子どもたちが自分で学び合う、生駒市の教育改革とは
生駒市役所
「ビジョンを上から共有するのではなく、共有ビジョンをみんなで作る。その転換が、とても大事だと考えました」
そう語るのは、生駒市教育委員会事務局 学校支援課 教育政策室で室長を務める、入庁5年目の杉山さん。
学校コンサルタントとして教員研修や授業改善の支援に携わったのち、2022年に生駒市役所へ入庁。令和6年度に策定した市の新しい教育大綱では、先生や保護者、子どもたちの声を集める「作り方」そのものから見直しを進めてきました。
今回は、市役所の仕事に関心のある方に向けて、みんなで作った教育方針と、市内の学校で進む教育改革について、お話を伺いました。
- 学校コンサルから市役所へ。「1か月で全校を回れる」まちで教育改革に挑む
- 18回のワークショップと2,663人の声。先生も子どもも一緒に作った教育方針
- 立ち歩き、学び合う教室へ。学校の垣根を越えて学ぶ先生たちの研修
- 4人のチームと2つの新しい学校。市内全校へ広げるこれからの教育
学校コンサルから市役所へ。「1か月で全校を回れる」まちで教育改革に挑む
ーまずは、これまでの経歴を教えてください。
杉山:生駒市役所が、私にとって最初の就職先です。大学在学中にそのまま起業し、入庁前の5年間は学校コンサルタントとして働いていました。先生向けの研修を行ったり、学習塾とフリースクールの中間のような学びの場を大阪と東京で3か所運営したりと、教育の事業をずっと手がけてきました。そのうちに、自治体の内部に入り込んで取り組みたいという思いが強くなっていきました。
ー生駒市役所を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
杉山:生駒市が「教育改革担当」を募集していたんです。教育委員会事務局に配属される前提の募集で、自分がまさに求めていた募集であり、2022年4月に入庁しました。当時は神奈川県の鎌倉市に住んでいて、生駒市とはまったく縁がなく、家族で引っ越してきました。
入庁してみて思いましたが、小中学校が合計19校で、ちょうどよい規模感だと思いました。学校数が多すぎず、1か月あれば全校を回れる規模です。その点も理想的な環境でした。

18回のワークショップと2,663人の声。先生も子どもも一緒に作った教育方針
ー令和6年度に、市の教育方針である「教育大綱」を新しくしたそうですね。そもそも「教育大綱」とは、どういうものなのでしょうか。
杉山:自治体ごとに策定する、教育のもっとも上位にある指針や理念のことです。市長が主体となり、教育委員会と話し合う「総合教育会議」を経て策定します。生駒市では4年に1度改定していて、令和6年度に3回目となる「第3次生駒市教育大綱」を策定しました。
ー今回の改定では、何を変えたのですか。
杉山:「みんなで作る教育大綱」というコンセプトを掲げ、策定のプロセスから変えました。令和5年4月に、教育政策室から「教育大綱策定プロセスの提案」を当時の教育長や市長に提案し、中身よりもまず作り方を変えることが大事だと伝えました。ワークショップは18回、総合教育会議は7回開いています。
ーワークショップには、どんな方が参加したのでしょうか。
杉山:学校の先生はもちろん、保護者や保育士、子育て支援に携わる方、学童の指導員、教育委員会事務局の職員など、市内で教育に関わる仕事をしているさまざまな立場の方に集まっていただきました。日々の教育活動を振り返り、自分がどんな思いや理念で仕事をしているのかを言葉にしていく「ティーチング・ポートフォリオ」という手法を参考に声を集めました。
ー子どもたちの声も集めたそうですね。
杉山:教育を受ける子どもたちの声も集めようと、小学5年生以上を対象に大規模なアンケートを行い、2,663人が回答しました。質問も「学校は楽しいですか」ではなく、「あなたとクラスのみんながより楽しく学べるようにするには、学校の授業がどう変わるといいですか」といった、しっかり考えないと答えられないものにしました。
ーなぜ、そこまで手間をかけて作り方を変えたのですか。
杉山:"行政が策定する基本方針"は、策定したものを学校現場へ共有するだけになりがちです。令和5年の段階で現場の先生方に聞くと、ほとんどの方が教育大綱の中身について、あまりご存じない、という状況でした。形としてはあっても、活用されていなかったんです。先生方に自分ごととして捉えてほしい。
だからこそ、ビジョンを共有するのではなく、「共有ビジョン」をみんなで作るという転換が大事でした。この考え方は今年度、学校にも広げていっています。各学校がどんな子どもを育てるかを示す「学校グランドデザイン」も、今年度は先生や保護者、子どもたちの声を集めながら作っていただいています。

