最初は町のことがわからなくても大丈夫。温かい人々に囲まれて見つけた働く意義

住田町役場

2026/08/23

「高校を卒業して、縁もゆかりもない土地の役場に飛び込むのは、本当にやっていけるのか不安でいっぱいでした」と、照れくさそうに当時を振り返る住田町役場3年目の金さん。

岩手県の内陸部で生まれ育った金さんにとって、沿岸部に位置する住田町は、名前を聞いたことがある程度の「未知の場所」でした。林業が盛んな町であることも、自分が山に入って命の最前線に立つ仕事をするようになることも、入庁前はまったく想像していなかったと言います。

しかし、一歩踏み出した先で待っていたのは、若い新人を他部署の垣根を越えて我が子のように可愛がってくれる温かい職員たちと、町外出身の若者を「よく来てくれた」と優しく迎え入れてくれる町のハンターや農家の方々でした。今では自らも狩猟免許を取得し、住民の暮らしを守るために日々山を駆け巡る金さんに、知らない土地で挑戦する不安の乗り越え方と、現場だからこそ味わえる唯一無二のやりがいについてじっくりとお話を伺いました。

 


「林業の町」とは知らずに選んだ併願先―地元貢献への第一歩

ーまずは金さんのこれまでの経歴と、現在所属されている部署について簡単に教えていただけますか?

 

金:よろしくお願いします。私は令和6年度に高卒で住田町役場に入庁しまして、今年度で3年目になります。1年目と2年目は「林政課」という部署に配属されました。3年目になるタイミングで組織改編があり、現在は新しく統合された「農林商工課」という部署で働いています。

 

実は、住田町は森林や林業がものすごく盛んな町として知られていて、農林商工課はまさに町の「顔」とも言える重要な部署なのですが、私自身は林業の分野にはあまり直接は携わっていないのです。入庁以来、基本的には「鳥獣被害対策」の業務をメインで担当させていただいています。

 

ー鳥獣被害対策を専門にされているのですね。そもそも、金さんが住田町役場を志望されたきっかけは何だったのでしょうか。

 

金:正直にお話ししてしまうと、最初から「住田町の林業に関わりたい」とか、強い志望動機があったわけではないんです(笑)

 

昔から大学まで進学しようとはあまり考えていなくて、高校2年生の終わり頃から「高校を卒業したら地元の岩手県内で就職しよう、働くなら公務員になって地元に貢献したいな」と漠然と考えていました。

 

当時は、別の自治体も志望していて、そこでは公務員試験ではなくてSPI試験を取り入れていました。県内で高卒がSPI試験で受けられる自治体って当時はあまり多くなくて、選択肢を絞りながら探していく中で、試験日程が被らず、併願先としても受けやすかったのが住田町役場でした。

 

なので、受験するまでは住田町の詳しい特徴もほとんど知らなくて、試験前に軽く調べて「あ、林業が有名な町なんだな」というくらいの認識しかありませんでした。

 

ー受験のきっかけは偶然だったのですね。地元である岩手県内にこだわりつつ、役場という仕事を選んだのはなぜですか。

 

金:高校を卒業して社会に出るにあたって、自分のキャリアアップや人としての成長につながる仕事って何だろうと考えた時に、役場の仕事が思い浮かびました。

 

役場であれば、数年おきに異動があって本当に多様な業務に触れる機会がありますし、さまざまな部署を経験していく中で、自分自身を大きく成長させられるのではないかと思ったのが公務員を目指した一番の理由です。

高卒での挑戦。見知らぬ土地での壁は「電波の届かない林道」と「地名」

 

ー縁もゆかりもない住田町へ高卒で飛び込むことに対して、当時は不安や緊張はありませんでしたか?

 

金:はい、もちろん知り合いなんていなかったですし、実家のある内陸部からも地理的に結構離れていたので、入庁した直後は「本当にこの町で一人でやっていけるのだろうか」という不安の方が大きかったのは事実です。

 

生活面に関しては、一人でもなんとかなるだろうと楽観的に考えていたので、そこまで不安や苦労というものは無かったのですが、仕事の面では本当に右も左もわからない状態からのスタートでした。

 

特に1年目の時に一番苦労したのが、町の「地名」がまったくわからないことでした(笑)

 

ー地名ですか?地元の方々が使う特有の呼び方などがあるのでしょうか?

 

金:そうなんです。私の担当する鳥獣被害対策の業務では、地元のハンター(猟師)の方々と毎日のように密に関わるのですが、ハンターの皆さんは本当に地元の人しかわからないような山の中の細かい地名や通称を使って「あそこの〇〇のあたりにイノシシが出たぞ」とお話しをされます。

 

私は町の基本的な地理すら頭に入っていない状態でしたから、最初はどこの場所のことを指しているのかがまったく聞き取れなくて、ハンターの皆さんが指す場所を特定して覚えるまでに本当に苦労しました。

 

ーそれは町外出身の身としては大きな壁ですね。現場への移動なども大変だったのではないですか?

