「役場でもチャレンジできる」失敗を恐れず前に進める組織とは?
紫波町役場
「公務員の仕事は、前例を踏襲して、決められたルールを淡々とこなすもの」そんなイメージを抱いている方にこそ、この人の言葉を聞いてほしいと思います。
岩手県の中央に位置し、豊かな自然と先進的な公民連携のまちづくりで知られる紫波町(しわちょう)。ここで働く高橋さんは、民間企業から転職し、現在は4月に新設されたばかりの地域づくり課「地域共創係」の係長として、「食と農の育成学校」という前例のないプロジェクトの立ち上げに挑んでいます。
一から町の資源を見つめ直し、仕組みを創り出す日々。そこには、「紫波町役場は自由。何でもチャレンジできる」という、お役所のイメージを大きく覆す風土がありました。
失敗を恐れずに新しい価値を模索し続ける高橋さんの歩みから、地方公務員という仕事の本当の面白さと、自分らしくキャリアを切り拓くヒントがきっと見つかるはずです。
- 民間企業から紫波町役場へ。家族の転機と「岩手で暮らす」選択
- 「公務員は堅い」を覆す?入庁時に聞いた「自由」という言葉
- 「それで社会は良くなるか?」を問い直す。定型業務のその先にあるものとは?
- 「できない」を「できる」へ。私を変えた上司の言葉
- これからも挑戦は続く。未来の仲間に向けたメッセージ
民間企業から紫波町役場へ。家族の転機と「岩手で暮らす」選択
ー高橋さんは民間企業を経験されてから紫波町役場に入庁されたそうですが、まずは前職のキャリアについて教えていただけますか?
高橋:大学を卒業した後は、民間企業に就職をして、3年半ほど勤務をしていました。前職では農業機械の流通や物流管理のほか、イベントの開催に関わる企画などを担当して、色々な業務を経験させていただきました。
仕事自体は非常にやりがいがあって、同期の仲間もみんないい人たちで面白かったです。
ーそんな中で、なぜ転職を考え、しかも次のキャリアとして公務員を選ばれたのでしょうか?
高橋:一番大きなきっかけは、プライベートにおける家族の転機でした。ちょうど子どもが生まれたタイミングで、東京への異動について話をされました。しかし、私の妻は当時、紫波町内で働いていて、自身の仕事を大切にしていました。
妻のキャリアやこれからの子育てのことを考えたときに、私の都合で東京へ連れて行くのではなく、できることなら住み慣れた岩手県に残って生活をしていきたいなと強く思うようになりました。それが転職を意識したスタートラインです。
ー岩手に残る選択肢として、紫波町役場を選ばれた決め手は何だったのですか?
高橋:妻から「紫波町役場が初めて10月採用の募集をかけているよ」という情報を教えてもらったことがきっかけです。それまで公務員試験を受ける準備をしていたわけではなかったのですが、岩手に残るための方法を模索していた私にとっては、これ以上ないという絶妙なタイミングでした。
妻が働く紫波町であれば、お互いの生活の基盤も崩さずに支え合っていけると感じ、これも何かの縁だろうという気持ちで受験を決めました。
そして、無事に合格することができ、平成26年度に入庁することになりました。

