中川さん(福祉課)と岩田さん(防災危機管理課)のインタビュー記事です。高齢者と障害者向けの「福祉利用券」を、全国で初めてLINE上で完結するデジタルポイントへ移行させた滑川市役所。
別々の係でありながら協力し、DX推進課とタッグを組んで成し遂げた業務改善の裏側とは?熱い使命感と、風通しの良い組織風土について語っていただきました。
- これまでのご経歴
- 全国初!LINEで完結する「福祉利用券」のデジタル化プロジェクト
- 係の垣根を越えた連携と、ポイント制導入に向けた制度見直しの壁
- 現場の負担軽減と市民の利便性向上。DX推進課との強力なタッグ
- 今のうちにやらないと!変わることを恐れない滑川市役所の風土とこれからの挑戦
これまでのご経歴
ーまずは自己紹介と、これまでのご経歴を教えてください。
中川: 令和3年度に入庁し、現在は福祉課で生活保護の業務を担当しています。入庁して最初の2年半は農林課の農政農産係に配属され、鳥獣被害防止対策などに携わりました。その後、令和5年10月に福祉課の社会福祉係へ異動となり、最初は障害者手帳の受付や医療費助成、補装具費支給業務などを担当していました。
岩田: 私は令和4年度に入庁し、現在は防災危機管理課に所属しています。入庁から3年間は福祉課の高齢福祉係に配属され、在宅高齢者福祉の推進、老人クラブの支援、生活支援ハウスの運営などを担当していました。令和7年4月に異動し、今は市の総合防災訓練の実施や、防災資機材の整備などを担当しています。
全国初!LINEで完結する「福祉利用券」のデジタル化プロジェクト
ー今回は、お二人が福祉課時代に一緒に進められた「福祉利用券」のデジタル化について詳しく伺いたいと思います。そもそも福祉利用券とはどのようなものですか?
中川:障害者手帳をお持ちの方と70歳以上の高齢者の方が、市内の銭湯やコミュニティバス、タクシー、理美容店などで使える券です。
基本的には、対象となる方が窓口に来られた際に、紙の名簿を確認してお渡しするというアナログな形で運用していました。
ーデジタル化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
中川:DX施策を課で考えるときに、同事業のデジタル化を提案しました。紙だと、配布ミスが発生するリスクがあり、窓口業務の負担が都度かかります。そこからDX推進課に繋がり、プロジェクトが動き出しました。
ーデジタル化に向けて、具体的にどのように進めていったのですか?
岩田: まずは、現況の配布から利用、そして利用後の券を回収して数えるといったフローを整理しました。そこから、「デジタル化することでどこを省略できるか」「利用者や市役所の職員、そして事業者が楽になる仕様とは何か」をみんなで考えていきました。 令和6年の夏頃から検討をスタートし、事業者へのアンケートなども踏まえて仕様を固め、翌年3月の配布時期に間に合わせるスケジュールで進めていきました。
ー半年ちょっとという、かなりのスピード感ですね!
中川: そうですね。実際、LINE上で申請、管理、利用まで全てが完結するこのシステムは、全国初の取り組みでした。
係の垣根を越えた連携と、ポイント制導入に向けた制度見直しの壁
ー同じ福祉課でも、中川さんは社会福祉係(障害者担当)、岩田さんは高齢福祉係(高齢者担当)と係が違ったそうですが、どのように連携したのでしょうか?
岩田: はい、私が高齢者用の福祉利用券の担当で、中川さんが障害者用の担当でした。デジタル化のプロジェクトは中川さんにメインで進めていただきながら、私も仕様設計などの部分でお手伝いし、一緒に協議を重ねていきました。
中川: デジタルの仕様を考えること自体はそこまで難しくなかったのですが、一番大変だったのは「システムに合わせて今の制度をどう変えるか」という点でした。そこを岩田さんとも一緒に色々と考えていきました。
ー制度を変えるとは、具体的にどういうことですか?
