「意義があるもの、すぐ効果が出そうなものは、意見が通りやすいんです」
そう穏やかに語るのは、糸田町役場の総務課で課長補佐を務める福本さん。一般行政職として入庁し、総務、福祉、税務、教育委員会など、数えきれないほどの係を渡り歩いてきました。今では職員採用から人事給与、法制執務、議会対応まで、幅広い仕事を担っています。
今回は、公務員や自治体職員として働くことを考えている方に向けて、糸田町の一般行政職の仕事内容や、小さな町ならではの働く魅力について、たっぷりとお話を伺いました。
- 「氷河期で、エントリーシートすら送れない」。公務員という道を選ぶまで
- 総務、福祉、税務、教育…。いくつもの係を渡り歩いて見えた仕事
- 前例のない裁判、カスハラ対応、投票所の集約。コンパクトな組織だからこそ動かせる
- 軸は「素直な心」。若手研修で、世代の壁をほどく
- 災害が少なく、休日も守られる。縁がなくても、飛び込んでほしい
「氷河期で、エントリーシートすら送れない」。公務員という道を選ぶまで
ー福本さんのご経歴と、公務員の道に進まれたきっかけを教えてください。
福本:隣の飯塚市の出身で、大学は大阪の経済学部に通っていました。ちょうど就職氷河期と重なった時期で、金融業界の再編が相次ぐなど、世の中全体が大きく動いていた頃です。大学からの紹介で進めるとなると金融機関が中心で、長く腰を据えて働く道としてはどうだろう、と迷いもありながらの就職活動でした。
大学卒業後、地元に帰っていざ求人を見ると、3年生、4年生の頃には想像もしていなかったことなんですけれど、既卒者は、そもそもエントリーシートを受け付けてもらうこと自体が難しい時代でした。規模の大きな会社ほど、新卒採用の枠そのものを絞っているような状況だったんです。
ーそれで、公務員という選択肢が浮かんだんですね。
福本:そうですね。国や地方の試験は年齢制限くらいしかなかったので、「じゃあ公務員を受けてみようかな」と。最初の年に地元の自治体を受験しましたが、ものすごい倍率で、見事に落ちまして(笑)。翌年に糸田町に合格して、そのまま入庁しました。

総務、福祉、税務、教育…。いくつもの係を渡り歩いて見えた仕事
ー入庁されてから、本当にいろいろな係を経験されていますね。
福本:はい。最初は総務課で電算を担当しました。ネットワークやセキュリティの管理を上司と一緒に、といっても半年だったので、プリンターや端末が動かなくなったときの応急処置くらいで、見習い程度でしたね。
その後は同じ総務課で人事や選挙、交通安全・防犯を担当して、福祉課では生活保護や児童扶養手当、高齢者福祉や介護保険、保育の窓口を。税務課では税や公営住宅の滞納整理、教育委員会では小中学校との対応やコロナ禍の備品調達も経験しました。
係はだいたい、長くても3年に一度くらいで変わってきましたね。
ーさらっとおっしゃいましたが、相当な業務の幅ですね(笑)。
福本:当時の福祉課は1人1係で4人しかいなくて、誰かが休んでも対応できるように、1〜2年でジョブローテーションする体制だったんです。大きな市役所に比べると、知識は広く浅く身についてきたのかなと思います。
担当が変わるたびに一から学び直す大変さはありますが、その分、税金や子育て、介護のことなど、自分の生活にも役立つ知識やスキルが得やすいというのは、いいところだと思います。
前例のない裁判、カスハラ対応、投票所の集約。コンパクトな組織だからこそ動かせる
ーこれまでの中で、特に誇れる成果や、新しく取り組んだことを教えてください。
福本:税務課の債権対策班にいたときは、糸田町では前例のなかった町営住宅の退去のための裁判を実行しました。やったことのない分野を、担当として進めたという経験ですね。
それから、カスタマーハラスメントへの対応です。特定の方からのハードクレームが何年か続いていて、堂々巡りになるようなクレームには一切応対しない、という毅然とした枠組みをつくりました。
ーというと、どのような仕組みなのでしょうか。
福本:要求があれば、まず文書で出してもらう。それが従来と同じ内容かどうかを、町と弁護士で判断し、同じであれば交渉を打ち切る、という流れです。いろいろな課へのクレームも総務課が一手に引き受けて、統一的に対応するようにしました。
ほぼ毎日のように来ていた方が、1年ほど前から一切来なくなりました。
ー職員の負担が大きく変わりそうですね。投票所の集約にも取り組まれたとか。
福本:選挙の補佐をするようになって、もともと4か所あった投票所を1か所に集約しました。事務の効率化と経費の節減が目的です。
期日前投票やデマンドタクシーもありますし、事前に議会への説明や、郵便でのお知らせを2回行ったので、大きな混乱もなく、投票率も特段下がっていません。

