「普通じゃない」から始まった消防士人生 ― 国東市女性消防職員が語る、支え合う仲間とのやりがい

国東市役所

2026/09/27

「普通じゃないんだな、って思ったんです」

 

そう語るのは、国東市消防署で消防士として働く入庁4年目の匹田雛凪(ひきだ ひなな)さん。大分県内の高校を卒業後、公務員専門学校を経て令和5年度に国東市へ入庁。消防学校での訓練、本署での勤務、離島・姫島出張所への異動を経て、現在は南出張所で救急隊・消防隊、兼務で活動しています。

 

今回は、消防士を目指したきっかけから、離島での勤務経験、仕事のやりがいと大変さ、そして受験を考えている方へのメッセージまで、たっぷりとお話を伺いました。

 

 

 

 


 

普通じゃないんだな。消防士を志した原点

 

ーまず、消防士を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

 

匹田:小学校の頃から体を動かすことが好きで、警察や消防といった仕事に憧れていました。中学、高校とスポーツを続けるなかで、熱中症や体調不良で倒れる人に出会う機会が多くあって。そのころから、警察というより「人を助けたい」という気持ちが強くなっていきました。

 

 

ー印象に残っている具体的な場面はありますか。

 

匹田:一番大きなきっかけは、学生時代に一人で温泉に行ったときのことです。女湯で、私の少し離れたところで年配の方が倒れ、頭を強く打ち出血していましたが助けを呼んだり、近くにあったタオルで止血するなど、即座に対処していました。その後、救急隊の男性3人で女湯に入ってきたのを見て、「女性隊員が1人でもいれば女性への対応や女湯での配慮ができるのではないか」と感じました。

 

また、高校の部活動中に、女子トイレの個室で熱中症で倒れていた先輩を発見し、って。私は体を動かすのが得意だったので、鍵のかかったトイレに上からよじ登って入り、内側から鍵を開けて先輩を助けることができました。

 

 

ーその経験を、周りの方はどう見ていたのでしょうか。

 

匹田:周りから「よくそんなことができたね」と言われて、それが普通ではないんだ、と初めて気づいたんです。自分はこういう仕事に向いているのかもしれない、と強く感じたきっかけでした。

 

 

ー国東市への入庁は、どのような経緯だったのですか。

 

匹田:消防士になりたいという気持ちは、ずっと変わりませんでした。試験を重ねるなかで、ご縁をいただけたのが国東市で、今はこうして消防士として働かせてもらっています。

 

 

地図に刻んだ工夫。離島の出張所まで、慣れない土地を覚えた道のり

 

ー入庁後は、まずどのようなことから始まったのでしょうか。

 

匹田:入庁後は、まず半年間ほど消防学校で訓練を受けました。正直かなりきつかったのですが、一緒に頑張る仲間がいたので乗り越えられました。

 

 

ーその後、本署に配属になってからはどのような仕事をされていましたか。

 

匹田:24時間勤務のなかで、まずは消防学校で習った基礎的なことを実践しながら、少しずつ日常の流れに慣れていきました。当時は地理も分からないことばかりで、道や水利の場所を覚えるところから始めました。

 

 

ー地理を覚えるうえで、何か工夫はありましたか。

 

匹田:自分専用の地図を用意して、出動や水利調査のたびに隊長や同僚と話した内容をその場所に書き込むようにしていました。「ここでこんな話をした」「ここでこんな事案があった」といったエピソードと風景をセットで覚えることで、記憶に残りやすくなりました。

 

国東市は管轄範囲が広いだけでなく、似たような風景の場所が多く、今もまだ分からない地理水利も沢山あります。現在も勤務明けに車を走らせて、ドライブがてら道を覚えるようにしています。

 

 

ーその後、赴任異動された姫島出張所では、どのような日々を過ごされましたか。

 

匹田:姫島は離島で、通勤は港まで車、そこからフェリー、署まで徒歩で片道1時間半ほどかかるので通勤は大変でした。勤務内容は本署と基本同じです。島自体はコンパクトなので地理はすぐに覚えられました。小さな島ということもあり、配備されている車両の数や一日の勤務員数が少ないです。その分一人一人の責任は大きいので日々の訓練は欠かせません。

 

姫島出張所は、当番制で隊員全員分の食事をつくります。みんなで囲むという生活は初めてで最初は緊張しましたが、つくった料理を「おいしい」と食べてもらえたのが嬉しかったです。

 

 

 

心臓マッサージ、社会復帰。やりがいを感じた瞬間

 

