現場経験に勝る知識はない。異色のキャリアを歩む中堅職員が語る「ボールを止めない」仕事とは?

紫波町役場

2026/10/07

 自治体職員の仕事といえば、快適なオフィスでのデスクワークを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、人口約3万2,000人の岩手県紫波町役場で働く照井さんの日常は、そんなイメージとは少々異なります。

 電気技師として入庁し、下水道課でのキャリアを積んだ後、財政課で庁舎管理や「書かない窓口」の導入といった大きな業務改革を成し遂げ、現在は産業部環境課の副課長として前線に立っています。

 クマなどの鳥獣被害対策から循環型まちづくりの推進、さらには突発的なゴミ袋不足問題への対応まで、照井さんの仕事のフィールドは常に現場と直結しています。

 今回は、さまざまな部署を渡り歩きながら、組織の要として活躍する中堅職員の照井さんに、これまでの歩みと現場を動かすマネジメントの考え方、そして紫波町で働く魅力を詳しく伺いました。

 


広範な業務を総括する、環境課副課長としての挑戦

ー照井さんはこの4月から環境課副課長に着任されたとのことですが、現在の役割等について詳しく教えていただけますでしょうか?

 

照井:実は現在、環境課長は産業部長が兼務しており、私自身も副課長としての業務に加え、生活環境担当の係長職も兼ねています。組織の枠組みを超えて連携を深めつつ、課全体を俯瞰してスムーズに業務が回るよう、実務のコントロールを含めて幅広く責任を持って取り組んでいるところです。

 

環境課の中には、大きく分けて「生活環境係」と、林道などを管理する「林務係」の2つの係があります。副課長でありつつ、この生活環境係の業務全般を総括し、実務も含めて広く受け持っている状況です。

 

ー実務も幅広く担当されているのですね。具体的にはどのような業務を受け持っているのでしょうか?

 

照井:生活環境係の業務範囲は非常に広いです。循環型まちづくりの推進、狂犬病関係の対応、環境保全・公害対策、ゴミ処理・リサイクル、し尿処理、火葬場管理、そして今まさに話題になっているクマなどの鳥獣被害対策などがあります。

 

各々の業務に担当の職員はいるのですが、現場対応が求められることも多いので、私もマネジメントだけにとどまらず、一緒に現場へ行って実務に携わっています。

 

また、現在は盛岡地区などの広域で新しいゴミ処理場を建築しようという大きなプロジェクトが動いています。4月に異動してきてまだ1ヶ月半ほどですが、ようやく所属業務の全体像が見えてきたような感じがしています。(まだまだ分からないことも多いですが…)

住民の「困りごと」に直面する現場。求められるのは情報を止めずに回すスピード感

ー内部向けの業務が多かった財政課と比較すると、「住民」と向き合う頻度が圧倒的に大きくなりましたね?

 

照井:本当にその通りで、財政課の時は庁舎内のシステム管理や財産管理など、どちらかというと職員向けの内部事務がメインでした。それが環境課に来てからは、一気に外向きの町民向け業務に変わりました。

 

環境課の仕事は、住民の皆さんが何か「困りごと」を持って役場に駆け込んでこられることがほとんどです。そのため、基本的には「対処」を求められるようなことが多くなり、そこがこの課の大変なところだと実感しています。

 

先日ニュースで話題になったようなナフサの供給量の影響によるゴミ袋不足問題や、クマの被害、騒音や廃棄物・環境整備問題など、一言で「環境」とはいっても、突発的なものから長期的な視点で対応が必要なものまで、本当に様々なケースがあるんです。

 

ー役場だけで解決できるものだけではないですよね?関係各所とのコミュニケーションでも意識されていることなどはありますか?

 

照井:おっしゃる通りで、多くは役場だけでなく、外部団体と協力して解決する必要があります。

 

例えばクマの対策などは、実際に山に入って捕獲などを行ってくれる猟友会の方々がいないと成り立ちません。私たちは行政区長さんや環境衛生区長さん、そして猟友会の皆さんとの間に立つパイプ役です。ここで私が意識しているのは、「情報を役場だけに留めない」ということです。

 

私たちは常に情報を素早く関係各所にパスしていかなければなりません。ただ、単にボールを丸投げしてパスを出すだけでは、相手方の理解を得ることはできません。しっかりと役場と相手方の間で共通認識を持った段階で、素早く次のパスを出す。これは過去の経験からも、とても重要だと思っています。

 

技師としての下水道課時代と、DX化をけん引した財政課時代

ー照井さんはもともとは電気技師として入庁されたとのことですが、入庁までの歩みについて教えていただけますか?

