地元への貢献と安定を選んだ先に ― 箱根の舞台から国東市役所へ
国東市役所
「ずっと長く、同じ競技を続けてきた継続性というのはあると思います」
そう語るのは、国東市役所福祉課で福祉・障がい者支援係として働く松岡涼真さんです。
陸上競技で活躍した学生時代を経て、大学卒業後は民間企業からの内定もありましたが、選んだのは地元・国東市役所への入庁でした。入庁後は建設課で3年間勤務し、現在は福祉課で働いています。
今回は、進学や就職をきっかけに一度地元を離れた方に向けて、国東市で働くことの魅力や、仕事と子育ての両立についてお話を伺いました。
- 箱根のアンカーを務めた学生時代。地元・国東で選んだ公務員という道
- 道路の穴から街路灯まで。住民の暮らしを支えた建設課での日々
- 未知の福祉の世界へ。窓口の先にある一人ひとりの生活と向き合う
- 育休3か月で気づいたこと。家族との時間を大切にできる働き方
箱根のアンカーを務めた学生時代。地元・国東で選んだ公務員という道
ーまず、これまでの経歴について伺えますか。
松岡:小学校、中学校と国東で過ごし、陸上競技の推薦で大分東明高校へ進学しました。目標はただ一つ、箱根駅伝を走ることで、その夢を追いかけて、箱根駅伝の常連校である東京の拓殖大学へ進みました。そして大学2年生のとき、箱根駅伝復路10区、アンカーとして本戦を走る機会に恵まれました。あの舞台に立てたことは、今でも自分にとって大きな誇りです。
ー大学卒業後の就職活動では、地元に戻る以外の選択肢も考えていらっしゃったんですか。
松岡:大学卒業を前にした就職活動では、民間企業から内定をいただいたこともありました。正直、都会でキャリアを試してみたい気持ちも本気でありました。国東に戻ることに、迷いがなかったわけではありません。それでも頭にあったのは、走ることが好きになったきっかけをくれた地元に対する貢献の思いです。
ーほかにも、何か決め手になった出来事はありましたか。
松岡:大人になってから分かったことなんですが、市営の野球場や陸上競技場は、営利を目的としない分、民間企業よりも手頃な価格で利用できていました。お祭りなどのイベントに補助金が出ていたことや、小さい頃によく遊んでいた公園も行政が管理してくれていたことを、大人になってから知りました。地元に貢献したいという思いもありましたし、そうした行政の存在に気づいたことも重なって、国東市役所への入庁を決めました。
ー長年続けてこられた陸上の経験は、今のお仕事にも活きていると感じますか。
松岡:我慢強く、ずっと長く同じ競技を続けてきた継続性というのはあると思います。地道にですけど、どの日も大きな変化があるわけではなくても、少しずつやっていけているなと思っています。

道路の穴から街路灯まで。住民の暮らしを支えた建設課での日々
ー入庁後、最初に配属された建設課では、どのようなお仕事を担当されていたんですか。
松岡:建設課というと大規模な工事をイメージされると思うんですが、私は管理係というところで、道路に穴が開いた、草刈りをしてくださった地元の方に報酬を支払う、といった事務を担当していました。市が管理している街路灯が壊れた際の交換対応なども行っていました。
ー住民の方からのご相談やご要望も多かったのでしょうか。
松岡:小さいものから大きいものまで多かったです。よくあったのは、木が倒れて道を塞いでいるので切ってほしい、道路に穴が開いていて危険ではないか、といったご要望でした。多い日で1日5件ほどご連絡をいただくこともありましたね。
ーそうした対応は、どのような流れで進められていたんですか。
松岡:職員で対応できるものは対応し、どうしても難しいものは業者に依頼していました。私一人で判断できない部分は、上司に相談しながら進めていました。台風10号のあとには、道路の補修など軽微な修繕を担当することもあります。
ー台風のあとの修繕では、実際にどのような作業をされていたんですか。
松岡:専門的な知識がある職員に意見を聞きながら進めていました。道路に穴が開いていたら、その部分だけを直すのではなく、周りのコンクリートも一緒に剥がして、新しいコンクリートに張り替える、というくらいの軽微なものですね。専門職採用ではないので分からないことも多いんですが、そうやって一つずつ覚えていきました。
ー建設課での日々を振り返って、どんな毎日だったと感じますか。
松岡:予期せぬことや想定できないことが次々と起こる毎日でしたね。自治会長をはじめ、市民の方々や地元業者の方々と協力しながら物事を進めていました。皆さんと一緒に、市のインフラを作り上げていく過程には、大きなやりがいを感じていました。大きな工事ではなく、住民の暮らしのすぐそばにある課題に、一つひとつ向き合ってきた3年間だったと思います。

