雲仙市役所で社会福祉士として働く田中さんのインタビュー記事です。
民間施設での経験を経て、生まれ故郷である雲仙市役所へ入庁。現在は保護課のケースワーカーとして、市民一人ひとりの生活に寄り添っています。
複雑な課題と向き合う仕事の厳しさと、それを乗り越えた先にある大きなやりがい、そして温かい職場の雰囲気について語っていただきました。福祉のプロフェッショナルとして、地域に貢献したいと考える方、必見です。
- 福祉のプロフェッショナルとして、生まれ故郷の行政へ。民間経験を経て見えた新たな道
- 多様な福祉分野を経験。現在の保護課でのケースワーカーとしての役割
- 複雑な課題の先に光る「ありがとう」の一言。現場経験が支える現在の仕事
- 恵まれた人間関係が支えに。オンもオフも充実させる働きやすい環境
- 「規律」と「人との繋がり」を大切に。雲仙市で社会福祉士を目指すあなたへ
福祉のプロフェッショナルとして、生まれ故郷の行政へ。民間経験を経て見えた新たな道
ーまず、これまでの経歴を教えてください。
田中:生まれも育ちも雲仙市で、大学卒業後に社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得し、県外の精神科の医療機関で精神保健福祉士として勤務していました。
その後、平成23年に地元である雲仙市に戻り、老人施設や医療機関で相談員として経験を積みました。そして、平成30年4月に雲仙市役所に入庁し、現在に至ります。
ーそもそも福祉の道を志したきっかけは何だったのでしょうか?
田中:私の母が障がい者施設で働いていたことが大きいですね。その姿を幼い頃から見ていたので、私にとって福祉という仕事はとても身近で、自然とイメージできるものでした。
高校生になり、進路を考える中で「社会福祉士」という資格があることを知り、「一度、この道を目指してみよう」と思ったのが最初のきっかけです。

ー民間施設で経験を積まれた後、なぜ行政、そして雲仙市を選ばれたのですか?
田中:施設や病院での支援は、もちろん非常にやりがいがあるのですが、どうしても目の前に来られる方が対象の中心になります。専門職としてキャリアを重ねる中で、もっと広い視点で福祉に関わりたい、という思いが強くなっていきました。
「多様な制度を駆使して、具体的な支援を届けられるのは、やはり行政ではないか」と感じたんです。また、純粋にさまざまな制度を深く勉強したいという知的好奇心もありました。
その中で雲仙市を選んだのは、何よりも「生まれ育ったこの町が好きだ」という気持ちが一番ですね。
地域性も多少なりとも分かっていますし、自分を育ててくれた故郷に、自分の専門性を生かして貢献したいという思いから、雲仙市役所を志望しました。
当時は雲仙市一本で、ある意味、自分の力を試すような気持ちで受験しました。
多様な福祉分野を経験。現在の保護課でのケースワーカーとしての役割
ー入庁されてから、さまざまな部署を経験されていますね。これまでの業務内容を教えていただけますか?
田中:はい、入庁してからの8年間で、福祉分野の中でも本当に多様な業務を経験させていただきました。最初は「福祉課」の高齢障害班で、障害者手帳に関する事務や日常生活用具の給付、高齢者及び障害者の交通費助成事業などを担当しました。
その後、機構改革で総務高齢班となり、高齢者施設の整備補助金や在宅介護をされている方への慰労金などを担当。同じ年の途中からは障害班に異動し、今度は障害福祉サービスや児童通所サービスの給付を担当しました。
令和2年度からは再び総務高齢班に戻り、社会福祉法人の監査という新たな業務にも携わりました。また、高齢者の虐待問題など、より総合的な相談業務も担当していましたね。
そして、令和5年度は再び障がい班で以前の業務と監査を兼務し、今年の4月から現在の「保護課」に異動となりました。
ー現在は保護課でケースワーカーをされているとのことですが、具体的な仕事内容を教えてください。
田中:生活に困窮されている方々が、憲法で保障された最低限度の生活を維持できるよう、金銭的な給付を主軸とした支援を行っています。
ただお金を給付するだけではなく、定期的にご自宅へ家庭訪問をして生活状況を確認したり、悩みを聞いたり、あるいは突発的なトラブルや緊急事態に対応したりと、その業務は多岐にわたります。