 

金:そのとおりです。入庁してから最初の半年間は試用期間ということで、私一人で役場の公用車を運転して現場に行くということはなく、他の先輩職員の方に運転してもらって一緒に現場に同行させてもらっていました。

 

試用期間が明けた10月からは、いよいよ一人で山の中に入っていかなければならなくなったのですが、これが本当に緊張しましたね。鳥獣被害の現場というのは、整備された道路ではなくて、すれ違うのもやっとのような狭い「林道」を走っていくことがほとんどです。

 

免許はもっていたものの運転に自信があるわけではなく、しかも山の奥深くに入っていくと携帯電話の電波もまったく届かなくなります。スマートフォンやナビに頼れないような細い林道を、慣れない運転で一人で走って現場に向かうのは、最初の頃はかなり精神的にも厳しかったです。

「町外出身」なんて関係ない、若手を包み込む住田町の人の温かさ

ー山道を、しかも慣れない道を一人で走るのは勇気がいりますね。そんな過酷な1年目を、どのようにして乗り越えたのでしょうか?

 

金:本当に、周りの方々の温かさに救われたと思っています。職場に入ってみて感じた嬉しいギャップなのですが、役場の職員の皆さんが本当に温かくて柔らかい方ばかりでした。

 

私は高卒で入庁したので、当時庁舎内でおそらく一番若い職員だったのですが、同じ部署の上司や先輩方はもちろん、まったく違う部署の先輩方からも「金くん、仕事は慣れたか?」「ご飯はちゃんと食べてるか?」と通りすがりに声をかけていただいたりして、本当に大切に可愛がっていただきました。

 

誰も知り合いがいない土地でしたが、皆さんのおかげで寂しさを感じる暇もないくらいでした。入庁後すぐに、「あ、この職場はものすごく雰囲気が良くて働きやすいな」と確信に変わったのを覚えています。

 

ー部署を越えて役場全体で支えてくれたのですね。現場で関わるハンターの方や、町民の方々の反応はいかがでしたか。

 

金:そこも本当に温かかったです。入庁前は、お役所の仕事ってなんとなく堅苦しくて、地域の方からも少し厳しい目で見られたりするのかなというイメージを勝手に持っていたのですが、住田町はまったく違いました。

 

私が町外出身の人間だからといって冷たくされるようなことは一切ありませんでしたし、むしろ「若いのにわざわざ遠くから来て、地域のために頑張ってくれてるんだね」と、高卒の若さという部分も含めてものすごく優しく接してくださいました。

 

ー住民との心の距離も近いのですね。何か印象に残っているエピソードなどもありますか?

 

金:現場に繰り返し足を運んで、いろいろな農家さんの相談に乗っているうちに、皆さんが私の顔と名前を覚えてくださるようになりました。鳥獣被害の状況を確認しに農家さんの畑に行くと、「金くんよく来たね。これ持っていきな!」って、採れたての新鮮な野菜をたくさんお土産に持たせてくれたりするんです。

 

仕事で行っているのにもかかわらず、親戚の子どものように温かく迎えてくださる皆さんの優しさに触れるたびに、住田町に来て本当に良かったなと実感しています。

 

そうやって現場に何度も足を運び、信頼関係を築いていくうちに、「自分もこの町でやっていける」という確かな手応えを感じられるようになりました。

イメージしていた「お役所仕事」とは違う?山に入り、命の現場に向き合う仕事

ー住民との温かい絆が大きな支えになったのですね。ちなみに「鳥獣被害対策」とは、具体的にどのような業務をされているのですか?

 

金:鳥獣被害対策の業務は、大きく分けると「捕獲対策」と「防除対策」の2つに分かれています。私が1年目と2年目の頃は、主に「捕獲対策」の方を担当していました。

 

具体的には、イノシシなどの野生鳥獣を捕獲していただいたハンターの方々に支給される「報償費」の支払い手続きや、町内で新しくハンターを育成、増員していくための「狩猟免許取得補助金」の事務手続きなどがメインでした。

 

そして3年目になる今年の春に組織改編があり、それまで別の課が担当していた、農地の周りに電気柵やワイヤーメッシュ網を張るための補助金を出す「防除対策」の業務も私たちの部署に統合されたのです。そのため、今は捕獲と防除の両方の事務手続きや現場確認を担っています。

 

ー実際に現場に行って確認する作業も多そうですが、入庁前に思い描いていた公務員のイメージと比べてギャップはありましたか?