ー姫島出張所での勤務のあと、現在はどちらで、どのような1日を過ごされていますか。

 

匹田:今年から南出張所で勤務しています。各署所同様、まず朝の勤務交代から始まります。車両や資機材の点検を行ったあと、警防調査、水利調査、想定訓練などをして過ごし、各種災害が発生すれば出動します。

 

 

ー消防の仕事のやりがいは、どんなところに感じますか。

 

匹田:今は救急隊として活動することが多いのですが、傷病者のところに駆けつけて観察や処置を行い、迅速かつ丁寧に病院まで搬送し、命を救うことにやりがいを感じています。

 

特に印象に残っているのは、心肺停止の状態だった方に私が心臓マッサージを行い、その方が後日、社会復帰されたと聞いた事案です。自分が手を止めていたら助からなかったかもしれない、と思うと、大きなやりがいを感じました。

 

 

ーチームでの活動という点では、いかがですか。

 

匹田:チームで連携がうまくいって、迅速に病院へ搬送できたとき、「今回はやりきれたな」と感じます。まだ課題は多いですが、そのぶん日々成長を実感できる仕事だと思っています。

 

 

ー一方で、大変だと感じることはありますか。

 

匹田:体格や体力の差は正直感じます。現場で重い荷物を運ぶ場面では、男性隊員と同じようにはいかず、周りに迷惑をかけていないか気になることもあります。ですが、隊長や隊員の手を借りたり、自分のできることを積極的に行い、活動がスムーズに行くような行動を心掛けています。

 

また、機関員や救急救命士の資格を取得すれば、今より貢献できる場面も増えると思っているので、訓練や勉強に励み、できることを一つずつ増やしていきたいです。女性だから消防活動はできない、とは思っていません。

 

 

ーそうした大変さがあるなかで、女性だからこそ役に立てたと感じる場面はありますか。

 

匹田:はい。現場で女性傷病者に接するときは、私が積極的に対応するように心掛けています。特に意識がはっきりしている方などは男性隊員より安心していただけることが多いのではないかと感じてます。

 

 

「女性だから」ではなく。ともに支え合う仲間へのメッセージ

 

ー職場の同僚の方々との関係性はいかがですか。

 

匹田:とても優しくて話しやすい方ばかりです。最初は女性だから話しかけにくいと思われているのかもと感じていましたが、実際はそんなことなく、男女関係なく接してもらえています。私自身も話すのが好きなので、グルメや過去の面白い話、お互いの趣味の話で盛り上がることが多いです。

 

 

ーお休みの日はどのように過ごされていますか。

 

匹田:トレイルランニングやマラソンが好きで、休みの日は毎日1時間以上は体を動かすようにしています。たまに山にも走りに行ったり、上からの景色を写真におさめて自然を楽しんでいます。年に数回、同僚と一緒に大会に出ることもあります。

 

 

ー最後に、消防士を目指す方へメッセージをお願いします。

 

匹田:消防の仕事は、地域の安心・安全を守る責任のある仕事です。大変なこともたくさんありますが、そのぶん人の役に立てる喜びや、仲間と支え合いながら成長できるやりがいがあります。体力に自信がなくても、助けたいという気持ちさえあれば、できることは必ずあります。

 

ぜひ女性の消防士も増えてほしいですし、少しでも興味がある方には、ぜひ目指してみてほしいです。この記事を通して、私たちの仕事や職場の雰囲気が伝われば嬉しいです。

 

 

ー本日はありがとうございました。

 

取材を通して感じたのは、匹田さんの「普通じゃない」という言葉の奥にある、静かな覚悟でした。体格差という現実に向き合いながらも、資格取得という形で自分なりの貢献の仕方を探し続ける姿勢に、消防という仕事の奥行きを感じます。南出張所で、今日も匹田さんは仲間とともに現場に向かっているはずです。

 

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年8月取材)

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大分県北部の国東半島東部に位置する国東市(くにさきし)。 両子(ふたご)山を頂点とする中央山岳部から放射状に延びる谷筋には田園や里山が広がり、風光明媚な自然に囲まれたまちです。 国内では国東市のみの生産されている七島藺(しちとうい)や近年ではオリーブ、魚介類も市の特産品として生産されています。 国東半島は神仏習合発祥の地で六郷満山(ろくごうまんざん)と呼ばれる独特な山岳宗教文化が栄えており、伝統的な祭りや芸能が各地に伝承されています。 国東市に立地する大分空港がスペースポート(宇宙港)に選定され、今後、産業振興などへの波及効果が期待されます。

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