暮らしやすさを選んで、熊野市へ。病棟から地域 へ、保健師 4 年目の濵口さんが見つけた「予防」 のかたち
熊野市役所
「分からないことがあっても、すぐに相談できるんです」三重県熊野市役所の健康・長寿課で保健師として働く、入庁 4 年目の濵口さん。
大学の看護学科を卒業後、津市の病院で看護師として 1 年間勤務し、令和 5 年度に熊野市へ入庁しました。入庁後の 3 年間は地域包括支援係で高齢者の支援にあたり、4 年目からは保健予防第2 係で自殺対策関連事業の主担当を務めています。
今回は、保健師を目指す方に向けて、看護師から保健師へと進路を変えた理由や、熊野市を選んだ決め手、そして日々の仕事について、お話を伺いました。
- 「手に職をつけたい」から始まった看護の道。病棟で知った、予防という視点
- 三重県か、市町か。試験日が重なった日に選んだ「暮らしやすさ」
- 「今日も楽しかったわ」。認知症カフェで重ねた、小さな工夫のこと
- 勉強しながらの 1 年目。それでも困らなかった理由
「手に職をつけたい」から始まった看護の道。病棟で知った、予防という視点
ー看護の道に進もうと思った理由を教えてください。
濵口:手に職をつけたいと思ったのがきっかけです。取れる資格を考えたときに看護師が浮かんで、人と接するのも好きだったので、いいかなと。家族に看護職がいたわけでもなく、始まりは本当になんとなくです。
ー大学生のころから、保健師になりたいという思いもあったのでしょうか。
濵口:正直なところ、学生時代は明確な意思はなかったんです。大学 3 年生の時に、保健師課程の選考試験のお知らせが来て、最初は受ける気がなかったのですが、周りに勧められて「落ちてもいいから受けてみよう」という気持ちで受けました。今となっては、選択肢が広がって良かったなと思います。
ー大学を卒業されたあとは、看護師として働かれていたと伺いました。
濵口:はい。津市の病院で 1 年間だけ働いていました。糖尿病などの生活習慣病を抱える患者さんがすごく多くて、手術前の血糖コントロールが必要になったり、糖尿病性網膜症でほとんど視力を失っている患者さんがいらっしゃったり。日々の生活習慣が及ぼす影響の大きさを、目の当たりにしました。
ーその経験が、保健師を目指すきっかけになったのでしょうか?
濵口:そういった状況に置かれている患者さんと関わる中で、予防の観点から健康づくりを支援できる保健師の仕事に、改めて魅力を感じるようになりました。考え始めたのは 1 年目の秋ごろのことで、3 月に退職しました。

三重県か、市町か。試験日が重なった日に選んだ「暮らしやすさ」
ー退職される時点で、公務員という選択肢はありましたか?
濵口:三重県か市町のどちらかを受けてみようかな、と思っていました。ただ、働いているうちは公務員の勉強はしていなくて、退職してから 1 年間、アルバイトをしながら準備をしました。
ー県と市町とで、ずいぶん迷われたそうですね。
濵口:最初はほとんど県を受けようと思っていたんです。人と接するのは好きなのですが、県の保健師は比較的事務作業が多いと聞いて、そちらもやってみたいなと思っていて。そんなときに周りの人から熊野市もちょうど募集があるよと言われて、いろいろ考えて熊野市にしました。
ー両方受けることは、できなかったのですか?
濵口:それが、試験日が同じだったんです。なんで同じ日になるんやろうと思いながら、本当にギリギリまで迷っていました。
ー最終的に熊野市に決めた、いちばんの理由はどういったところでしたか?
濵口:一番の理由は、やっぱり暮らしやすさです。正直、熊野はどこに出かけるにも遠いですし、若者向けのお店も少ないんですけど、それでも学生時代に熊野で過ごした生活を思い出すと、そこまで大きな不便は感じていなかったですし、周りの人たちと楽しく過ごせていたなと思って。自分の性格的にも、慣れ親しんだ自然豊かな環境で、住民さんと直接関わる機会が多い市町村保健師として、皆さんの健康づくりに携わりたいなと。実家から通えるというのも大きかったですね。
ー県の保健師だと、勤務地は変わっていくのでしょうか。
濵口:県は約 2、3 年ごとに、県内のいろいろな保健所などを移動していく形になると思います。

