「建築」の枠を越え、街の未来をデザインする。女性技術職という選択。
糸満市役所
「公務員の技術職」と聞くと、オフィスに籠もって黙々と図面を引く姿や、お堅い仕事を真っ先に想像する人が多いかもしれません。しかし、糸満市役所の農村整備課で働く上原さんの日常は、そんなイメージとは大きく異なります。建築士の資格を持つ「土木職・建築職」として入庁した上原さんが現在向き合っているのは、なんと、広大な農地を、地域の農業基盤として根底から支える「土木」の領域です。前職の設計事務所時代とは180度異なるフィールドに戸惑いながらも、自らの知識を常にアップデートし続ける上原さん。街全体のインフラをデザインするという行政ならではのやりがいと、女性技術職としてプライベートも大切にしながらのびのびと活躍できる職場のリアルな魅力をお聞きしました。
- 建築から未知なる「土木」の世界へ!農村整備課で挑むスケールの大きな仕事
- 恵みの水を届ける。糸満が誇る「地下ダム施設」とその役割
- 民間から行政への転身。「実家の設計」という夢と働き方の見直し
- 「綺麗に整備されたね」の一言が原動力。市民全体を支える行政ならではのやりがい)
- 女性技術職が自分らしく輝ける場所。チームで支え合う糸満市役所の温かさ
建築から未知なる「土木」の世界へ!農村整備課で挑むスケールの大きな仕事
ー上原さんは平成30年に入庁されたとのことですが、現在の所属と主な業務について教えていただけますか?
上原:私は「土木職・建築職」として入庁し、現在は農村整備課の計画管理係に所属しています。日々の主な業務としては、農村地域の整備計画や土地改良事業の計画に携わっています。
具体的には、地域にお住まいの農家の方々や地元の方々から「ここの農地を使いやすく、土地改良事業で農地の基盤整備を行ってほしい、農道や集落基盤の整備を行ってほしい」という要望を受けるところから私たちの仕事が始まります。
その要望を元にして、沖縄県やその他の関係機関と調整を行い、事業化に向けて計画を練り上げていきます。事業化した後は、実際に現場の工事へと進んでいくのですが、糸満市で行われる土地改良事業は全体的に規模が非常に大きいという特徴を持っています。
そのため、主に沖縄県が主体となって行う「県営事業」として進めることが多く、私たちは県と地元の農家との間に立って、調整役となることが多いですね。
ーお話を聞いていると土木分野のように聞こえますが、上原さんは建築士でしたよね?
上原:そうですね。本来であればこの農地整備や土地改良という仕事は、土木職の職業分類に入るものになります。先程もお話ししたとおり、私は建築士の資格を持つ「土木職・建築職」として採用されました。
しかし、糸満市役所では土木職や建築職といった個別の専門分野にとらわれすぎず、大きく「技術職」という一つのくくりで人事異動が行われる仕組みになっています。そのため、建築職の職員が土木系の部署に配属されて業務を行うこともありますし、逆に土木職の職員が建築系の部署に回って建物の建築や管理を担当することもあります。
私は前職が設計事務所だったということもあり、土木分野の配属になったときには「どうしよう」という不安からのスタートでした(笑)

