見知らぬ土地から「一生の職場」へ。青年海外協力隊を経て見つけた、“人”に寄り添う働き方

今治市役所

2026/09/13

大学卒業後、JICA青年海外協力隊としてカンボジアへ赴いた齋藤さん。インフラや制度が十分に整っていない現地の現実に直面し、当たり前にある日本の制度のありがたさを痛感すると同時に、「困っている人の一番近くで役に立ちたい」という強い想いを抱いて帰国しました。そんな齋藤さんが出会ったのが、縁もゆかりもなかった愛媛県今治市でした。東京で開催された合同説明会で接した今治市職員の人柄に惹かれて決意した移住と入庁。高齢介護課での親身な家庭訪問による対人支援や、現在の防災危機管理課での若手としての挑戦、そして職場の手厚い育休サポートまで、一つひとつの経験が彼の原動力となっています。「よそ者」だったからこそ見える今治市の豊かな自然や街の温かさ、そして基礎自治体だからこそ味わえる対住民支援の真髄について、情熱溢れる言葉でじっくり語っていただきました。

 


カンボジアから始まった探求。日本で「一番近い場所」から住民を支える選択

ーまずは、齋藤さんが今治市役所に入庁されるまでの経緯について詳しく教えていただけますか?

 

齋藤:私は鳥取県の出身で、今治市役所には平成31年度に入庁しました。現在は防災危機管理課に所属しております。

 

もともと父が愛媛県内の松前町というところの出身で、幼少期は夏休みや冬休みになると毎年のように祖父母の家へ里帰りをしていたため、愛媛県自体には昔から親しみがありました。

 

ただ、当時は「松山のおじいちゃんの家に行く」という感覚でしたので、今治市という具体的な地名までは意識していませんでしたね。その後、愛媛大学の教育学部に進学し松山で4年間過ごす中で、所属していたサッカー部の遠征や練習試合などで各地域に行くこともあり、今治という地名を身近に感じるようになりました。

 

ー大学卒業後はどのような進路を選択されたのでしょうか?

 

齋藤:両親が教員だったこともあり、大学入学当時は自分も教員になるのだろうと自然に思っていました。しかし、大学の4年間を過ごす中で、「このままいきなり社会に出て、自分は誰かの役に立てるのだろうか」という強い疑問と不安が湧いてきたのです。

 

中途半端な状態のまま社会に出てはいけないと考え、一度全く知らない環境に身を置き、自分を鍛え直してから就職活動をしたいと思いました。ちょうど周りに海外貢献を目指す仲間がいたことも後押しとなり、JICAの青年海外協力隊に応募して、カンボジアで2年間活動することを選びました。

 

実は父も大学時代に協力隊へ行くか迷っていた時期があったそうで、相談をしたら「お前は是非行ってこい」と温かく背中を押してくれましたね。

 

ーカンボジアでの2年間の活動を通じて、物事の考え方や価値観に変化はありましたか?

 

齋藤:一番大きく変わったのは「日本がいかに恵まれている国であるか」を痛感したことです。

 

日本で生活をしていると、ニュースやSNSなどで「制度が良くない」「もっとこうしてほしい」という厳しい意見を見かけることが多くあります。しかし、私が過ごしたカンボジアなどの途上国から見れば、日本の法律や制度、社会ルールは驚くほど行き届いていて、国民が守られていると感じました。

 

例えばカンボジアでは、外国の支援で道路が整備されても、維持管理するための税制度や仕組みが不十分なため、わずか数年で道路が穴だらけになってしまいます。地元のタクシーやバスはその大きなボコボコを避けながら必死に走っていました。

 

それに対して日本では、どんなに田舎や山奥であっても道路や歩道が綺麗に整備され、修理も適切に行われています。制度やお金を出し合って生活基盤を守る仕組みが整っていることのありがたさを身に染みて実感しました。

 

ー海外に出て初めてわかる日本の良さがあったのですね。

 

齋藤:そのとおりです。この経験から、「日本にある素晴らしい制度をしっかり伝え・活用してもらいたい」という想いが強まり、住民と最も近い距離で働ける市役所という仕事を志すようになりました。

青年海外協力隊での活動の様子

奇跡的な「ご縁」に導かれて。東京で見つけた今治市職員の温かさ

ー多くの自治体がある中で、なぜ最終的に今治市役所を選ばれたのですか?

