「色んなことにチャレンジできるのが、この職場の一番の良いところだと思います」
そう穏やかに語るのは、宍粟市役所財政課で働く入庁8年目の田中さん。高校卒業後すぐに宍粟市役所へ入庁し、スポーツ推進係、コロナワクチン接種推進室、情報通信係(DX推進)、兵庫県庁への出向を経て、現在は財政課に在籍している。
部署をまたぐたびに、まったく異なる仕事と向き合ってきた田中さん。今回は、市役所を志望したきっかけから、コロナ禍での奮闘、兵庫県庁出向で感じた刺激、そして今後の展望まで、たっぷりとお話を伺いました。
- 練習のつもりが、採用通知。高卒で飛び込んだ市役所の世界
- 誰もやったことがない仕事を、任された。コロナ対応で磨いた「問題解決力」
- 現場を知るから、改革できる。DX推進と兵庫県庁出向で見えたもの
- 財政課で、また一から。それでも「自分の色」を出し続ける
練習のつもりが、採用通知。高卒で飛び込んだ市役所の世界
ーまず、宍粟市役所を受けた経緯を教えてください。
田中:高校生のころから、将来は地元で働きたいという気持ちはありました。ただ、当時は進学する気持ちもあって、具体的に就職先を決めていたわけではありません。そんなとき、宍粟市役所が高卒枠の採用を行っていると知って、「練習になるし、受けてみようか」という軽い気持ちで応募したんです。
ーそれが合格してしまった(笑)。
田中:そうなんです(笑)。わざわざ遠回りする必要もないかなと思って、入庁を決めました。もともと市役所は色んな仕事ができる職場だと聞いていたので、「自分の性格的にも合いそうだな」という期待もありましたね。
ー最初に配属されたスポーツ推進係では、どんな仕事をされていましたか?
田中:体育協会やスポーツ推進委員といった任意団体の事務局を担ったり、マラソン大会の運営に携わったりしました。市役所というと堅苦しいイメージがあったんですけど、庁外の団体との調整が中心なので、意外と自分の色を出せる仕事でしたね。去年とは違うことをやってみようとか、新しい提案ができるというか。承認されるかどうかはともかく(笑)、そういう自由さがあって、最初の職場として良かったと思っています。

誰もやったことがない仕事を、任された。コロナ対応で磨いた「問題解決力」
ーコロナ対応の部署に異動されたときの状況を教えてください。
田中:スポーツ推進係で3年ほど働いたころ、コロナ禍になりました。最初は兼務という形でコロナワクチン接種推進室に入り、その後本配属になりました。特に大変だったのが、集団接種会場の運営です。医療スタッフの方々とソーシャルディスタンスを保ちながら、できるだけ多くの方に接種してもらうという、矛盾した目標を実現しないといけなかった。医療の専門家と事務方では視点がまるで違うので、その調整がとにかく難しかったですね。
ー具体的にはどんなギャップがあったんですか?
田中:1日に接種できる人数の見立てが全然違いました。私たちが安全マージンを見て「このくらいかな」と想定していたら、医療スタッフ側からはその10倍くらいのニーズが提示されて(笑)。接種自体は可能でも、受付のスタッフや会場のキャパが追いつかないので、そこをどう合わせていくかが自分たちの役割になりました。
ーその中で、自分でシステムを作ったとお聞きしました。
田中:業者から調達する時間がどうしても取れなくて、「自分でやりますけどいいですか」と言ったかもしれないですね(笑)。独学でコーディングを勉強して、会場の受付システムを自前で構築しました。最初は不具合だらけでしたが、トライアンドエラーを繰り返しながら徐々に改善していきました。切羽詰まっていたからこそ、事務効率化のスキルが一気に上がった時期でしたね。
ーその経験は今も生きていますか?
田中:生きています。あの経験で得られたのは、短期間で無理難題を実現させるための調整力と、何でも自分でパッと内製できる事務スキルだと思っています。組織から難しい仕事を任せていただいたこと自体も、正直うれしかったですね。誰もやったことのない経験をさせてもらったんだという実感があります。

