命と暮らしに寄り添う最前線。自分らしく輝く、葉山町消防署の女性職員とは?
葉山町役場
私たちの生活の基盤である「安心と安全」を守る消防の仕事。かつては男性の職場というイメージが強かったこの世界も、今、少しずつ新しい風が吹き始めています。神奈川県に位置する葉山町は、美しい海と豊かな自然に囲まれたコンパクトな町です。この町の消防署で、性別にとらわれず一人の専門職として、そしてチームの仲間として最前線で活躍する女性職員がいます。今回お話を伺ったのは、署で初めての産休・育休を取得し、後輩たちの道を切り拓いてきた木下さんと、幼い頃からの憧れを胸に日々成長を続ける吉井さんです。前例がない環境をチームで乗り越えてきた軌跡と、住民一人ひとりに寄り添う葉山町ならではのやりがいについて、お話を伺いました。
- 憧れを胸に、葉山町へ。それぞれの道が交差する場所
- コンパクトなまちだからこそ。幅広い経験と地域に寄り添う業務
- 不安を乗り越えて。「1人の消防士」として輝ける職場の温かさ
- 前例がないなら作ればいい。ライフステージの変化に寄り添う環境
- 次世代へ繋ぐ想い。一歩を踏み出したいあなたへ
憧れを胸に、葉山町へ。それぞれの道が交差する場所
ーまずは、お二人が消防士、そして救急救命士を目指されたきっかけについて教えていただけますか?
木下:私は小さい時から看護師に憧れていて、ずっと看護師の道に進みたいと考えていました。そんな中、祖父が家で倒れた時に、救急隊の方の活動を間近で見る機会がありました。
現場から病院へと命を繋ぐ役割は、救急隊員(救急救命士)にしか担えないのだとその時に初めて強く感じ、救急救命士になるために専門学校へ進むことを決めました。
吉井:私は高校2年生の時に、部活動で友人が倒れて救急車を呼んだ出来事がきっかけでした。その時に駆けつけてくださった女性隊員の方が、友人に対して迅速な処置を行ってくださっただけでなく、周りにいて動揺していた私たちに対してまで、不安を解くような優しい言葉をかけてくださいました。
その姿に強い憧れを抱き、私も誰かの不安を安心に変えられる救急救命士を目指し始めました。
ー素晴らしい原体験をお持ちなのですね。数ある自治体の中から、なぜ葉山町を選んだのでしょうか?
木下:私は群馬県出身ですが、群馬県内の各消防本部では採用試験日が同日に設定されているため、原則として一つの消防本部を選んで受験する制度となっています。
その中で、様々な自治体の採用情報を調べている中、葉山町消防本部が中途採用を実施していることを知りました。新たな環境で消防士として挑戦できる機会に魅力を感じ、葉山町消防本部の採用試験を受験することにしました。
吉井:私は専門学校の先生方から葉山町についてのお話を伺い、説明会に参加させていただいたのがきっかけです。説明会に参加して、葉山町は規模が大きすぎないからこそ住民の方との距離が近く、地域に密着した消防活動ができることに大きな魅力を感じました。
消防士として幅広い経験を積みながら、町民の方々に信頼される存在になりたいと思い、葉山町消防署を選びました。
ー木下さんは群馬県からいらしたとのことですが、葉山町にはどのような印象を持っていたのですか?
木下:初めて葉山町を訪れたときは、これまで馴染みのなかった土地だったため、新鮮な気持ちで町の雰囲気を感じました。採用試験を受けると決めてからは、数ヶ月間、インターネットなどで葉山町や消防本部について調べ、試験対策に取り組みました。
群馬県出身の私にとって、海のある暮らしには以前から憧れがあり、葉山町を知るにつれて、海や豊かな自然に囲まれた環境に魅力を感じるようになりました。「ここで消防士として働きながら暮らすことができたら、きっと充実した人生になる」と強く思い、受験への思いがさらに強くなりました。
実際に葉山町で暮らしてみても、海からの風を感じながら過ごせる環境はとても心地よく、仕事だけでなく、日々の暮らしも大切にできる町だと感じています。
コンパクトなまちだからこそ。幅広い経験と地域に寄り添う業務
ー現在、お二人が担当されている具体的な業務内容について教えてください。
吉井:私は救急救命士として、3人1組で救急隊の一員として救急車に乗車し、傷病者を適切な医療機関へ搬送する業務をメインで行っています。
また、現場の活動だけではなく、知識や技術の向上のために病院などで開催されている研修に参加したり、月に1度、町民の方を対象とした救命講習で心肺蘇生法や止血法などを教えたりしています。
木下:私も吉井さんと同じく、基本は救急救命士として現場で救急処置を行っています。救急救命士は注射や点滴といった特定行為が可能ですので、必要に応じてそういった処置も行います。
また、事務作業も救急係の中で分担して進めておりまして、予算の管理やイベントの企画運営など、一からすべて自分たちで行っています。他の大きな市町村ですと日勤の方が事務を行うことも多いのですが、葉山町はコンパクトな組織ですので、係の中で完結するように幅広く仕事を任せてもらえます。
ー事務やイベント運営まで、幅広いのですね。葉山町ならではの災害対応の特徴などはありますか?
木下:葉山町は消防隊と救急隊を兼務して仕事ができるという特徴があります。大きな市町村ですと専任になることが多いのですが、救急救命士の資格を持っていても、火災があれば防火衣を着て出動しますし、山の救助要請があれば山に登って救助に向かいます。
何でも経験させていただけるのは、葉山町ならではの特権だと感じています。