軸は「素直な心」。若手研修で、世代の壁をほどく
ー仕事をする上で、大切にしているモットーはありますか。
福本:糸田町の人材育成基本方針に『たくさんの人に愛され信頼される職員』という求められる人物像があるのですが、その上で自分が大切にしているのは『素直な心』です。松下幸之助さんの本をよく読んでいて、そこで説かれている言葉なんです。
素直な心というのは、“みんなに従順”という意味ではなくて、“正しいことや真実であるものに忠実であり続ける”ということです。だから、上司や部下、あるいは自分自身が間違ったことをやっているなら、そこはきちんと反対したり、考えや行動を改めたりする。それが素直なところなのかなと思っています。
ー普段のコミュニケーションでも、意識されていることはありますか。
福本:「この人はこうだよね」という先入観に左右されないように意識しています。“誰が言っているか”ではなく、“言われている内容がどういうことなのか”を吟味して判断するようにしていますね。
また、研修を担当する立場としては、若手より中高年層の意識をアップデートしてもらいたいと考えています。昨年度からは1年目から4年目くらいの若手職員向けに、月1回・1時間ほどの参加型研修も始めました。
好きな食べ物やスポーツを聞くアイスブレイクから入って、組み合わせを変えながら、1年を通じて話したことのない職員がほぼいなくなるようにしているんです。
災害が少なく、休日も守られる。縁がなくても、飛び込んでほしい
ー糸田町ならではの、まちと職場の魅力を教えてください。
福本:面積が8平方キロメートルほどしかない、本当に狭い町です。山がほとんどなく、大きな河川も一つだけなので、近年公務員を悩ませている大規模災害が、これまでほぼ起こったことがないんです。大きな山を持つ自治体だと毎年のように土砂崩れや災害復旧があると聞くので、自分の時間やワークライフバランスを大事にしたい方には、いい環境だと思います。
また、職員は行政職で100人いないくらいなので、全員の名前が分かりますし、一度も話したことがない職員はほとんどいません。相手の性格を踏まえて話を持っていけるので、仕事も効率的に進めやすいんです。
ー最後に、糸田町を目指す方へメッセージをお願いします。
福本:糸田町に全く縁もゆかりもなく、たまたま受験日が合って入ってきた職員もたくさんいます。今は町外出身者が半分ほどなので、『他の町だから』と優先順位が変わることもありません。縁がないからといって不安に思わなくて大丈夫です。
与えられた使命の中で地域住民に貢献することに、喜びを感じている職員が本当に多いんです。やればやるほどやり込める、大きいところにはない手応えがある職場です。
受験できる日程が合えば、ぜひ受けてみてもらえないでしょうか。入ってから物足りない、ということは、きっとないはずです。

ー本日はありがとうございました。
10を超える係の仕事を、まるで地図を広げるように一つずつ丁寧に話してくださった福本さん。広く浅く、とご本人は謙遜しますが、前例のない裁判やカスハラ対応の仕組みづくりの話には、誰よりも深く現場に向き合ってきた手触りがありました。
小さな町だからこそ、意義があると信じたことを、自分の手で動かせる。糸田町の一般行政職には、その「やり込める」余地が、確かに残されているのだと感じた取材でした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年6月取材)