立ち歩き、学び合う教室へ。学校の垣根を越えて学ぶ先生たちの研修
ー実際に、どのような授業を目指しているのですか。
杉山:第3次生駒市教育大綱の理念に基づき、子どもたちが自分に合った場所やペース、学び方を選び、必要に応じて友達同士や学年を越えて学び合う授業を目指しています。イベントとしてではなく、毎日の国語や算数の授業で当たり前にしていくのが目標です。
子どもに学習のペースや方法を委ね、学ぶ力を信頼しながら、教師は一人ひとりの状況を見取り、必要な指導や支援を行います。国でも、学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」が示され、令和3年の中教審答申では「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実させる方向性が明確にされました。
ただ、これまで積み重ねてきた授業のあり方を変えることは簡単ではありません。だからこそ、生駒市として学校や先生方と一緒に変えていこうという思いを込めて、教育大綱の概要版の表紙には、子どもたちが自分に合った方法で学び、学び合う教室の姿を描いています。

ー方針を作ったあと、どのように現場へ広げているのでしょうか。
杉山:策定後は、教育委員会のすべての施策を教育大綱に結びつけて、施策を打ち、予算を取っています。大きく変えたのが先生向けの研修です。全員を集めて一律に受けてもらうのではなく、授業改善に取り組みたいという意欲のある先生に手を挙げてもらう「生駒市伴走・越境型研修」にしました。
子どもたちがクラスや学年を越えて学び合うように、先生方も学校を越えて学び合います。自治体としては珍しく、全国の先生も受講できる形にしていて、初年度の令和6年度は文字通り北は北海道、南は沖縄県から参加があり、市外・県外からも50人ほどが参加しました。今年度は関西に範囲を絞り、生駒市の先生と近畿圏の先生がともに学んでいます。