「今日も楽しかったわ」。認知症カフェで重ねた、小さな工夫のこと
ー入庁されてからは、どちらの部署に配属されたのでしょうか。
濵口:保健師は大体、健康・長寿課に配属されます。課は保健予防第 1 係、保健予防第 2 係、いきがい健康支援係、地域包括支援係(地域包括支援センター)の 4 つに分かれていて、私は 3 年目まで地域包括支援係にいました。
ーどんなお仕事を担当されていたのですか?
濵口:高齢者の方やそのご家族からの相談に応じ、介護保険に関する申請の手続きを支援したり、医療や福祉などの関係機関と連携しながら、必要な支援やサービスにつなげるといったことをしていました。他には、認知症関連の事業もいくつか担当していました。
ーその3年間で、印象に残っていることはありますか?
濵口:認知症カフェ事業を担当していたのですが、参加者の方から「今日も楽しかったわ」「ありがとう」と言われると、やっぱりうれしかったです。毎月 20 数名が来てくださって、認知症の方も何名かいらっしゃいました。
ー開催日を覚えておくのが難しい方も、いらっしゃいますよね。
濵口:そうなんです。忘れてしまう方もいて。でも、人との交流の機会をなるべく持ってほしいなと思って、当日、時間どおりに来られるようにタイミングを見計らって電話をかけたり、日時を書いたメモをお渡ししたり。工夫したのは、すごく覚えていますね。その方たちがちゃんとカフェに来ることができて、みんなと笑顔で楽しくお喋りしている姿を見て、すごくうれしかったですし、自分のやる気にもつながっていたなと、今思えば感じます。
ー熊野市ならでは、と感じる部分はありますか?
濵口:熊野市の地域包括支援センターは直営なんです。他の市町は包括がいくつかに分かれているところもありますが、うちは直営だけなので、ボランティアの方にもご協力いただきながら認知症カフェも自分たちで運営していました。なので、住民さんの声を直接聞きやすかったかなと思います。独居の方や、ご家族が遠方に住んでいる方も多い地域なので、認知症になっても集まりの場に来られるようにしたいなとは思っていました。

ー 4 年目からは、係が変わられたのですね。
濵口:今は保健予防第 2 係で、主に成人保健を担当しています。主担当は自殺対策関連事業で、副担当として運動事業やがん検診の受診勧奨にも携わっています。対象とする年代がガラッと変わったので、やったことのない分野はどんな感じなのかなという興味がありました。
ー自殺対策関連事業では、どんなことをされているのですか?
濵口:9 月と 3 月の啓発活動、心の健康づくりのための講演会や映画鑑賞会の開催、市役所の職員に向けたゲートキーパー研修会の開催などです。あとは、熊野市の自殺の現状や関連事業を庁内全体で共有し、連携できるように庁内連携会議を年に 1 回開いています。地域の集まりに出向いて講話することもありますね。
ーがん検診のほうは、どんなことをされているのでしょうか。
濵口:今年は受診勧奨用のハガキをデザインしました。がん検診を受けてもらうこと自体が重
症化などの予防につながるので、入庁前に考えていた予防の観点での関わりになっているのか
なと思います。
ーやりがいを感じるのは、どんなときですか?
濵口:受診勧奨のハガキを送ったあとに、がん検診の申し込みが増えたときは、頑張って作ったかいがあったなと感じました。あとは、地域包括支援係では講話をする機会が結構多かったのですが、「初めて知ったわ」「明日からやってみる」といった声を聞くと、住民さんの知識をアップデートできたり、行動変容につながったりしたのかなと。自分がやったことに少しでも意味があったかなと思えて、そういうときはやりがいを感じますね。
勉強しながらの 1 年目。それでも困らなかった理由
ーはじめての分野を主担当として進めるのは、大変ではなかったですか?
濵口:認知症のこともあまり深く勉強していなかったので、まずは勉強するところから入りました。仕事をして勉強してというのは、最初のうちはやっぱり大変でした。ただ、分からないことがあったらすぐに上司に聞けたので、仕事の面で大きく困ったことはなかったですね。
ー相談しやすい雰囲気なのですね。
濵口:すごく穏やかな雰囲気です。仕事をするときはちゃんと集中して、仕事モードじゃないときはみんなで世間話を楽しんで、という和やかな職場ですね。課には 20 代が私だけなのですが、先輩や上司の方から話しかけてくれるので、とてもありがたいなと思います。
ー働き方の面では、いかがですか?
濵口:残業もほとんどなくて、定時で帰れています。ワークライフバランスはすごく取れてい
るなと感じますね。年休が 1 時間単位で取れるのも、シフト制とは大きく違う強みだと思います。
昼休みも 1 時間しっかり取れるので、本当にありがたい環境だなと思っています。

ー最後に、熊野市で保健師として働くことを考えている方へ、メッセージをお願いします。
濵口:保健師の資格を持っているとはいえ、保健師業務に関しては分からないことだらけで、入庁前はやっぱり不安でした。でも、たくさんの知識と経験がある保健師の先輩方が、事業の進め方から住民さんへの対応の仕方まで、優しく丁寧に教えてくださいます。分からないことがあってもすぐに相談できるので、本当に働きやすい職場だということは、ぜひ伝えたいですね。
職場の方はもちろん、熊野市の住民さんも本当に皆さん優しいので、保健師としてとても活動しやすいと感じています。人と関わることが好きな方、健康づくりに興味がある方は、ぜひ熊野市で保健師として一緒に働きましょう。皆さんといつか一緒に働ける日を、楽しみにしています。
ー本日はありがとうございました。
濵口さんは、ご自身の歩みを「深い理由はないんです」と、控えめな言葉で表現されていました。
けれど、病棟で見た景色から予防へと向かったことも、カフェに来られない方へ電話をかけたことも、講話を通して住民の方の行動変容を起こしたことも、決してなんとなくではないはずです。
飾らない言葉の奥にある実直さこそが、熊野市の住民の方々に信頼されている理由なのだろうと感じた取材でした。
地縁のある熊野市で働くという選択肢のひとつになるように、この記事が届けばと思います。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026 年 9 月取材)
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