 

金:これはもうギャップだらけでしたよ(笑)

 

高校生の時にイメージしていた役場の仕事って、基本的にはスーツを着て、窓口で住民票を発行したり、デスクでパソコンに向かって書類を作ったりする「ザ・事務職」というものだったんです。

 

まさか自分が作業着を着て、毎日のように山に入っていく生活になるとは夢にも思っていませんでした。特に1年目の時に、初めて「クマ」を捕獲した現場に同行した時のことは今でも忘れられません。

 

ークマの捕獲現場ですか。それは非常に緊迫感がありそうですね。

 

金:はい。罠にかかった大きなクマだったのですが、山に帰すことができず駆除をすることとなりました。まさに命がやり取りされる瞬間を目の当たりにして、それまでの人生で経験したことがないような緊迫感と、命を扱うという責任感を実感した経験でした。

 

ものすごいカルチャーショックも受けたのですが、そういったお堅い事務仕事だけではない、現場主義で泥臭く住民の安全を守る仕事だからこそ、機械的に業務をこなすのではない、人間味のある面白さがあるんだなということも同時に学びました。

住民の笑顔が原動力。自らも地域に溶け込みたいと思える環境

ー命の最前線に立つ仕事だからこそ、強い責任感とやりがいがあるのですね。役場で働いていて、やりがいを感じるのはどのような時でしょうか?

 

金:やっぱり、悩んでいる住民の方の力になれて、直接「ありがとう」と笑顔で喜んでいただけた時ですね。

 

鳥獣被害対策というのは、町民の皆さんの生活や大切に育てている作物の死活問題に直結している、非常に切実な仕事です。「畑がイノシシに荒らされて困っているんだけど、どうすればいいべか」と、悲痛な面持ちで相談に来られる方もたくさんいらっしゃいます。

 

そうした方々のお話を親身に伺い、現場を確認した上で、「ここにこういう形で電気柵を張りましょう」とか「網の補強をしましょう」と具体的な対策を提案して補助金の手続きを進めていきます。

 

ー住民の生活を守る、まさに「地域のため」の仕事ですね。金さん自身も、何か地域に対する想いなど変化はありましたか?

 

金:実はハンターの皆さんと日々活動していく中で、先輩方から「若いんだし、一緒に山に入ってみないか?」と勧められたこともあり、一昨年、自らも「わな猟」の狩猟免許を取得しました!

 

自分自身の担当業務に対する責任感も強くなっていったことから、公務員として枠を越え、自らもハンターとして地域に貢献したいという想いが芽生えたんです。今では、休みの日にプライベートの時間を使って自分で山にわなを設置しに行ったり、捕獲の作業を手伝ったりしています。

ー役場の担当者であり、自らもハンターとして活動されているのですね。それは地域でも頼りにされるのではないでしょうか?

 

金:休み明けに「週末、イノシシを捕獲しましたよ!」と報告に行くと、農家の方々にも驚かれますし、「本当にありがとう。」と、とても喜んでくださるんです。相手が動物ということもあり、対策の効果が出るまでに時間がかかることもありますが、自分の流した汗が、住民の皆さんの安心な暮らしや笑顔に直接つながっていると実感できる瞬間は、何物にも代えがたいやりがいですね。

 

ー最後に、これから住田町役場を目指す皆さんや、知らない土地での挑戦に迷っている方へメッセージをお願いします!

 

金:住田町は、たとえ町のことを何も知らずに飛び込んできたとしても、やる気と誠実ささえあれば、温かい職員の皆さんと優しい住民の方々が必ず全力で助けてくれる、本当に風通しの良い町です。

 

高卒の私でも、3年間でここまで地域に深く関わり、自分のやりたい仕事を見つけて楽しく働くことができています。今の住田町は、私以外に20代のハンターがいないので、もし狩猟や地域の安全を守る仕事に少しでも興味がある方がいれば、大歓迎です!

 

もちろん、それ以外の分野でも、誰かのために一生懸命頑張りたいという気持ちがある方なら、絶対に楽しくやりがいを持って働ける職場です。ぜひ、安心して私たちの仲間に加わってください。

皆さんと一緒に住田町のために汗を流せる日を楽しみにしています!

 

ー本日は温かいお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

 

高校を卒業してすぐ、誰も知り合いがいない未知の土地へ飛び込んだ金さん。インタビューの中で「最初は地名すらわからなくて本当に苦労しました」と笑いながら話す姿の裏には、町外出身という壁を乗り越えるための、地道な努力と真っ直ぐな誠実さがありました。

何より印象的だったのは、担当業務の枠を越えて自らも狩猟免許を取得し、住民のために休日にまで山へ入るという圧倒的な当事者意識です。そのひたむきな姿があるからこそ、お堅いお役所というイメージを取り払い、地域の人々から我が子のように愛され、信頼される存在になれたのだと強く感じました。住田町の豊かな実りと平穏な暮らしは、こうした若い職員の情熱と、それを温かく包み込む地域の絆によって守られているのだと、実感する取材でした。

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年5月取材)

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住田町(すみたちょう)は岩手県南東部に位置する小さな町です。 町の約9割が山林で中央を気仙川が流れ、豊かな緑と水があります。 人口約4,500人と全国の例にもれず少子高齢化が進んでいますが、「安らぎと賑わいが調和する共生の町」、「森林・林業日本一の町」を目指しています。

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