吉井:本当にその通りですね。葉山町は海と山々に囲まれた自然豊かな地域ですので、水難事故や山間部での救助など、地域特有の災害や事故への対応が求められる場面が多々あります。
そのため、幅広い知識や技術を身につけることはもちろんですが、状況に応じて柔軟に判断し、行動する力が何よりも大切になると感じています。
不安を乗り越えて。「1人の消防士」として輝ける職場の温かさ
ー入署前、男性が多い職場環境や体力面に対しての不安はありませんでしたか?
木下:私が入庁した10年前は、やはり「消防は男性の職場」というイメージが非常に強かったので、女性が少ない中で本当にやっていけるだろうかという不安は正直ありました。
体力面に関しては、専門学校でもそれなりにハードな体育の授業を受けていたので、入庁前に大きな不安はありませんでしたが、今後維持していかなければならないという意識はずっと持っています。
吉井:私も最初は不安がありましたが、実際に入ってみると、男女関係なく「1人の消防士」として対等に接していただいています。
もちろん体力的に大変だと感じる場面もありますが、決して一人ではなく、お互いに協力しながら仕事ができる素晴らしい職場だと感じています。
ー不安を抱えて飛び込んだ中で、職場のサポート体制はいかがでしたか?
木下:私が採用された当時は、署内で女性職員が採用されたばかりであったため、女性職員を受け入れるための環境づくりは、まさにこれから整えていく段階でした。
そんな中、総務課や上司の方々が女性専用の仮眠室をはじめ、トイレやお風呂など、安心して働ける環境を一つひとつ整えてくださいました。周囲の皆さんの温かいサポートがあったからこそ、安心して仕事に取り組むことができたと感じています。
現在では、トイレやお風呂、仮眠室などの環境も整い、女性職員も快適に働ける職場になっています。
また、消防の仕事はチームで活動するため、女性だからと特別扱いされるのではなく、一人の消防士として接していただいています。先輩方から丁寧に仕事を教えていただき、周囲のサポートを受けながら、一歩ずつ成長することができました。
吉井:私も同じように感じています。困ったことや分からないことがあれば、先輩方が忙しい中でも非常に丁寧に教えてくださいます。現場のことだけでなく、日頃から何でも相談しやすい温かい雰囲気があるので、一人で抱え込まずに安心して働くことができています。

ー現場で「女性だからこそ活きる強み」を感じる瞬間はありますか?
木下:特に、女性や傷病者やお子様、そのご家族から「女性がいてよかった」「女性だからこそ話しやすかった」と言っていただくことがあり、相手の気持ちに寄り添いながら安心感を与えることは、女性消防士ならではの強みの一つだと感じています。
女性職員がいることで生まれる安心感や、話しやすさ、寄り添う力は、現場で大きな力になると感じています。
吉井:消防の仕事は体力だけでなく、コミュニケーション力や相手への細やかな気配りも非常に大切になります。私も、女性の傷病者やお子さんへの対応では、安心して心を開いてお話ししていただける場面を経験しており、自分自身の存在が活かせる仕事だと感じています。

前例がないなら作ればいい。ライフステージの変化に寄り添う環境
ー木下さんは署で初めて育休を取得されたとのことですが、当時の職場の対応はいかがでしたか?
木下:葉山町消防で出産を迎える職員としては私が初めてだったため、妊娠・出産を経てどのように仕事を続けていくのか、最初は私自身も分からないことが多くありました。
しかし、組織一丸となり一緒になって考えてくださり、妊娠中の体調や勤務への配慮、出産後の働き方について、その時々の状況に合わせて柔軟に対応してくださいました。安心して仕事を続けられる環境を一つひとつ整えていただいたことに、とても感謝しています。
初めてのことで不安を感じることもありましたが、職場全体から温かいサポートを受けたことで、「現場に復帰したい」という思いを強く持ち続けることができました。