「公務員は堅い」を覆す?入庁時に聞いた「自由」という言葉
ー役場という場所に飛び込むにあたって、不安や事前のイメージなどはありましたか?
高橋:入庁する前は、やはり一般的なイメージと同じように「お役所仕事」というか、すごく真面目で堅苦しくて、前例を踏襲することが求められる場所なのだろうなと勝手に想像していました。
一般的な企業や団体とは違うのだろうという考えを少なからずもっていたため、自分が馴染めるだろうかという不安はありました。
ー実際に中に入ってみて、そのイメージはどのように変わりましたか?
高橋:それが、良い意味で裏切られました。
入庁前の説明会の時に、人事担当の室長から最初に言われた言葉がいまでも記憶に残っています。室長は説明会の中で「紫波町役場は本当に自由です。他の自治体と比べても、自分がやりたいと思えば何でもチャレンジできる環境がありますから、恐れずにやってください」と言っていたのです。
改まった場でそんなことを言われると思っていなかったので「本当に自由なのかな…?」といった感想も抱いていましたが、実際に働き始めてみたら、その言葉のとおりでした。
ー「自由で何でもチャレンジできる」というのは、具体的に日々の仕事の中でどのように実感されるのでしょうか?
高橋:一番は、新しい提案をしたときに、組織全体がそれを頭ごなしに否定しない風土があることです。もちろん、仕事を進める上では色々な壁にぶつかりますし、時には上手くいかずにプロジェクトが白紙になることだってあります。
紫波町役場では、問題が起きたときには、上司も同僚もみんなが親身になって「じゃあ、解決に向けてどうすればいいか」を真剣に話し合ってくれます。
一人で抱え込ませることなく、逃げずに解決に向き合う温かさがあるからこそ、私たちは安心して「自由」にチャレンジができるのだと思います。

「それで社会は良くなるか?」を問い直す。定型業務のその先にあるものとは?
ーこれまで福祉課やこども課、企画課など様々な部署を経験されていますが、特に印象に残っている仕事や、ご自身の軸となった経験はありますか?
高橋:入庁してから6年半、福祉課(現在は組織改編のためこども課)でずっと子育て支援の業務に携わっていました。保育所の入所手続きや相談対応のほか、新しい保育所の新設などにも関わらせていただき、行政の仕事の基本を学ぶ良い時間でした。
その後、企画課に異動してからは公共交通の整備や地域おこし協力隊の運営など、町の政策の根幹に関わる広い視野を求められるようになりました。幅広く業務を経験できたことが、今の私の大きな財産になっています。
ー現在は係長という「中堅」を担う中で、仕事に対する向き合い方が変わった瞬間などはありましたか?
高橋:ある定型的な業務について「前例に沿って進めることが、住民にも役場にも一番スムーズかもしれない」と考えるようなことがあったのですが、その時、今の副町長から呼び止められて、ある問いを投げかけられたのです。
それは「そのやり方で本当に社会は良くなるかな?」という言葉でした。
ーとても本質的で重みのある問いですね。
高橋:そのとおりです。本当に心に深く刺さりました。
役場の仕事には、やって当たり前の定型業務がたくさんあります。前任者がやっていたからという理由で、従前通りにこなす方が圧倒的に楽ですし、ミスも起きにくくなります。
ですが、その問いをいただいたことで、「自分たちがやっている仕事は、単なる事務処理ではなく、この町や社会を良くするためのものであるはずだ」と強く意識するようになりました。それからは、どんなに小さな業務であっても、「地域のために」とか「もっと良い方法」という視点を持つようになりました。

