「母子手帳を交付してくれた保健師さんですよね」―1年越しの再会が教えてくれた、住民との距離

天草市役所

2026/10/28

7・8か月児健診の会場で、「母子手帳を交付してくれた保健師さんですよね」と声をかけられたんです。

 

そう振り返るのは、天草市役所こども家庭課で保健師として働く畑島千尋さん。畑島さんは大学を卒業後、病院で3年間、小児科の看護師として勤務しました。その後保育園の保健師業務を1年間経験したのち、令和3年度に天草市役所へ入庁されています。

 

今回は、保健師としての役割やその先にあるやりがいについて伺いました。

 

 

 

 


 

看護師から保健師へ。病院、保育園で見えてきた仕事の違い

 

ー畑島さんのご出身と、保健師を目指したきっかけを教えてください。

 

畑島:出身は長崎県の五島、離島育ちです。通っていた大学は4年制で、もともとは小児科の看護師になりたいという思いがあり、保健師は視野に入っていませんでした。大学の講義で「予防」という言葉に触れたことで、保健師に関心を持つようになりました。

 

 

ー保健師という選択肢が生まれた具体的なきっかけはありますか。

 

畑島:保健師課程の実習で、4週間かけて地域を歩きながら、ひたすらインタビューから得た実情と実際の統計データを突き合わせる作業を繰り返し、住民の健康課題とそれに対する対策を発表する実習がありました。この実習が、とても楽しかったことを覚えています。ただ、小児科の看護師への思いも諦めきれず、まずは病院に入ることを選びました。

 

 

ー病院ではどのくらい勤務されたのでしょうか。

 

畑島:実習先でお世話になった総合病院に入職し、1年目から小児科に配属していただきました。丸3年、小児科の看護師として勤務しました。

 

 

ー病院での勤務のあと、保育園の保健師へ転職されています。きっかけを教えてください。

 

畑島:小児科では重症のこどもたちと多く接しました。振り返ると、最後の1年はこどもの死にも向き合う日々だったと思います。そして、結婚を機に、医療現場以外でこどもと関わる仕事がしたいと考えるようになりました。そのような中、保育園で保健師の募集を行っていたため、地域のこどもたちの生活に触れてみたいと思い未経験のまま飛び込みました。

 

 

ー看護師と保健師、それぞれの仕事に違いは感じましたか。

 

畑島:看護師は病気や体調不良など、ほとんどが何かしらの症状があって病院に来る人が対象なので、治す、元気になるという目的を患者さんやそのご家族と共有しやすい仕事だと感じていました。一方で、行政の保健師は助けを求めていない方、症状がない方を含めた地域住民全体が対象であり、地域予防のシステムづくりにも関わっていきます。そこが違いであり、保健師という仕事の魅力にもなっていると思います。

 

 

コロナ禍からの入庁。今すぐできないもどかしさとの向き合い方

 

ー民間から公務員という選択肢を選んだ決め手は何だったのでしょうか。

 

畑島:まず安定した環境で働きたいという思いがありました。加えて、実習で経験したような、地域全体の予防に関わる保健師の仕事に興味があったことも理由の一つです。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたことをきっかけに、これまでの経験を振り返り、保健師の採用試験を受けようと決めました。

 

 

ー天草市を選ばれた理由についても教えてください。

 

畑島:結婚を機に天草で暮らすようになり、もともと船や飛行機でしか隣の市にも行けないような離島の出身なので、天草は車でどこへでも行けるため不便に感じたことがありませんでした。保育園で保健師をしていた1年間、多くの方に助けていただいたことを覚えています。公務員として、お世話になった天草のみなさんに恩返しがしたいという思いもありました。

 

 

ー実際に入庁されてから、想像とのギャップを感じた場面はありましたか。

 

畑島:保健師の業務だけをしていればよいと思っていた部分があります。実際には、書類の手続きや予算についての知識も必要でした。入庁した令和3年度はちょうどコロナ禍で、先輩たちも手探りの状態で対応にあたっていた時期です。ワクチン業務の部署に配属となり、電話での問い合わせ対応が多い日々を送りました。

 

 

ー市役所ならではの難しさを感じた場面があれば、具体的に教えてください。

 

畑島:予算や法律により、支援などの枠組みがすでに決まっているため、どうしてもその枠組みに収まらない方もいらっしゃいます。使いたい制度やサービスが使えない、といった場面で、相談者側も支援者側も今したいことがすぐにできないもどかしさを感じることがあります。

 

 

ーそのもどかしさは、どのように向き合ってこられたのですか。

 

畑島:最初は、制度やサービスを使いたいという要求だけを受け止めようとしていました。先輩たちと話す中で、その要求の裏にある本当の困りごとに目を向けるようになりました。特定の支援制度に依存せず別の方法を一緒に探せるようになったのは、そのおかげです。今もモヤモヤすることはありますが、以前に比べると、もどかしさはずいぶん減ってきました。

 

 

初めて1人で交付した母子手帳。1年後の再会が教えてくれたこと

 

ー現在は、こども家庭課でどのような業務を担当されていますか。

 

畑島:主な仕事は、乳幼児健診や赤ちゃん訪問です。地区ごとに担当が分かれていて、それぞれのご家庭や保育園を訪問したりして、こどもたちの成長発達の支援や保護者の方の育児支援をしています。ほかにも、育児学級として保護者の方向けに育児講話をしたり、地域に出向いて出前講座でお話をさせてもらうこともあります。地域の子育てを、広く支える仕事です。