中川: 従来の紙の券は、「1枚400円」や「1枚700円」といった枚数制でした。例えば700円の券を使って600円のサービスを受けた場合、お釣りが出ないので100円損をしてしまうという課題がありました。 今回、デジタル化に合わせて、1ポイント1円として無駄なく使える「ポイント制」に変更したんです。
ただ、枚数からポイントに概念が変わるため、利用者の方が従来と同等に、不公平感なく利用できるように制度を設計し直す必要があり、それがとても難しかったです。
また、予算要求の時期にも間に合わせる必要があったので、スケジュール的にもかなりタイトで大変でしたね。

現場の負担軽減と市民の利便性向上。DX推進課との強力なタッグ
ー実際にデジタル化されたシステムは、どのような仕組みになったのですか?
岩田: 市の公式LINEアカウントから申請を行い、対象者のLINEアカウントにポイントが付与されます。実際に店舗で使う時は、各事業所に設置してあるQRコードをスマートフォンのカメラで読み取って、PayPayのような電子決済の感覚で利用できる仕組みです。
ー導入後、実際の反響や効果はいかがですか?
中川: スマートフォンを持たない方向けに従来の紙の券も残しているため、現状ではまだ紙の券を利用される方の方が多いです。マイナンバーカードを使った本人確認の暗証番号が分からないといったネックもあり、利用者の利便性向上はこれからの課題でもあります。
ただ、事業者の方からは大好評です。紙の券だと市役所に持ってきて集計、換金する手間がありましたが、デジタルならこちらで自動計算して振り込むことができるため、大幅な時間短縮に繋がっています。
岩田: 市役所側の負担も大きく減りました。以前は翌年度分の券を配布するために、1週間ほど各地区の公民館に出向いて事前配布を行っていたんです。その間は他の業務が全くできず、1週間かかりきりになっていました。 令和8年度分からはその公民館での配布をやめることができたので、窓口業務の拘束時間が大幅に削減されました。
今のうちにやらないと!変わることを恐れない滑川市役所の風土とこれからの挑戦
ー「今のままでも回っている」業務を変えるのは、非常にエネルギーが要ることだと思います。
岩田: おっしゃる通り、放っておいても何事もなく紙のままで回っていく業務ではありました。しかし、そのまま私たちが退職するまでずっと紙のまま進んでいくのかと考えた時、「じゃあ思い立った今のうちにやればいいんじゃないか」と思ったんです。
中川: 福祉課は非常に業務量が多い部署なので、何か仕事のやり方を変えていかないと、私たちがきついという切実な思いもありました。 また、市役所には数年ごとの「異動」が付き物です。経験を重ねればできる仕事とはいえ、異動して一から覚え直すのはつらいものです。そういった属人的な仕事を一つデジタル化してなくすことで、次に引き継ぐ人の負担も減らせます。そうした思いから、「もうやるしかないよね」と皆で後押しし合って進めました。
ーDX推進課など、他部署との連携はいかがでしたか?
中川: DX推進課の方々が「ぜひやろう!」と前向きに言ってくださったのが大きかったです。特に、システムの実装においては、DX推進課に前職がエンジニアだった方がいらっしゃって、その方が非常にスムーズに実装まで導いてくださったので、とても安心できる環境でした。
岩田: 市の課題に取り組むにあたって、原課だけでは難しい場合、関連する部署が非常に協力的に尽力してくれる雰囲気があるのは、滑川市役所の素晴らしいところだと感じています。
ー最後に、今後の目標や取り組みたいことを教えてください。
岩田: 私は令和7年4月に防災危機管理課に異動したばかりですが、今は全国的な課題となっている「避難所での受付」のオンライン化などを検討しています。紙での管理が混雑の原因や、災害対策本部との情報共有の遅れに繋がるため、他部署とも連携しながらここを効率化していきたいです。
中川: 私は令和8年度に向けて、福祉課の別の事業でもデジタル化を進めています。手話通訳者の派遣事業において、市役所、利用者、手話通訳者の三者がLINE上で申請や派遣通知を完結できるシステムです。ここでもDX推進課にお世話になりながら、市民の利便性向上と業務効率化に挑戦し続けていきます。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年1月取材)
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「今のままでも回っている。でも、だからこそ今のうちにやらなければ」。中川さんと岩田さんの言葉には、現状維持に甘んじない若手職員の力強い使命感が溢れていました。滑川市役所の「風通しの良さ」と「新しいことへの挑戦を歓迎する風土」を見事に体現する、インタビューでした。