ー復帰後のサポートや、現在の子育てとの両立についてはいかがですか?
木下:2年間の育児休業を経て職場に復帰しました。復帰するにあたって不安もありましたが、「復職プログラム」を用意してくださり、安心して職場復帰することができました。
復帰後は、現場に戻るための訓練や勤務への調整など、無理なく仕事の感覚を取り戻せるよう、周囲の方々が丁寧にサポートしてくださり、育児休業前と同じように現場活動へ戻ることができました。
現在も、子どもの急な発熱などで保育園へのお迎えが必要になった場合には、状況に応じて勤務を調整していただくなど、職場の皆さんに支えていただいています。
ー素晴らしい体制ですね。職場全体としての働き方にも変化はあるのでしょうか?
木下:そうですね。今では男性職員の育児休業の取得率も非常に上がっています。町としてもしっかりと取得を推奨してくださっており、現場の人員を調整しながら、男性でも1ヶ月から2ヶ月の育休を取得する方が増えてきました。
私自身の経験を通して、ライフステージが変わっても、安心して消防士として働き続けられる環境があることを実感しています。
ー吉井さんから見て、木下さんのような先輩女性職員の姿はどのように映っていますか?
吉井:子育てをされながら現場に復帰し、今も第一線で活躍されている木下さんの姿は、私にとって本当にかっこいい憧れの存在です。
仕事と家庭を見事に両立しながら働かれている先輩が身近にいらっしゃるからこそ、私も将来、先輩のように長く現場で活躍できる消防士になりたいと強く思うことができます。
次世代へ繋ぐ想い。一歩を踏み出したいあなたへ
ーお二人が今後挑戦していきたいことや、目指すキャリア像について教えてください。
木下:私はこれまで10年間、現場業務に専念して取り組んできました。これからは、女性職員が増えていく中で、施設面の環境整備や教育体制の充実により一層力を入れていきたいと考えています。
上の立場になるにつれて、後輩たちがしっかりと現場で活躍できるような体制を整えていくことが私の役割だという思いが強くなっています。
吉井:私は今後さらに下積みをしっかりと重ねていき、救急救命士としての知識や技術を向上させていきたいです。それに加えて、女性ならではの視点や意見を積極的に取り入れながら、町民の方々への対応向上や職場の環境改善にも貢献できるような職員を目指していきたいと考えています。
ー最後に、これから葉山町消防署を目指す方、挑戦を迷っている方へメッセージをお願いします。
木下:葉山町消防署は、一つの業務に限らず色々な部署で幅広く働くことができるのが最大の魅力です。そして、ライフステージが変わっても自分のやりたいことを諦めずに続けられる、キャリアを積み重ねられる素晴らしい環境があります。
迷ったり悩んだりしても、必ず助けてくれる温かい先輩や後輩がたくさんいますので、ぜひ安心して葉山町に飛び込んできてください。
吉井:最初は不安もたくさんあると思いますが、「女性だからできない仕事」は絶対にありません。努力をすれば必ず成長できますし、周りの先輩方も全力で支えてくださいます。
地域の方々に寄り添い、確かなやりがいを実感できる仕事ですので、少しでも興味がある方はぜひ一歩を踏み出して、挑戦してほしいと思います。

ー本日はありがとうございました。
取材を通して強く感じたのは、お二人が放つ「柔らかさ」と「芯の強さ」でした。前例がなかった10年前から、周囲の理解を巻き込んで自らの居場所と後輩の道を切り拓いてきた木下さん。そして、その背中を追いかけながら、純粋な憧れを力に変えて躍進する吉井さん。葉山町消防署には、制度という枠組みを超えて、一人の人間として互いを思いやり、共に成長しようとする温かな風土が根付いています。男性も女性も関係なく、誰もが「自分らしく」輝けるこの場所なら、あなたの熱い思いを最高の形で地域へ届けることができるはずです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年7月取材)
この記事の官公庁・自治体
葉山町は三浦半島の西北部に位置し、北は逗子市、東部・南部は横須賀市に接し、西は相模湾に面しています。 町の面積はおよそ17平方キロメートル、御用邸のある町としても有名です。 町内には鉄道網がなく、最寄り駅からバス路線を利用するか、車やバイクが主な交通手段となり ます。 都心から約1時間。海と山に囲まれた自然豊かな町で、南北4キロメートル続く海岸線は砂浜と 岩礁の美しい景観が続いており、晴れた日には海の向こうに富士山や箱根、江ノ島を眺めることが できます。
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