現場を知るから、改革できる。DX推進と兵庫県庁出向で見えたもの
ーデジタル推進の部署には、どのような経緯で異動されたんですか?
田中:コロナ対応の中でExcelのVBAを使ったり、システムを自作したりしていたので、そういう部分を人事に見ていただいたのかもしれないですね。デジタル推進の担当になってからは、主に職員の情報端末やネットワークの管理、それからDX推進の取り組みを担当しました。最初に手を付けたのは、電子契約の導入です。
ー電子契約の導入は、どんな課題意識から始まったんですか?
田中:特に支払いを伴う決裁は、契約書が紙で存在するので、必然的に全部紙で回っていたんです。さすがに今の時代に合っていないと思って、まずは契約書を電子化しようと。契約書が電子化できれば、一気通貫で事務を電子で回せるようになるという考えで取り組みました。上司や関係課のみなさんも前向きに考えていただけて、意外とスムーズに導入までは進められました。まだまだ運用に課題はありますが、ひとまず実現できたときは達成感がありましたね。
ー兵庫県庁への出向は、ご自身から希望されたとか。
田中:はい、募集があって応募しました。一番の理由は、インターネット接続を主軸とした事務環境(β’モデル)を体感したかったからです。市役所は今もLGWANというインターネットに直接繋がらないセキュアなネットワーク環境(αモデル)で業務を行っていますが、まずはその環境を変えることがDX推進の根本だと思っていて。兵庫県庁がβ’モデルを採用していたので、OJTで学べるなら絶対に行きたいと思いました。
ー県庁で働いてみて、印象に残っていることはありますか?
田中:スピード感が全然違いました。打ち合わせをしたら10分後にはドラフトができていて、30分後には各所に通知が飛んでいる、みたいな(笑)。民間出身の方や副業人材の方が多いデジタル改革の部署だったこともあって、「ボールを溜め込まない」という働き方が徹底されていました。もらったボールはすぐ投げる、というか。
そのスピード感と仕事の進め方は、本当に大きな学びでした。もちろん、そのスピード感の要因のひとつとして、クラウドサービスを効果的に活用できるβ’モデル環境が整備されているということも大きかったと思います。

財政課で、また一から。それでも「自分の色」を出し続ける
ー現在の財政課では、どんな仕事をされていますか?
田中:普通交付税の算定に必要な基礎数値を各部署から収集してとりまとめたり、報告書を作成したりといった業務が中心です。まだ着任して2か月ほどなので、これから予算の査定などにも携わっていく予定です。全然違う分野なので、まずは覚えることだらけですね。
ーそんな中でも、「自分の色を出したい」という気持ちはありますか?
田中:あります。まずは地道なところから変えようと思って、紙のファイルが分厚く積み上がっていたので、今年度はゼロにしました。あとは業務のドキュメント化ですね。財政課の仕事は、基本的に毎年業務が大きく変わるということはありません。市役所では、何年かごとに人事異動があるので、誰が担当しても一定水準以上にできることが求められます。まずそこから整えようと取り組んでいます。
ー市役所に足りないと思うものはありますか?
田中:発信力でしょうか。対外的な発信はもちろんですが、組織の内部に向けた発信です。市役所では様々なデータを蓄積して取り扱っていますが、いくらデータを持っていても、利活用しなければコストになるだけですからね。自団体の財政状況や主要事業といったことを、職員自身が理解していないと、事業の整合が取れなくなる。
職員自身が情報を取りにいくのはもちろんですが、それは発信できていなかった側の問題でもあると思うので、今後は細かい情報をこまめに発信していくことが必要だと感じています。
ー最後に、宍粟市役所を目指す方へメッセージをお願いします。
田中:とにかく色んなことにチャレンジしてほしいですね。私自身、練習のつもりで受けた採用試験から始まって、スポーツ、コロナ対応、DX推進、県庁出向と、思ってもみなかった経験をたくさんさせてもらいました。宍粟市役所は、比較的自由にチャレンジできる職場です。
出向への応募でも、新しい取り組みへの提案でも、やってみたいと手を挙げれば道は開けます。それを活かすかどうかは自分次第なので、ぜひ積極的に動いてみてほしいと思います。
ー本日はありがとうございました。

画面越しの田中さんは、終始穏やかで、飾り気のない話し方が印象的だった。「練習のつもりで受けたら合格した」という入庁のエピソードから始まり、コロナ禍での独学システム開発、県庁での民間スピード感との出会いまで、波乱に富んだ経歴でありながら、本人の口ぶりはどこかさらっとしている。その軽やかさの裏に、どんな状況でも「今できることをやる」という姿勢が一貫しているのだと気づく。財政課でドキュメント化を進め、紙ファイルをゼロにするという地道な改革も、そんな田中さんらしい変え方だ。「自分の色を出す」という言葉が、この人の仕事観のすべてを言い表しているように思えた。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年6月取材)