 

齋藤:帰国後の就職活動では、人の役に立てる仕事という軸を持って探していました。そのため、必ずしも公務員だけに絞っていたわけではなく、日本赤十字社や、バリアフリー推進などを専門にする福祉系のベンチャー企業なども受けており、内定や選択肢を複数いただいていました。

 

その中で、帰国した隊員向けに東京で開催されたJICA主催の合同説明会に参加しました。そこは民間企業だけでなく、官公庁もブースを出す、いわば仕事のマッチングイベントのような場でした。そこに今治市役所も出展していて、「愛媛県からも来ているな」と親近感を持ってブースへ伺ったのが始まりでした。

 

ー東京での今治市職員の方との出会いが、大きな決定打になったのですね。

 

齋藤:まさにその通りです。当時対応してくださった担当者の方が、海外経験を積んだ人材の採用にとても力を入れていること、経験を活かした働き方ができる職場環境の整備を進めていることなどを熱く語ってくださいました。

 

その方の熱意もすごく伝わってきて、「こんなに素敵な職員さんがたくさんいる職場で働きたいな」と思ったんです。愛媛との縁はもちろんですが、何よりその「人」の魅力に惹かれて、自治体としては今治市一本に絞って応募することを決意しました。

一人ひとりの生活に寄り添う。訪問調査で実感した対人支援の原点

ー入庁後、最初に配属された部署ではどのようなお仕事を経験されたのでしょうか?

 

齋藤:最初に配属されたのは高齢介護課(現:介護保険課)でした。高齢者向けの福祉や介護保険法に基づくサービスを提供する部署で、私は主に在宅で高齢者を介護されているご家庭への支援事業を担当しました。

 

例えば、自宅で寝たきりの方を介護されているご家族へ紙オムツ等の介護用品が購入できる券を支給する事業や、支援金の給付などです。申請があったご家庭の自宅へ直接伺い、支給対象になるかどうかの状態を調べる訪問調査も大切な業務でした。

 

電話対応や窓口対応だけでなく、直接住民の方のご自宅まで足を運び、膝を突き合わせてお困りごとを伺える機会が豊富にあったのは、まさに自分がやりたかった対人支援そのものでした。

 

ー特に印象に残っているエピソードなどはありますか?

 

齋藤:私が担当していた介護用品券の給付などの事業要件に該当しない場合でも、「実はこういうことでも困っていてね…」という切実なご相談をいただくことが多くありました。

 

そうした際、自分の担当業務外だからと終わらせてしまうのではなく、「このご家庭ではこういう困りごとを抱えています」という情報を、同じ福祉部内の他部署へ横連携で繋ぐように意識していました。その結果、別の行政サービスや支援制度を活用することができ、お困りごとが解消されて「本当に助かりました」と直接感謝の言葉をいただいたこともありましたね。

 

自分の提案や繋ぎによって人の役に立てたという手応えは、非常に大きなやりがいになりました。住民の方と最も近い距離で対話し、お困りごとを直接解決していくという基礎自治体ならではの真髄を、最初の3年間で身をもって体験できたことは本当に貴重な財産になっています。

いきいきシニア応援講座での握力測定の様子

よそ者だからわかる魅力と風通しの良さ。若手の挑戦を受け止める組織の懐

ー鳥取県ご出身で、海外での経験もある齋藤さんから見て、今治市という街の魅力はどこにあると感じますか?

 

齋藤:一番に感動したのは「天候の良さ」と「瀬戸内海の穏やかさ」ですね。

 

私の地元である鳥取などの山陰地方は日照時間が短いといわれる地域で、夏は湿気も多く、冬には多くの積雪もあります。また、冬の日本海は荒波が岩に打ち付けられており、穏やかといった印象ではありません。カンボジアについても、雨季になると街中が水浸しになる極端な気候でした。

 

それに比べて今治市に来て驚いたのは、雲一つない晴天の日が圧倒的に多いことです。目の前には綺麗で静かな瀬戸内海が広がっていて、休日にしまなみ海道や海沿いをドライブしていると、波も穏やかで時間がゆったりと流れていき、心が本当に癒やされます。

 

外から来た「よそ者」だからこそ、この恵まれた気候と美しい自然の素晴らしさを強く感じています。

ー職場や地域への馴染みやすさはいかがでしたか?