ー研修は、どんな形で行っているのですか。
杉山:月2~3回のオンライン講座に加え、年3、4回は実際に集まります。オンライン上の交流の場では、先生方が「こんな授業をしてみた」と毎日のように投稿し、学び合っています。各学校の意欲ある先生に授業改善を進める中核となってもらい、その先生同士を横でつなぐ狙いです。今年度からは校長や教頭などの管理職世代も、働き方改革などのテーマごとにチームを組み、視察を重ねています。来年度は20代の若手の先生を対象にした研修も検討中です。
ー子どもたちに、変化は表れていますか。
杉山:実は教育大綱を新しくする前、令和4年ごろから一部の学校で授業改善を始めていました。最初にスタートを切った生駒南小学校をはじめ、授業改善を早くから進めてきた学校では、子どもたちが自分で学び方を考えたり、友達と学び合ったりする授業を積み重ねてきました。学力調査でも点数が向上するなど変化が見られますが、点数だけではなく、こうした学び方や学校文化の変化を大切にしています。
テストの点数を上げることのみを目的にやっているわけではありませんが、自分で学び、友達と学び合う文化が2年、3年と積み重なると、授業以外の時間でも「テスト勉強を一緒にやろう」という雰囲気が生まれます。それが成績にも表れてきているのだと考えています。
5人のチームと2つの新しい学校。市内全校へ広げるこれからの教育
ー教育政策室は、どんな体制なのですか。
杉山:私を含めて5人のチームです。そのうち1人は昨年転職してきた職員で、附属小学校で教員を務め、授業づくりに関する著書も多数あります。彼が加わったことで、学校現場で一人ひとりの先生に寄り添う伴走体制がより充実しました。
私は政策や戦略の枠組みを作り、関係者と共有しながら形にしていく。彼は学校現場で先生方の実践に伴走する。さらに残る3人もそれぞれの役割を担いながら、チームでプロジェクトを進めています。
ー学校現場の雰囲気にも変化はありますか。
杉山:大きく変わりつつある学校が出てきました。校長が代わって外に開かれた学校や、これまで研修に誰も参加しなかったのに今年は複数名参加するようになった学校もあります。
ー今後の展望を教えてください。
杉山:令和9年4月には、学びの多様化学校を開校します。学校に行きづらさを感じている子どもたちが、自分のペースで安心して学べる学校です。単に居場所をつくるのではなく、一人ひとりの状態や学び方に応じた授業にしていきます。ユニバーサルデザインの考え方で、すべての子どもにとっても学びやすい学校づくりにもつながると考えています。
さらに令和11年度には、生駒南小学校と生駒南中学校を統合した、9年間一貫の義務教育学校ができます。子どもたちが自分に合った場所や方法を選び、必要に応じて学び合える学習空間にしていきます。この2つの学校で教育大綱の理念を形にし、市内すべての学校へ広げていきます。

ー公立の小中学校の先生は、通常は県が採用しています。生駒市では、市独自の教員採用も始めるそうですね。
杉山:生駒市が目指す教育をともに進める新たな担い手として、奈良県内外で経験を積んだ熱意のある先生を採用します。全国から研修に参加する先生の中には、自分の理想の教育を進めていきたいという熱い方は多くいると感じています。
そんな先生に来ていただきたいんです。任期付きの採用ですが、任期中や任期終了後に、改めて奈良県の教員採用試験を受験し、正規教員を目指していただくことできます。全国的な教員不足への対策という側面もあります。
ー最後に、生駒市で改革を進めてきて、いま感じていることを教えてください。
杉山:変えていこう、頑張っていこうという文化は、教育大綱の策定プロセスを通して、かなり育ってきました。いまは、慣例的に続いてきた事業を見直し、やるべきことに力を注げる組織づくりを進めています。
ー本日はありがとうございました。

知られていなかった教育の方針を、作り方から変えてみんなのものにする。杉山さんのお話から、行政の仕組みで教育の現場を動かす仕事の面白さが伝わってきました。令和9年と令和11年に開校する2つの学校を契機に、教育大綱の理念が市内の学校へどう広がっていくのか。これからの展開が楽しみです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年9月取材)
第3次生駒市教育大綱
生駒市の教育大綱は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第1条の3の規定に基づき、総合教育会議での協議を経て市長が策定するもので、本市の教育行政の根本となる方針と位置付けるものです。
第2次生駒市教育大綱を策定した令和 2 年 6 月から 4 年が経過し、同大綱の推進期間が満了を迎えることから、 社会情勢等の変化や新たな教育課題に対応していくため、基本理念、基本方針等において改定を行いました。
・生駒市ホームページはこちら↓
https://www.city.ikoma.lg.jp/0000035483.html
この記事の官公庁・自治体
生駒市は、昭和50年代から新興住宅地の開発が続き、都心部へのアクセスの良さ、生駒山や矢田丘陵に囲まれた緑豊かな環境、定評のある子育て・教育環境の良さを活かし、大阪のベッドタウンとして発展してきました。市民の皆さんの定住意向率は87.2%と高い水準を誇ります。 主役である市民が仲間を得て、夢をかなえ、 自分らしく輝きながら暮らせるまちになることを目指しています。 このまちの未来をつくろう。いっしょに。
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