複雑な課題の先に光る「ありがとう」の一言。現場経験が支える現在の仕事
ー社会福祉士の仕事のやりがいや面白みは、どんな時に感じますか?
田中:そうですね…社会福祉の仕事は、実は「面白み」を感じる時ほど、非常に困難な事例と向き合っている時なんです。
行政に寄せられる相談は、高齢、障がい、経済的な問題などが複雑に絡み合っているケースがほとんどです。「これを一つ解決すれば、すべてがうまくいく」というような単純な問題はまずありません。
ですから、すぐに解決できないことの方が圧倒的に多いです。それでも、時間をかけてじっくりと関わり、ご本人やご家族、関係機関と連携していく中で、少しずつ状況が改善し、ご家庭が安心して生活できるようになった時や、ご本人から「ありがとう」という言葉をいただけた時には、それまでの苦労が報われますね。
仕事の厳しさとやりがいは、まさに表裏一体ですが、その「良かったな」と思える一瞬のために、私たちは日々奮闘しているのだと思います。
ー病院や施設でのご経験は、現在の仕事にどのように生かされていますか?
田中:それは非常に大きく生かされています。例えば、高齢者の虐待に関する相談や、病院から連絡があった際に、現場で何が起きているのか、どのような状況なのかを、ある程度リアルに想像できるんです。
専門用語も理解できるので、関係機関とのコミュニケーションが非常にスムーズに進みます。これは、民間での経験がなければ得られなかった視点であり、私にとって大きな強みになっていると感じています。
恵まれた人間関係が支えに。オンもオフも充実させる働きやすい環境
ー入庁する前と後で、市役所の仕事に対するイメージのギャップはありましたか?
田中:はい、ありました(笑)。多くの方がイメージするように、私も「市役所の人は定時で帰れるんだろうな」と漠然と思っていました。でも、現実は全く違いましたね。皆さんが市民のために一生懸命働いている姿を目の当たりにして、良い意味でイメージを覆されました。
もう一つは「規律」の厳しさです。民間施設では、ある程度自分の判断で柔軟に動ける部分もありましたが、行政では一つひとつの対応に決裁が必要で、組織として動くことが徹底されています。
これは、市民に対する責任の重さの表れだと思います。最初は戸惑いましたが、逆に言えば、一人で責任を抱え込まずに組織として対応してもらえるので、非常に心強い面でもあります。
ー職場の雰囲気はいかがですか?
田中:幸いなことに、本当に周りの方々に恵まれていると感じています。入庁して8年目になりますが、分からないことがあって質問しても、誰も嫌な顔一つせずに丁寧に教えてくれますし、上司も雑談の中で親身に相談に乗ってくれます。一人で問題を抱え込まずに済む、温かい雰囲気がありますね。
私の同期は26人いるのですが、みんな仲が良くて、コロナ前はよく同期会を開いていました。今でも食事に行ったりしますし、そうした横の繋がりがあるからこそ頑張れる部分も大きいです。
仕事で行き詰まった時に相談できる仲間がいるのは、本当に心強いです。

ーワークライフバランスについてもお伺いします。残業や休暇の取りやすさはいかがですか?
田中:私はあまり残業をしない方だと思いますが、もちろん業務が集中する繁忙期はあります。部署によって時期は異なりますが、例えば今の保護課では毎月中旬が忙しくなりますし、以前いた障害班では、新しい課税情報に切り替わる6月~7月頃が繁忙期でした。
ですが、基本的には「帰れる時は帰る」というスタンスですし、休みも思い切って取ります。
年次有給休暇や夏季休暇はもちろんですが、子どもの学校行事などで休みが必要な時も、非常に取りやすい環境です。職員同士でサポートし合う文化が根付いているので、働きやすい職場だと感じています。
「規律」と「人との繋がり」を大切に。雲仙市で社会福祉士を目指すあなたへ
ーこれから行政の社会福祉士を目指す方にとって、必要なことは何だと思いますか?
田中:まず、行政職として働く上で、パソコンスキルや事務処理能力は必要になります。私自身、入庁当初はパソコンがほとんどできませんでしたが、働きながら覚えていきました。
大切なのは、社会福祉士という専門職である前に、一人の行政職員であるという自覚を持つことだと思います。「社会福祉士だからこれはしない」というのではなく、事務もきちんとこなし、その上で専門性を発揮するという姿勢が求められます。
そして何より、行政の「規律」を守れるかどうか。それがご自身の性格に合うかどうかは、とても重要です。逆に言えば、その規律の中で働く覚悟さえあれば、分からないことは先輩方がしっかり教えてくれますから、過度に心配する必要はありません。
ー最後に、未来の同僚となる方へメッセージをお願いします。
田中:社会福祉士の仕事は、とにかく人と接する機会が多い仕事です。ですから、人と話すのが好き、人と関わることが好き、という方に来ていただけると嬉しいです。
得意か不得意かではなく、「好き」という気持ちが、この仕事をしていく上での大きな原動力になります。
また、福祉の現場経験がない、未経験の方でも全く問題ありません。むしろ、先入観がない真っさらな状態で行政の仕組みや福祉を学んでいくことは、大きな強みになります。
私のように現場経験があると、かえって遠慮して強く言えないようなことも、未経験の方なら「制度はこうです」と、はっきりと筋を通して伝えられるかもしれません。どんな経歴の方でも、それぞれの強みを生かせる職場です。
皆さんと一緒に、この愛する雲仙市の福祉を支えていける日を楽しみにしています。

ー本日はありがとうございました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2025年8月取材)