 

齋藤:あたりまえかもしれませんが、「よそ者」と言ってアウェイになるような感覚は一切ありませんでした(笑)地域も職場も、「よく来てくれたね」と温かく歓迎してくれる雰囲気ばかりです。

 

また、公務員というと入庁前は「堅くてマニュアル通りの事務処理」というイメージを持っていたのですが、実際の今治市役所は、気さくで優しい先輩方がとても多い職場でした。法令に基づいた業務を行うのは当然なのですが、周囲の先輩方が「なんとか(住民のために)良いようにやってあげようよ」と口にされていたのがすごく印象的でした。

 

単に「決まりでできないダメ」と拒否するのではなく、住民の立場に徹底的に寄り添おうとする温かい姿勢がある職場なんです。

ー現在はどのような業務を担当しているのでしょうか?

 

齋藤:令和4年度から現在の防災危機管理課に異動しまして、現在は職員向けの防災訓練の企画・運営や、関係機関との合同訓練の担当、庶務などを担っています。

 

防災は市民の命に直結した分野ですので、常に知識を蓄え、訓練方法も試行錯誤していく必要があります。そうした中で、私が「これを試してみたいです」と新しい提案をすると、上司や周囲の先輩方は「いいね!それでやってみよう!」と協力してくれます。

 

若手職員の意見や「やりたい」という想いを頭ごなしに否定せず、柔軟に受け止めてカタチにしてくれる環境が今治市役所にはあります。若手の挑戦を後押ししてくれる風通しの良さは、ここで働く大きな魅力だと感じています。

 

一緒に悩み、背中を押してくれる仲間。「対住民」で働く未来

ー齋藤さんは育児休業も取得されたとお聞きしました。当時の周囲のサポートや職場の雰囲気はいかがでしたか?

 

齋藤:2人目の子どもが生まれたタイミングで、約1ヶ月間の育休をいただきました。ただ、実は私が主担として進めていた重要な訓練業務の時期と育休の予定がちょうど重なってしまっていたのです。

 

そのため、相談する前は「こんな時期に休んでしまって大丈夫だろうか」という気まずさや葛藤がありました。しかし、妻の妊娠が分かった初期の段階から上司にずっと相談を重ねていたこともあり、上司も「ここからは引き継ぐから、安心して休んでおいで」と快く言ってくださったのです。上司自身も業務の調整で葛藤があったはずですが、力強く背中を押してくれました。職場全体が協力的にカバーしてくれたおかげで、気兼ねなく家族との大切な時間を過ごすことができました。

 

ー心強いチームワークがあったのですね。それでは最後に、求職者の方へメッセージをお願いします!

 

齋藤:私にとってのキーワードは「人が見える職場」です。市役所の仕事は、福祉部門はもちろんのこと、仮に税務や総務などの部署であったとしても、すべて市民の暮らしや人の中に直結しています。

 

国や県といった大きな組織ではなかなか味わえない、「対住民」と同じ目線に立って直接お困りごとを解決し、やりがいや感謝を目の前で受け取れることこそが、市役所で働く最大の魅力です。

 

パソコンに向かって作業をするだけでなく、人と直接話をして、誰かの困りごとを解決することに生きがいを感じられる方にとって、今治市役所は最高の職場になります。

 

温かく受け止めてくれる仲間がたくさん待っていますので、ぜひ一緒に働きましょう!

ー本日はありがとうございました。

 

鳥取から愛媛県への進学、そしてカンボジアでの経験を経て今治市へ。「遠回りをしたからこそ、今の自分がある」と語る齋藤さんの穏やかで力強い言葉には、周囲への感謝と仕事に対する深い誇りが満ちていました。過酷な海外生活を経験した故に選んだのは、市民の暮らしの一番近くで寄り添う市役所の仕事です。「良い形にしてあげよう」と親身になる先輩たちや、若手の提案を温かく受け止める風土の中で、齋藤さんは今日も街の安心と市民の笑顔を守っています。仕事について語っている齋藤さんの姿は、終始誇らしく、そしてとても楽しそうに見えました。

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年7月取材)

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