山形県金山町役場には、自ら民間のクリエイターと組んでクリエイティブディレクションを行う方、映像や広報紙を作る方といった職員が在籍しています。今回はそんなクリエイターとしての側面も持つ、総務課で働く堀 実玖(ほり みく)さんと、産業課で働く丹 健一郎(たん けんいちろう)さんにお話しを伺いました。
—これまでのご経歴を教えてください。金山町で働く前はどんなお仕事をされていましたか?
堀さん:私は高校卒業後、公務員専門学校に1年間通い金山町役場に入庁しました。
丹さん:私は中途採用で金山町役場で働き始めました。関東圏の大学を卒業した後、印刷会社に1年半、外資系のアパレル関連会社に2年半勤務しました。金山町の出身なのですが、26歳のときに戻ってきました。
—なぜ公務員として働こうと思われたのですか?
堀さん:正直な話、学生の頃は町には楽しいものがないので上京しようと考えていましたが、高校の生徒会活動で地域のボランティア活動をしているうちに、気持ちが変わったんです。
地域活動へ参加する中で、町には魅力的な、モノや人が沢山いることに気づくことが出来たし、活動の中で役場職員の働き方をみて、この人たちと働きたい、金山町役場で働くのもいいなという思いが芽生え、試験に向け勉強を始めました。
丹さん:私も金山町の出身なので、いつかは戻って来ようと思ってはいました。直接のきっかけは、親から金山町役場採用試験の書類が送られてきたことです。試験までの期間が短く、公務員試験対策は不十分でしたが、とりあえず受けてみようかなと。実家に住む祖父母には内緒で受けたので、「結婚式に出席するために帰省した」とそれらしい説明をして採用試験を受けに帰ってきたんですよ(笑)。
—入庁されてからはどのような部署を経ていますか?
堀さん:1年目から3年目は教育委員会で青少年の健全育成やボランティア活動を担当していました。4.5年目は健康福祉課で子育て支援の担当になり、現在は総務課広報・DX推進係で働いています。
丹さん:僕は入庁して13年目になります。最初は堀さんと同じ教育委員会の青少年教育に関連する部署で4年間働きました。その後は林野庁に出向し、東京で2年働きました。その後こちらに戻ってきてから産業課商工観光係を担当して7年目になります。
—現在の担当業務について教えてください。
丹さん:商工・観光業の企画や支援がメインです。金山町にいる事業者・商店への支援という町内向けの仕事、観光という町に人を呼び込む町に向けての仕事と、ある意味正反対の業務を並行して行っています。商工観光係の担当は2名ですね。
堀さん:総務課 広報・DX推進係として、広報かねやまの発行に向けた取材・撮影・編集や町公式ホームページやSNSの更新を行い、情報発信や、金山町のファンが増えるような魅力発信を行っています。係は3名おり、それぞれの担当業務を行っています。
—おふたりともにクリエイティブ性を求められる業務も対応されているとお聞きました。その詳細について教えてください。
堀さん:学生時代から写真を撮ったり、動画編集をするのが好きで、友だちにサプライズ動画を作ったり、文化祭で放映するミュージックビデオの制作などを行っていました。
町の動画を制作することになったのは1年ほど前で、個人のSNSでアップしていた動画を見た職員の方からお声がけいただき、業務として金山町の動画を制作することになりました。
最近は、職員採用のためのPR動画を作成しました。応募者を増やすため、これまでも広報誌やホームページを活用し情報発信を行ってきましたが、今年度はおもいきって他の自治体では見られないようなインパクトが強いポスターの制作や、働いている姿がより伝わりやすいPR動画を制作しました。
丹さん:私は、町観光のコンテンツ「k-hour」の企画運営を担当しています。でも、堀さんのようなクリエイターではなく、プロデュース側に回ることが多いです。デザインスキルがある人や動画制作ができる人など、いろんな人の関係性をつないでチームを作り、これまでPR動画を6本制作しました。
もともと、令和元年に同プロジェクトを、冊子の制作から始めました。ただ、冊子が完成した頃に新型コロナが流行してしまって。そんな状況でも金山の時間をいろんな人に届けたいと思ったのをきっかけに、動画コンテンツを制作しようと思いました。
それ以降は町総合パンフレットも「k-hour」に統一し、同僚の地域おこし協力隊と一緒に金山町の関係人口を増やすための事業とも連動させました。
ーチームを作ってクリエイティブを行われておりますが、どういった方々なのですか?
丹さん:以前、自分で仲間を集めて自費でフリーペーパーを制作していたことがあるんです。その時の活動を介して、今仕事をお願いしているクリエイターさんたちとつながりができたという感じですね。
金山町の一瞬の美しさや豊かさを切り取って町外の人に伝えるため、敢えて第三者の視点を入れてチームとして取り組んでいます。今年の春に公開した動画では23歳の若いクリエイターが監督したものなのですが、金山町を通してこういった若い世代が活躍する機会が増えたらいいなと思っています。
自分のプライベートな取り組みから新しい業務を立ち上げるきっかけになったわけですが、友人と面白いことがしたいという思いや、金山町を楽しくしたいとか、自分の興味のあることと業務がうまくつながり関係人口も創出していけた感じですね。
ーこういった新たな業務を始めるのは大変ではなかったですか?