「できない」を「できる」へ。私を変えた上司の言葉
ーこれまでの役場経験の中で、高橋さんが「成長した」と感じるエピソードを教えてください。
高橋:こども課に所属していた時に、「ファミリーサポートセンター」を庁内で新設するというミッションを担当したことがあります。この制度をスタートさせるためには、長時間の研修を企画・開催して、子どもを預かるボランティアの方々に受講いただく必要がありました。
講師の選定から会場の手配、参加者の募集まで、予算も時間もハードルが高く、他の自治体の状況を調査した際に「現行の体制では期間内に形にするのは難しい」と判断せざるを得ませんでした。
ー新規事業の立ち上げとなると、プレッシャーも大きいですよね。そこからどのように対応されたのですか?
高橋:「他自治体の状況を見ても、今の準備状況では年度内の実施は難しいです。もっと時間をかけて来年度以降に向けた準備をすべきだと思います」と、できない理由を報告書にまとめたのですが、当時の課長から「内容はよく分かったけど、これってできるよね?」と笑顔で返されてしまったんです。
ー「できない」という報告に対して「できる」という反応だったのですね?
高橋:そうなんです。
想定外の反応だったので少々驚いていたのですが、課長は「大丈夫。絶対にできるから、一緒にできる方法を考えよう!」と、明るく返されました。
それまでの自分は、何かを始めるときに「できない理由」を探してしまうことが多かったのですが、本来は「どうすればできるのか」を最初に考えるべきだったんです。
実際にこの時も、予定通り実施するためにはどうすべきなのか上司とも一生懸命考えて、なんとかスケジュール通りに進めることができました。
この経験は、自分を大きく成長させてくれたと思っています。ちなみに今の町長も非常に前向きなので、町長が職員だった頃に一緒に仕事をした時も、同じようなことが何度もありました。「やったほうがいいよ!できるよね?」って聞いてくるんですよ(笑)
これからも挑戦は続く。未来の仲間に向けたメッセージ
ー高橋さんは、現在どのような挑戦をされているのでしょうか?
高橋:現在は4月に新設されたばかりの地域づくり課「地域共創係」の係長を担っています。メインプロジェクトとしては、新たに就任された町長の公約である「食と農の育成学校」の立ち上げ準備に全力を注いでいます。
これは、どこかに新しくコンクリートの校舎を建てるというハード面の整備ではなく、町全体をフィールドとして、農業の担い手や食に関わる人々を育成する「仕組みとしての学校」を創るというプロジェクトです。
ー再び前例のない、これから創り上げていくことが大切になる業務ですね。
高橋:紫波町はもともと農業が盛んな町ですが、担い手不足が進む中で、いかに新しい価値を付加して次世代につないでいくのかが課題となっています。今は町の資源を洗い出し、一から仕組みを構築している最中です。
何もないところから形にしなければならないという大変さはありますが、一方で紫波町のためにアイデアを形にできるいい仕事だと思っています。また、同じ係の職員が前向きで頼れるメンバーなので、様々な場面で助けられています。

ー最後に、これから紫波町役場を目指す方や、公務員という選択肢を検討している未来の仲間へメッセージをお願いします!
高橋:受験を考えている段階では、「町のことをそこまで深く知らないし、自分に務まるだろうか」と不安に思う方もいるかもしれません。でも、町のことを好きになったり、仕事のやりがいを見つけたりする時間は、役場に入ってからでもあります。紫波町役場には、あなたの挑戦を温かく見守り、失敗しても一緒に走ってくれる職員がたくさんいます。
ー心強いメッセージですね。高橋さんとしては、どのような方にチャレンジしてもらいたいですか?
高橋:自治体の職員でありながら、生涯を通じて何かを学び続けたい、成長し続けたい、と思っている人には、これ以上ないほどお勧めできる環境です。
あまり難しく考えすぎず、「入ったらなんとかなるさ!」というくらいの気楽さとワクワク感を持って、ぜひ飛び込んできてください。
皆さんと一緒に、これからの新しい紫波町をつくっていける日を楽しみにしています!

ー本日はありがとうございました。
「自治体の仕事って、できない理由を探すことじゃなくて、どうすればできるかという前提で形にするものなんだ」インタビュー中、高橋さんが過去の言葉を振り返りながら語ってくれたこのフレーズが印象的でした。公務員に対して抱きがちな「前例踏襲」や「事なかれ主義」といった固定観念を、紫波町役場は覆してくれるのだと思います。
民間企業での経験を経て、家族との時間を大切にするために自治体への転職を選んだ高橋さん。中堅層のリーダーとして、新設されたばかりの「地域共創係」で新たなチャレンジをする姿からは、組織に対する絶対的な信頼と、仕事そのものを楽しんでいる熱量が真っ直ぐに伝わってきました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年5月取材)
撮影:紫波町企画課広報担当
この記事の官公庁・自治体
紫波町は岩手県のほぼ中央、盛岡市と花巻市の中間に位置する町です。交通の便に恵まれ、農村空間と都市的なコンテンツとの調和がとれた環境の中で、循環・協働・多様性の視点を大切にした「暮らし心地の良いまち」づくりを目指しています。
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