恵みの水を届ける。糸満が誇る「地下ダム施設」とその役割
ーこれまでに携わった業務の中で、印象に残っているものはありますか?
上原:土地改良事業に関しては、規模も大きかったため印象に残っています。
この地下ダム施設は、土地改良事業を進める上ではとても重要な施設となっています。農業を営むためには、安定した「水」の存在が不可欠になります。
土地改良を行う対象の畑については、この地下ダム施設から供給される水を取り入れて、しっかりと利用できるようにするための水利計画や分配計画を、畑の区画整理計画と一緒に行って、整備しているのです。
ーそもそも地下ダム施設というのは、どういった仕組みなのでしょうか?
上原:これは通常のダムとは構造が違っています。通常であれば、雨などが降って地下に染み込んで溜まった水は、そのまま海や川といった別の水域に向かって自然と流れていってしまいますが、地下ダム施設では、その地下水の流れをせき止めて、地下の地層の中に大量の水を貯めておくという仕組みになっているんです。
糸満市と八重瀬町を含む沖縄本島南部地区では現在、海岸付近に2箇所の壁を設けてダムを作っています。国営事業として建設された施設なのですが、この地下ダム施設から、個々の畑へと分配するための配管網を敷いたり、水を利用するための水栓を設置したりする工事を、県営の土地改良事業の一部として進めています。
ー前職の設計事務所での仕事とは、スケール感も領域も全く異なるお仕事ですね。
上原:本当に全く違う領域の仕事になりますね(笑)
前職では個人の住宅という、特定の誰かのための建築空間をつくっていましたが、今は街の農業インフラそのものを計画しているので、最初は本当に土木寄りの仕事のダイナミックさに圧倒されました。現場に出ることももちろんありますが、この部署では多くの関係者と内部で調整を行う計画業務の割合が比較的多いため、頭を使うデスクワークも多く、日々奮闘しています。

民間から行政への転身。「実家の設計」という夢と働き方の見直し
ー少し話が遡りますが、上原さんが「建築」という分野を学ぼうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
上原:糸満市で生まれ育ち、高校までずっと地元で過ごしていたのですが、高校生くらいの時期から、「自分の実家を、自分で設計して建て替えたい」という夢を持っていたんです(笑)
そんな時、通っていた高校にたまたま建築の専門学校の先生が来て、建築という仕事についてお話を聞く機会がありました。具体的な内容や面白さについてお話を聞いているうちに、 興味が強く湧いてきて、「本気でこの道に飛び込んでみよう」と決意しました。
高校卒業後、大好きな地元を離れ在学中に二級建築士の免許取得までをサポートしてもらえる名古屋の専門学校に通いました。その後、無事資格を取得し、卒業後は沖縄に戻って個人住宅をメインに取り扱う設計事務所へ入社しました。そこで約7年弱、住宅設計の実務経験を積んでいきました。
ーやりたい仕事だったのかとも思いますが、なぜ糸満市役所への転職を考えられたのでしょうか?
上原:設計事務所での仕事そのものはとてもやりがいもあり楽しかったのですが、どうしても自分の時間を確保することができないような状況でした。自分のこれからのライフステージや生活スタイルが変化していった時のことを想像した時に、「ずっとこの働き方ができるだろうか」という不安と葛藤が生まれました。
設計事務所の業務を行っていると、確認申請などで役所へ行く機会も多く、「役所の中で技術職として働くのも面白そうだな」と感じていたため、働き方を変えるべく、地元糸満市役所を受験しようと決めました。
ーちなみに、夢だった実家の建て替えは、前職時代に叶えることができたのでしょうか?
上原:実はまだ建て替えていないんです(笑)
ただ、今後建て替えの時期を迎えたら絶対に自分で設計をしようと、今でも心の中で大切に思っています。
「綺麗に整備されたね」の一言が原動力。市民全体を支える行政ならではのやりがい)
ーこれまでの経験の中で「行政の技術職ならでは」と感じた瞬間があれば教えてください。
上原:これまで海人課(現:商工水産課)での漁港施設の管理、建設課での道路事業など、様々な業務を経験しましたが、行政の仕事の醍醐味を特に実感したのは建設課での道路事業や、現在の農村整備課での土地改良事業ですね。
行政の仕事は「市民のため」に公共のインフラを整備し、計画することなので、自分が工事や計画に携わった道路や農地は、この先もずっとこの街に形として残り続けます。
自分が担当した工事によって、元々狭かった道が広く整備されたりすると、自分も一市民として「便利になったな」と大きなスケール感とやりがいを実感することができます。