丹さん:最初は止められたり、理解してもらえないこともありました。でも諦めず、失敗もたくさんありましたが、やり続けてきて今があると思いますし、最近は周囲からも頼まれることも増えました。
やりたいことをきちんと説明して周囲に伝え続けてきたことも非常に大きかったです。民間の人たちの手を借りていますし、仕事として関わってもらう以上は僕がブレるわけにはいかない。
だからこそコンセプトや考えをしっかりと固め事業の目的や根拠をクリアにしていました。新事業を実施するために、自分で町長にプレゼンしたこともあります。
堀さん:課の皆さんが「新しいことをガンガンやっていこうぜ!」といったタイプの方なので、新たなことを始めるのに大変さは感じられなかった。比較的自由にお仕事をさせてもらっていると感じています。
公務員が自席で動画の編集作業をしているということに、違和感を感じることもありましたが、「動画での情報発信も含めて広報だよ」と言っていただき、今は思いきって仕事が出来ています。理解がある職場だと思いますね。
現在は、「山形ふるさとCM大賞」に応募予定で、CMの制作に向け企画や準備を進めている他、町公式Instagramのアカウントを制作中です。
※編集部追記 2023年12月18日※
堀さんが作成したCMが、「山形ふるさとCM大賞」で、「手作り部門 賞」を受賞しました!実際の動画はこちらです。
—地元住民の方の反応はいかがですか?
丹さん:地元のおじいちゃんやおばあちゃんや家族の方等に動画に出演してもらったときは、とても喜んでもらえまして。「k-hour」のプロジェクトは、県のデザイン賞をいただいたこともあります。
こういった町民の方々の笑顔をはじめ、金山町らしさや豊かさ、温かみを町外の人にも伝えていきたいですね。いろんな媒体を通じて多くの人に見てもらい、それをきっかけに金山町に来てもらえたら、きっとこの町のファンになってもらえると思います。
堀さん:広報かねやまや、制作した動画の感想を町民の方にいただくことがあります。「伝わる広報」「読みたいと思えるような広報」を目指して、自分なりにこだわって制作しているので、「今月号の表紙よかったよ」なんて言ってもらうとすごく嬉しいし、ありがたいです。
職員採用試験のPR動画は、山形新聞や河北新報といった地元メディアにも取り上げていただきました。制作したものが広まって、思いが伝わっていると感じることができたので、やってよかったと思いますし、次へのモチベーションになりました。
—業務で大変な点や気をつけていることはありますか?
堀さん:行政情報を分かりやすく正確に発信することはもちろんですが、町の魅力を発信して、金山町のファンや町づくりに興味を持ってくれる方が一人でも多く増えてくれたら嬉しいと思っています。広報誌については「伝わる広報」「読みたいと思えるような広報」を目指して制作しています。毎月2回の広報誌の発行なので、締め切り前は特に大変ですね。締め切り前は胃をキリキリさせています。
丹さん:イベントでも何かを作る業務も、やっているときは楽しいんです。でも楽しいだけで終わらせるのではなく、フォローや課題のフィードバックと、その後につなげることを意識して働いています。その場限りで終わらせるのではなく、なにかしらを次につなげていけたらと思っています。
—新しいことにどんどん取り組まれているおふたりですが、金山町役場がそういったことをやっていける風潮があるんですかね?
堀さん:そういった風潮はあると思います。主観ですが、金山町役場は「古くて良いモノは残し、新しくていいものは取り入れよう」という柔軟な考えがある自治体だと感じています。異動で複数の課を経験しましたが、どの課もそうだと思います。
丹さん:職員の自主性を重視してくれる部分があるように感じます。職員が提案して、各課を横断して取り組むプロジェクトチームが立ち上がったこともあります。職員同士が連携し、町民の方のための企画や事業について議論したり、学ぶ場もあるんですよ。
同世代の職員同士の交流があるだけでなく、若い職員から管理職にも相談しやすい環境もあります。チームとして働けているという感覚がありますね。
—おふたりは自分の得意領域やプロフェッショナル性を伸ばす素晴らしいキャリアを歩まれていますよね!ただ、とはいえ今後異動によって思っていない仕事に就くこともあるかと思います。これからの自身のキャリア形成についてはどのように考えられているのですか?
丹さん:公務員なので、思いもよらない部署に異動になることもあるとは思います。でもその部署で何年間かがんばれば自分のキャリアになるとも思いますし、どの部署にいっても根本的な部分は変わらないかなとも思っています。
例えば、私がこれまでしてきたクリエイティブやデザインといった視点を活かす仕事はどの部署にもあると思います。子育ての部署ならばお父さんお母さんに対して響くデザインを考えれますし、年配者の方向けならその方々に合わせた文字の大きさや見やすさを意識してチラシを作るなど、いろいろ考えて作りますよね。
また、堀さんも広報の部署に在籍しながら、採用動画を作っていましたよね。行政はまだまだ縦割りで係内で業務を完結させることも多いですが、今後はより大きな枠組みで、お互いに補い合って強みを活かし合うことが大切だとと思っています。だからこそ、自分の強みはどこにいても活かせていくはずです。
—これからチャレンジしたいことはありますか?
堀さん:誌面による情報発信だけでなく、SNSや動画による情報発信にも注力していきたいですね。やっぱり動画の情報発信力ってすごいんですよ。紙面より、情報やが伝わりやすいという感覚があります。自分のアイデアをどんどん形にしていきたいですね。
丹さん:金山町のイメージといえば「k-hour」と言われるようにこれからも頑張っていきたいですね。まだまだ後進の育成にまではできていないので、自分と同じビジョンを持ってくれるような人と一緒に取り組んでいけたらいいなと思っています。行政職員はもちろん、外部の人との関係ももっと紡いでいきたいです。
あとは、台湾から金山町に観光に来てもらえるような新しい企画もを考えています。まずは1週間滞在してもらうんです。町の人とコミュニケーションを取って、海外の方の視点を知り、感想や言葉をカタチにしていきたいと考えています。