者採用の募集を見つけて、「募集してるらしいよ」と教えてもらったのがきっかけでした。
みよし市に住んでいたこともあり、手続きなどで市役所に訪れる機会もあったのですが、一市民として、子育て環境を中心に市がどんどん良くなっていくのを肌で感じていたんです。
もし市役所で働いたら、自分が関わった仕事の成果を、市民として直接感じられるかもしれないと思い、チャレンジしてみようと決めました。
ー長く勤めてからの転職ですが、迷いはなかったですか?
藤根:意外とすぐに決断してしまったので、あまり迷うことはなかったですね。
前職で国保システムにも10年ほど関わっていたので、公共系の仕事には馴染みがありましたし、ちょうど世の中もDX化の流れが加速している時期だったので、「これまで培ってきたSEの経験を、今度は市役所という立場で活かせるかもしれない」と思いました。
もちろん、採用はあくまで「社会人経験者枠」だったので、必ずしもデジタル関連の部署に配属されるとは限りませんでしたが、これまでの経験と市民としての視点の両方を活かして、市に貢献したいという気持ちが強かったですね。
ー転職するにあたって、新しい環境への不安はありませんでしたか?
藤根:もちろんありました。採用試験の間はバタバタとしていて、あまり不安を感じるような時間もなかったのですが、合格通知をもらってから「本当にやっていけるのかな…」という不安が猛烈に襲ってきました。
20年も同じ環境にいたので、新しい職場に馴染めるか、若い人たちとうまくやっていけるか、すごく心配でした。
でも、配属初日にその不安はなくなりましたね。職場の皆さんがとても温かく迎え入れてくれて、「ここなら大丈夫そうだ」とすぐに感じることができました。

新たな環境への挑戦。前職の経験は活きるのか
ー実際に入庁してみて、前職(民間企業)とのギャップは感じましたか?
藤根:それはもう、たくさん感じました(笑)
一番の違いは、仕事の進め方や目標設定の考え方です。民間企業、特に私がいたSEの世界では、「コスト」や「利益」、そして「納期」を絶対的な目標として仕事を進めていました。いかに利益を出し、期間内にシステムを完成させるか。それが最優先事項だったんです。
それが市役所では、優先すべきは利益ではありません。もちろん、税金を無駄にはできませんが、それ以上に「政策を実現すること」が重要になります。
最初は、政策や総合計画といった大きな目標が設定され、そこに向かって日々業務を進めるという考え方に対し、「まず何をすればいいのだろう?」と戸惑いましたね。
求められていることが根本的に違うので、その感覚を掴むのが難しかったです。
あとは、情報の幅広さですね。SE時代は、極端な話、自分が担当するシステムに関する情報だけを突き詰めていればよかったのですが、市役所では国や県の動向、国政など、気にしなければいけない情報の範囲が格段に広くなりました。
現在は各課が使っている業務システムの安定稼働を支援する立場なので、それぞれの業務内容まである程度理解する必要があり、これも大きな違いだと感じています。
ーSEとしての経験がとても長かったかと思いますが、前職経験は活かされていますか?
藤根:正直に言うと、経験を活かして活躍できるだろうという思いで入ってきたのですが、実際には経験がそのまま活かせているという感覚があまりありません(笑)
公文書の独特の言い回しや決裁方法といった、そもそもの仕事の進め方が全く違うので、このあたりはゼロから覚えることばかりです。
また、私は業務システムの開発が専門だったので、インフラやネットワークについてはあまり経験がなかったのですが、今の部署では、どちらかというとネットワークエンジニアとしての知識を求められることが多いです。
なので、一言で「SEの経験がある」といっても、これまでやってきたことがあまり活かせていないと感じることは多いですね。

ただ、これまでの経験から、システム全体の構成や、何かトラブルが起きた時の「勘どころ」のようなものは身についています。
各課からシステムについての相談を受けた時に、話の全容を素早くイメージできたり、問題の原因に見当をつけられたりするのは、これまでの経験があるからこそだと思います。
登場人物や設定は分からなくても、物語のあらすじは理解できる、という感じでしょうか。そこは少しアドバンテージかなと感じています。
「毎日が新しいことの連続」。ゼロから学ぶ楽しさとやりがい
ー現在の具体的な業務内容と、仕事のやりがいについて教えてください。
藤根:現在はデジタル戦略課に所属しています。
業務内容は多岐にわたっていて、庁内のパソコンやプリンターといったICT機器の管理から、各種システムの契約関連業務、ホームページの更新、手続きのオンライン化の取りまとめなど、本当に様々ですね。庁内全体をサポートする「社内SE」と言う方がイメージしやすいかもしれません。
やりがいという意味では、今はとにかく毎日が新しいことの連続で、それを一つひとつ覚えていくのが楽しいという感覚ですね。
また、目の前の課題を解決したり、庁内の職員から「助かったよ」と言われたりすることに、ささやかな喜びを感じています。市民の方と直接関わる機会は少ないですが、庁内の職員を通して、間接的に市民の役に立てているのかなと思っています。

ー先程の話で、「自分の仕事の成果を直接感じられる」という期待を持っていたとのことですが、実際に働いてみていかがですか?
藤根:それについては、まだ実感できるまでには至っていないですね。今はまだ、目の前の業務を覚えるのに必死な段階です。
でも、これから様々な業務に関わっていく中で、自分が提案したことで業務が効率化されたり、市民サービスが向上したりする場面に立ち会えるかもしれないと思うと、とても楽しみですよね。
市役所の業務は本当に多岐にわたっているので、いずれは自分の経験がもっと活かせるような機会があったり、逆に全く未経験の分野で新たなやりがいを見つけることもあるかもしれません。
仕事と生活の調和。転職で掴んだ生活の「余裕」
ー転職によって、働き方はどのように変わりましたか?
藤根:前職も比較的働く環境には恵まれていたのですが、一番大きいのは通勤時間が短くなったことです。
名古屋まで通勤していた頃と比べ職場がすごく近いので、業務が終わればすぐに帰宅できるんです。これには子どもたちも大喜びです(笑)仕事と育児の両立が、以前よりもだいぶ余裕を持ってできるようになりました。
市役所というと「残業がない」というイメージがあるかもしれませんが、実際は部署や時期によって忙しさは全然違います。
ただ、今の部署は業務が担当ごとに割り振られているということもあり、比較的自分のペースで仕事を進めやすい環境です。今日は頑張って残業して、明日は子どもの用事があるから定時で帰る、といったコントロールがしやすいのはありがたいですね。
お休みもとても取りやすい環境だと思っています。「しっかり休んで、しっかり働く」という、メリハリのある文化が根付いているように感じます。

転職を考えているあなたへ。一歩踏み出す勇気を
ー最後に、転職を考えている方へメッセージをお願いします。
藤根:私は、今振り返ってみても転職して本当に良かったと思っています。
「転職しようかな」と考えている人は、たくさんいると思いますが、そこから実際に一歩を踏み出すのって、すごく勇気がいりますよね。私も、もし家族が背中を押してくれなかったら、今も同じ会社で働いていたかもしれません。
でも、いざそのハードルを越えてみると、新しい世界が広がっていました。自分のやりたいことや、これからどうしていきたいのかが、前よりもクリアに見えてきた気がします。
もし今、あなたが転職を迷っているなら、思い切って一歩踏み出してみてほしいです。やってみなければ分からないことばかりですし、意外なところに新しい発見や楽しさがあるかもしれません。
その一歩が、きっとあなたの可能性を広げてくれるはずです。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年7月取材)