ー地域インフラを整備する仕事だからこそ、住民の方々の声を直接聞く機会も多いのでしょうか?
上原:それは非常に多いですね。
工事期間中は、どうしても近隣の方々にご迷惑をおかけしてしまうことも多いため、お電話などでご意見をいただくことも正直たくさんあります。ですが、工事が完了すると、地元の農家さんから「綺麗な農地にしてくれてありがとう」「見違えるほど便利になった」と直接お礼の声を届けていただけることもあります。
ご迷惑をおかけした期間を乗り越えて、最後にその温かいお言葉をいただけた瞬間は、本当に嬉しさが込み上げてきますし、この仕事をやっていて良かったなと強く思いますね。

女性技術職が自分らしく輝ける場所。チームで支え合う糸満市役所の温かさ
ー技術職というと、まだまだ男性が多いイメージですが、女性の視点から見た糸満市役所の働きやすさはいかがですか?
上原:そういうイメージを持たれるのはすごくよく分かります。しかし、実は糸満市役所では、私が採用された頃から女性技術職の採用も増えているんです。そのため、職場には同じ立場の女性技術職の仲間がたくさんいます。
男性の先輩には少し聞きづらいような悩みや体調のことなどがあったとしても、同じ女性の技術職員同士で気軽に相談し合える環境が整っているのは非常に心強いですね。
また、私の周りでも、産前産後休暇や育児休業を取得した後に、職場復帰して通常通り業務をこなしている方がたくさんいます。ライフステージや生活スタイルが変化したとしても、周囲の理解があって不自由なく働き続けられる環境があるので、女性がとても働きやすい職場だと思っています。
ー転職の理由として挙げていた「ワークライフバランス」という点については、充実することができていますか?
上原:とても充実していると思います。
もちろん、所属部署によっては整備が計画どおりに進まなかったり、年度末に向けて工事が集中したりして、時期によっては残業が増えるという仕事の「波」はあります。それでも、年中ずっと忙しいわけではなく、繁忙期以外はうまく仕事と休みの切り替えを行うことができています。
糸満市役所は本当に良い意味で緩やかというか、誰もが温かく話やすく相談しやすい雰囲気を持っています。業務の中で何か分からないことが出てきても、周りの技術職の先輩方がみんな優しく丁寧に教えてくれるので、人間関係で悩むこともなく毎日を過ごせています。
ー最後に、行政の仕事に興味を持っている方へ向けて、メッセージをお願いいたします!
上原:行政の技術職は、民間企業とは違って「発注者」という立場で、市民生活に関わる大きな計画の前段階から主体的に携わることができる素晴らしい仕事です。
専門外の部署に配属されて不安を感じることもありますが、そこで得た新しい知識や経験は、必ず自分自身の大きな成長へと繋がっていきます。
糸満市役所には、困った時にいつでも手を差し伸べてくれる温かい先輩や仲間たちがたくさん待っています。少しでも興味があるのであれば、まずは難しく考えすぎずに、このやりがいに満ちた世界へと一歩を踏み出して、飛び込んできてほしいなと思います!

ー本日はありがとうございました。
建築の専門家としてのバックグラウンドを持ちながら、漁港の管理や道路の建設・設計、そして広大な農地を潤す地下ダムの活用計画まで、自らの領域を軽やかに広げてこられた上原さん。インタビューの中で「最初は専門外でどうしようと思った」と笑顔で語るその表情からは、未知の分野をも自らの成長の糧へと変えていく技術職としてのタフさと、地元・糸満への深い愛着が真っ直ぐに伝わってきました。
充実したプライベートを確保しながらも、街のインフラを前段階からデザインするというダイナミックな使命に挑む姿は、これからの公務員像の理想そのものではないでしょうか。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年6月取材)
この記事の官公庁・自治体
糸満市は沖縄県の最南端に位置し、県道256号線(旧国道331号)の海側には、海人(ウミンチュ)のまちとして知られる糸満の市街地が広がり、マチグヮー(市場)には、たくましいアンマー(お母さん)たちの声が飛び交っています。 旧暦の時間とともに、糸満ハーレーや大綱引きなどの行事を行い、古き良き風習や伝統を大切にしています。
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