 

 

ーこれまでのお仕事の中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

 

畑島:一番印象に残っているのは、初めて1人で母子手帳を交付した時のことです。相手は初めて出産される方で、何が分からないのかも分からない、という状態でした。以前の看護師の仕事では、薬の副作用や退院までの見通しなど、決まった質問に答える場面がほとんどだったと思います。この時は、その方と一緒に何に困っているのかを掘り下げながら、1時間半ほどかけて話を聞いていきました。

 

 

ーその1時間半では、具体的にどのようなやり取りをされたのですか。

 

畑島:事前に書いていただいたアンケートに沿って、1つずつ聞き取りをしていきました。漠然とした不安の中から「なぜここにチェックを付けたのか」「それはどんな気持ちからか」といった原因や理由を一緒に掘り下げていく作業です。今振り返ると、少し聞きすぎていたかもしれないと思うこともありますが、それだけ真剣に向き合っていたと感じています。

 

 

ーその後は、どのような出来事がありましたか。

 

畑島:1年ほど経ったころ、その方と健診でたまたま顔を合わせることがありました。そこで「母子手帳を交付してくれた保健師さんですよね」と声をかけていただきました。積極的に相談してくるタイプの方ではなかったので、覚えていてくれたことがとても嬉しかったです。

 

 

ー病院や保育園での経験は、今の仕事に生きていますか。

 

畑島:看護師として働いた経験から、こどもが入院するときの保護者の付き添いの過酷さを具体的にイメージできることが強みだと感じています。乳幼児健診中に保護者の方から「こどもが1か月ほど入院してつらかった」と聞いたことがあります。

 

その時も、こども本人の体調だけでなく、付き添う保護者の負担にも目を向けて、声をかけることができました。保育園での経験からは、教科書ではわからない保育現場でのリアルなこどもの発達の進み方や個人差についての実感を得ることができました。今の乳幼児健診でも、こうした経験が生きています。

 

 

支え合う距離の近さ。これから目指す保健師像

 

ー天草市役所で保健師として働く魅力を教えてください。

 

畑島:天草市以外での経験がないので比較はできませんが、保健師同士の距離が近いことは魅力だと思います。困った時にふと漏らした一言を、誰かが拾ってくれる環境があり、孤立せずに仕事ができています。母子保健以外の分野を経験してきた先輩にも相談できるので、自分が知らない領域についても学べるのが強みです。

 

 

ー天草市の子育て支援について、保健師として、また一人の保護者として感じることを教えてください。

 

畑島:天草市の子育て施策はとても充実していると感じます。医療費と保育料の無償化に加えて、妊婦や生後1年未満のこども(多胎の場合は生後2年未満)を養育する家庭に対し、家事支援サービスやこどもの一時預かりサービスを提供する「子育て世帯訪問等支援事業(ママパパサポート)」というサービスもあります。

 

私自身、子育てをする中で、この子育て世帯訪問等支援事業に何度も助けられました。一方で、こうした支援制度が住民に十分伝わっていないと感じる場面もあり、保健師として地域の社会資源と相談者をつなぐ役割の大切さを実感しています。

 

 

ー休日はどのように過ごされていますか。

 

畑島:天草にいる時は、家族で知らない道をあてもなくドライブしたり、コーヒーを飲みに出かけたりしています。県外に出る時は、こどもを家族に預けて、大学時代の友人と東京や大阪で過ごすこともあります。長崎の実家にも、定期的に帰るのが習慣です。休暇も取得しやすい環境なので助かっています。

 

 

ー今後、どのような保健師を目指していきたいですか。

 

畑島:「困った時にあの人につぶやいてみよう」と顔を思い浮かべてもらえるような保健師になりたいです。

 

 

ー最後に、天草市を目指す方へメッセージをお願いします。

 

畑島:民間企業での経験は、市役所の仕事でも十分に生きています。デスクワークの経験がないことに、不安を感じる方もいるかもしれません。ですが、看護師として培った臨床の経験は必ず生きる場面があります。少しでも興味があれば、ぜひ保健師を目指してほしいです。

 

 

ー本日はありがとうございました。

 

畑島さんのお話から伝わってきたのは、目の前の一人ひとりと向き合う丁寧さでした。母子手帳を交付した1年後、声をかけてもらったというエピソードがあるように、そうした関わり方の積み重ねが住民との信頼につながることを物語っています。

 

制度の枠に悩みながらも、先輩たちに相談しながら乗り越えてきたその歩み方は、これから天草市役所を目指す方にとっても参考になるはずです。

 

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年9月取材)

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天草市は、熊本県南西部に位置し、周囲を藍く美しい海に囲まれた天草上島と天草下島および御所浦島などで構成する天草諸島の中心部に位置しています。 温暖な気候を活かした農業や、豊かな水産資源を活かした漁業を主として発展してきました。また、自然景観、南蛮文化やキリシタンの歴史など、多くの観光資源にも恵まれています。 県庁所在地の熊本市からは、車で2時間ほどを要しますが、産業の発展や地域間交流など、福岡・長崎・熊本・鹿児島を結ぶ九州西岸地域の拠点としてあらゆる分野において発展が期待されている地域です。

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