 

照井:私はもともと電気技師として入庁しました。そのため、最初の10年間は下水道課に所属し、施設の維持管理業務を担当していました。

 

大学では超電導を専攻していたのですが、卒業後すぐに紫波町に入庁したわけではありません。当初は岩手県内の分析センターで浄化槽の検査に携わったり、近隣自治体で構成する一部事務組合のし尿処理施設で水処理の仕事を経験したりしていました。

 

その後、その組合が解散することになり、働いていた職員は各自治体へ移籍する予定だったんです。ちょうどそのタイミングで、紫波町役場が電気技師の募集を行っていました。

 

そのまま待っていても移籍という形で入庁はできたのですが、「自分の意志で紫波町を選びたい」というある種のこだわりから、あえて採用試験を受けて入庁しました(笑)

 

ーあえて試験を受けて入庁されたのですね。下水道課の後は財政課へ異動されたようですが、そこではどのようなお仕事をされていたのですか?

 

照井:財政課では財産管理係長として、庁舎の管理や並行して進んでいた空き校舎の利活用、そして庁内のシステム管理を担当しました。それまでずっと現場にいた私にとって、システム全体の管理という未知の業務は本当に大変でしたね。

 

その中で「業務改革(DX)」を進めようというミッションが立ち上がりました。ちょうどそのタイミングで、当時の企画総務部長(現町長)から他自治体のOBで業務改革を進める専門家の方を紹介していただき、一緒に業務を進めることとなりました。

 

その時に学んだことの一つが、すぐにデジタル化を進めるのではなく、「現在業務の必要性」という根本的な疑問とその解消を大切にし、お金をかけずにまずは業務の無駄を省く「アナログ改革」を徹底的に行い、その最終手段としてデジタルを活用しなければ、DXは長続きしないという教えでした。

 

そして、業務改革はアナログ改革からデジタル改革まで幅広く庁内全体に関わることから、今では総務課を中心として事業を進めることとなりました。

 

ー現場を良く知っていたからこその発想かもしれませんね。最終的にDX化につながった業務としては、どのようなものがありましたか?

 

照井:私が携わったもので一番大きかったのは、窓口での申請用紙への記入を不要にする「書かない・迷わない窓口」の導入と、キャッシュレス決済の開始です。

 

また、令和7年度末までにシステム構築が必要だった「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」についても、主担当の職員を中心に対応を進め、ほぼ予定どおり進めることができました。

 

「書かない・迷わない窓口」の導入にあたっては、山形市への視察などを行い、住民基本台帳システムとデータを紐づけるシステムを構築したのですが、町民課の職員から「逆に業務が煩雑になって増えるのではないか」という強い課題感もたくさんあがりました。

 

そこでも、自治体OBの専門家(その時は2名の方にDXとシステム標準化のアドバイザーをお願いしていました)に入っていただき、一緒に動いてもらいました。数々の成功経験を積んできた外部の専門家の方が間に入ってくださったことで、庁内の議論が驚くほどスムーズに進みました。また、町民課をはじめとした担当課の職員が、それぞれの業務の立場から積極的に議論し、改革を進めてくれたことも大きな力となり、3年間で大きなシステム改革を成し遂げることができました。

人生最大の転機。未経験で挑んだ女子バレーボール監督での学び

ー照井さんの経験の中で、仕事観が大きく変わるような転機などはありましたか?

 

照井:とても大きな転機がありました。財政課にいた頃、当時の企画総務部長(現町長)から「文武両道場という研修に行ってみないか」と声をかけられたのです。

 

それは筑波大学の体育・芸術系教員らで創業されたベンチャー企業が研究開発した半年間の外部研修(研修という言葉は使用不可なので以下道場とします)だったのですが、断る理由もなく、内容をよく理解しないまま「行きます!」と軽い気持ちで引き受けました。

 

ところが、いざ道場に行ってみると、なんと役場の業務から大きくかけ離れた、関東の女子高生バレーボールチームの監督を務め、いかにチームを勝ちに導くかという、壮大なマネジメントの実践だったんです(笑)

 

ー役場職員として参加した研修としては凄まじいシチュエーションですね。そこでの経験はどのようなものだったのでしょうか?