未知の福祉の世界へ。窓口の先にある一人ひとりの生活と向き合う
ー現在所属されている福祉課では、どのようなお仕事を担当されていますか。
松岡:建設課と比べると、外に出る機会はほとんどなく、窓口業務が中心です。今は精神障害の方の精神障害者保健福祉手帳や、自立支援医療といった医療費の支援に関する申請・交付を担当しています。ご相談については、市が委託している相談支援事業所をご案内したり、関係する部署につないだりしています。
ー福祉の分野は、松岡さんにとって未知の領域だったのでしょうか。
松岡:まったくの未知の分野でした。建設課からしたら、転職を1回したような感覚です。行政のマニュアルや、前任者がまとめてくれた引き継ぎを見ながら、日々学んでいます。
ー制度を覚えるうえで、大変だと感じることはありますか。
松岡:色んな制度があって、それぞれ似たようなものもあるので、覚えるのはすごく大変です。その方に合ったサービスをご紹介するには知識がないとできないので、そこは特に意識しています。
ー建設課と福祉課、全く異なる分野を経験されてみて、今はどう感じていますか。
松岡:部署が変わっても、その先には必ず国東で暮らす誰かの生活があると思っています。異なる分野を経験する中で、少しずつ自分に合った働き方を見つけてこられた気がしていて、様々な分野の勉強ができるというのは、いいなとは思っています。
大変だなと思うこともありましたが、どこにいても、市民の皆さんの生活を支えられているという部分に、やりがいを感じています。
ー今後、どんな職員を目指していきたいですか。
松岡:どんな方に対しても、誠実に対応していきたいと思っています。すごく市民のためを思って仕事をされている職員の方もいて、そうした姿を見ながら、自分も無理のない範囲で、その思いに近づいていけたらと思っています。

育休3か月で気づいたこと。家族との時間を大切にできる働き方
ー育児休業を3か月間取得されたそうですね。周りの反応はいかがでしたか。
松岡:職場の皆さんは、協力的で快く送り出してくれました。むしろ、3か月じゃなくてもっと取ればいいのに、と言ってくれる方もいましたが、休んでいる間に今いる方に負担がかかってしまうので、やり残しや引き継ぎはしっかりしようと思っていました。
ー実際に休まれてみて、感じたことはありますか。
松岡:正直なところ、休んでみて気づいたのは「自分がいなくても仕事は回る」ということでした。少し寂しさもありましたが、それは裏を返せば、マニュアルや引き継ぎの体制がしっかり整っているということです。
だからこそ、気兼ねなく3ヶ月間、子育てに専念することができました。育休中は、妻の負担を軽減することを意識して、家事も協力しながら過ごしていました。
ー復帰されてからの働き方についても教えてください。
松岡:残業がある時期もありますが、土日に何もなければ確実に休みが取れるので、家族との時間はしっかり作れています。子どもが熱を出したときなども、気軽に休みを取れる環境だと感じています。
ー最後に、進学や就職で国東市を離れ、今後の暮らし方や働き方を考えている方へメッセージをお願いします。
松岡:公務員は安定しかない、というイメージを持たれているかもしれませんが、色んな仕事があって、色んなことを経験できます。私自身、これがやりたいという明確な仕事があったわけではありませんが、様々な部署と関わるうちに、こんな仕事もあるんだと知ることができました。
地元で生まれ育った方には、民間企業にはない行政サービスを提供する仕事があることを知ってもらえたらうれしいです。もし私と同じように迷っていらっしゃるなら、その先にある暮らしの手応えを、一度想像してみていただけたらと思います。

ー本日はありがとうございました。
陸上競技を続け、箱根の舞台へ。都会での「走るキャリア」という選択肢もある中で、松岡さんが最後に選んだのは、生まれ育った国東市でした。建設課、福祉課とまったく異なる仕事に向き合いながらも、その根底に一貫してあったのは「市民の生活を支えたい」という思いです。
育休を経て、家族との時間も大切にしながら働く今の姿は、地元を離れた同世代にとって、一つの道しるべになるかもしれません。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年8月取材)
この記事の官公庁・自治体
大分県北部の国東半島東部に位置する国東市(くにさきし)。 両子(ふたご)山を頂点とする中央山岳部から放射状に延びる谷筋には田園や里山が広がり、風光明媚な自然に囲まれたまちです。 国内では国東市のみの生産されている七島藺(しちとうい)や近年ではオリーブ、魚介類も市の特産品として生産されています。 国東半島は神仏習合発祥の地で六郷満山(ろくごうまんざん)と呼ばれる独特な山岳宗教文化が栄えており、伝統的な祭りや芸能が各地に伝承されています。 国東市に立地する大分空港がスペースポート(宇宙港)に選定され、今後、産業振興などへの波及効果が期待されます。
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