 

照井:バレーボールの経験があったわけでもないので、本当に何も分からないところからのスタートでしたが、求められたのは女子高生たちと真剣に向き合い、彼女たちのモチベーションをどう高め、組織としてどのように機能させるかという、まさにマネジメントの視点だったのです。

 

結果として、私が率いたチームはその大会で優勝することができました。

 

この半年間の経験は、私の仕事に対する見方を180度変える大きな転機となりました。バレーボールというスポーツは、他の球技とは少し異なり、自分の陣地が決められ、ボールを自分の手元に止めることができません。ボールが来たら、必ず次の場所に届けなければならないのです。これは役場における組織の仕事でも全く同じだと気付きました。

大きな転機となった「文武両道場」。アイスブレイクで参加者同士の交流を深める様子。

ーそれで、先ほどの業務説明でも「ボール」という表現があったのですね(笑)その気づきは、現在の業務ではどのように活きているのでしょうか?

 

照井:仕事においても、要望や情報という「ボール」を自分のところで止めてはいけないのです。しかし、相手がボールをキャッチする準備ができていない、あるいはどのように動くべきかの共有がされていない状態でパスを出してしまえば、ボールは床に落ちて失敗してしまいます。

 

お互いに「今はこういう状況だから、ここにボールを出す」という共通認識をあらかじめ持ち、チームとしての作戦を理解した上で、素早く、正確にパスを出すことが大切です。このバレーボールの監督時代に身につけたマネジメントの感覚が、現在の庁内部署や外部団体、他自治体との複雑な調整業務において、私の大きな強みになっています。

机上の知識より現場の経験。素直に受け止め、行動を起こす仲間を

ーこれまで技術職の枠を超えて多彩な現場を経験されてた照井さんですが、これから先、どのような方と一緒に働きたいですか?

 

照井:最近の紫波町役場には、新卒の方はもちろん、民間企業での経験を持った中途採用の方など、本当に多様な人材が入ってきてくれています。

 

皆さん素晴らしい知識や前職でのスキルを持っているのですが、役場で活躍するために私が一番大切だと思うのは、「まずは素直に先輩や周りの話を聞き、受け止めることができるかどうか」だと思います。

 

役場には、長年住民と向き合い、さまざまな修羅場を経験してきた職員がたくさんいます。自分が持っている知識だけで物事を判断せず、まずは役場の歴史や先輩たちの経験談を一度素直に受け止める。そこから自分の知識をどう掛け合わせて方向付けしていくかが、本当に重要なのだと思います。

 

ーその場所を知った上で自身の知識経験を活かすことが大切なのですね。最後に、これから紫波町を目指す方にメッセージをお願いいたします。

 

照井:私はこれまでの役場人生を振り返って、「机上の知識も大事ですし、それに現場経験が加わるとさらなる成長につながる」と思っています。

 

もし役場に入ったならば、色々な方の話を聞き、どんどん現場へ出ていってほしいと思います。探求心を常に持ったバイタリティ溢れる皆さんと一緒に、これからの紫波町を盛り上げていける日を、心から楽しみにしています。

 

頑張ってください!

ー本日はありがとうございました。

 

 電気技師として入庁し、下水道課、財政課、そして環境課へと、一見すると脈絡のないようなキャリアを歩んできた照井さん。しかし、その語り口からは、どの部署にいても変わらない「現場主義」の確固たる信念が伝わってきました。

 印象的だったのは、未経験で挑んだ女子高生バレーボールの監督経験を、現在の複雑な住民対応や他団体との調整業務に完全に昇華させている点です。「ボールを自分のところで止めない。でも、作戦を共有せずに投げてもいけない」という言葉は、縦割りになりがちな行政組織において、最も必要な協調性とスピード感を表現していると感じました。

 紫波町役場には、技術職であってもこれほどダイナミックに挑戦し、成長できるフィールドが広がっています。照井さんのような頼もしい中堅職員が真ん中にいるからこそ、若手も安心して現場へ飛び込んでいけるのだと確信させられる、熱量の高い取材でした。

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年5月取材)

撮影:紫波町企画課広報担当

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紫波町は岩手県のほぼ中央、盛岡市と花巻市の中間に位置する町です。交通の便に恵まれ、農村空間と都市的なコンテンツとの調和がとれた環境の中で、循環・協働・多様性の視点を大切にした「暮らし心地の良いまち」づくりを目指しています。

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