その手で、人吉の景色を守っていく――水害から3年、公民館建て替えに込めた建築技師の想い
人吉市役所
「良い建築物を完成させるために、設計士から現場の職人まで、たくさんの人が関わる。それがとてもかっこよく見えたんです」
そう語るのは、人吉市役所復興建設部住宅政策課建築係で建築技師として働く小松慶彦さん。入庁8年目を迎え、学校や公民館、市営住宅など、市が持つ建物の保守業務を中心に担当しています。
今回は、小松さんが人吉市役所で働くことになった経緯や、水害からの復興事業に携わった経験、そして建築技師として働く手応えについて、たっぷりとお話を伺いました。
- リフォーム番組に憧れて。工事現場の熱気が進路を決めた
- 予算要求から引き渡しまで。建築技師が担う「形に残る」仕事
- 水害から3年。公民館の建て替えに込めた思い
- 職員同士の距離が近いまち。そして、これから人吉をめざす人へ
リフォーム番組に憧れて。工事現場の熱気が進路を決めた
ーまずは、人吉市役所に入庁されるまでの経歴を教えていただけますか。
小松:出身は熊本県宇城市の松橋町です。高校と大学を建築学科がある学校に入学し、卒業後は1年間就職浪人のような期間を経て、人吉市役所に入庁しました。
ー建築の道を志したきっかけは何だったのでしょうか。
小松:子どもの頃、建物のリフォームをテーマにしたテレビ番組を見ていたのがきっかけです。良い建築物を完成させるために、設計士から現場の職人まで、たくさんの人が打ち合わせを重ねていました。現場で汗を流している姿が、とてもかっこよく見えたんです。
中でも忘れられないのが、建物が完成して引き渡しになった瞬間、施主さんが喜んで泣いていらっしゃったことです。人の人生に関わる仕事なのだと、子ども心に強く印象に残りました。
ーその浪人期間中は、どのように過ごされていたのですか。
小松:別の自治体を受けていたのですが、2年連続で2次試験を突破できなかったんです。もう一年がんばってみようと思っていた矢先、人吉市役所が建築技師を募集していることを知り、受験しました。
ー人吉市とは、何かご縁があったのでしょうか。
小松:実は、母方の祖父母が人吉に住んでいて、小さい頃からよく里帰りで遊びに来ていた場所なんです。求人を見つけた時、まったく知らない土地に行くよりは知っている土地で働きたいと思いました。人吉市が好きだという気持ちもありました。就職浪人という遠回りの先で、結局は自分にとって一番縁のある人吉市にたどり着きました。

予算要求から引き渡しまで。建築技師が担う「形に残る」仕事
ー現在、どのようなお仕事を担当されていますか。
小松:所属している建築係では、市が所有する建築物の営繕業務を行っています。営繕とは「建築物の営造と修繕」のことで、メインになるのは工事の発注業務と工事監理業務です。最近では小中学校や公民館、市営住宅の改修工事を担当しております。
ほかにも、戸建木造住宅の耐震化に関する補助金制度や、危険なブロック塀の撤去に関する補助事業にも関わっています。
ー業務の一連の流れを教えてください。
小松:まず施設の所管課から「ここを改修したい」という相談があり、予算要求から始まります。予算がついた段階で、いよいよ建築係の出番です。設計を行い、図面作成や積算業務を経て発注に向けての準備を進めます。業者さんが決まったら、今度は施設の所管課も交えて打ち合わせを重ねます。
公共施設なので、工事中も利用者がいます。だからこそ、安全確保に気を配りながら、綿密にスケジュールを詰めていく必要があります。年度が始まる時期には、複数の工事の発注が重なりやすくなります。また学校であれば「この日は工事の音を出さないでほしい」といった要望への調整も欠かせません。
ー現場に出られることも多いのでしょうか。
小松:発注前、つまり契約前までは事務作業が中心です。工事が始まってからは現場に行って状況を確認し、設計通りに工事が進んでいるかを管理する仕事が中心になります。
ー設計についても、小松さんご自身が手がけることが多いのですか。
小松:案件によります。自分でできるレベルのものであれば自分で設計しますし、業者さんに立ち会ってもらって確認することもあります。ただ、大規模な工事の場合は設計業務を委託して、設計事務所と打ち合わせをしながら進めていきます。
ーやりがいを感じる瞬間はありますか。
小松:工事が完了し、施設が再開された後の瞬間です。利用者の方から「あそこ、綺麗になったね」「ありがとう」と、直接声をかけていただきます。建設業は、自分の仕事が目に見える形で残るのが一番の醍醐味だと思っています。その施設がこれから先も市民の暮らしに馴染み、愛されていくのを想像すると、やはり大きなやりがいを感じます。

水害から3年。公民館の建て替えに込めた思い
ーこれまでの仕事の中で、思い入れのある事業はありますか。
小松:令和2年7月の水害で、ある公民館が浸水してしまい、その建て替え事業を担当としてやらせてもらったことです。建物があった隣の高い土地をかさ上げして造成し、同時に既存の建物を解体し、そこに新しく公民館を新築するという内容でした。
財政的な面もあり、小さい自治体で新築事業に携われる機会は多くありません。水害がなければ経験できなかったことです。それをきっかけに新築という大きな仕事に携われたことは、今でもとても印象に残っています。
ー事業を進めるにあたって、住民の方とのやり取りもあったのでしょうか。
小松:設計の段階で、地域の方に「ここを新しく建て替えます」とご説明しました。その上で、今後どんな施設にしたいかを、町内会長を通じて伺いました。これまでの建物のここが良かった、ここを改善してほしいという意見も聞きました。それを設計事務所と確認しながら、できる限り取り入れた施設を設計していきました。
ー水害から引き渡しまで、どのくらいの期間がかかったのですか。
小松:被災した後から施設の復旧方針について検討し、令和3年度に復旧方針が決定しました。その後、令和3年度に各工事の設計、令和4年度に施設の解体と敷地の造成を行いました。
そして令和4年度末から令和5年度末にかけて新築工事を行い、被災から実に3年以上をかけた事業でした。同じ水害が来ても大丈夫なようにと、事業の方針を決めるだけでも時間がかかりました。
ー引き渡しの時は、どのようなお気持ちでしたか。
小松:地域の方は皆さん喜んでくださいましたし、携わってくださった方からもお礼の言葉をいただきました。あの瞬間の充実感、達成感は、これまでの仕事の中でも一番のものでした。

職員同士の距離が近いまち。そして、これから人吉をめざす人へ
ー働き方の面では、残業やお休みの取り方はいかがですか。
小松:所属部署は各々が担当業務を抱えて進めていく形です。発注のタイミングが重なる繁忙期以外は、基本的に残業のない状況で働けています。休暇についても自分で業務を調整しながら、取れるタイミングで積極的に年休を取っている同僚が多いです。
ワークライフバランスは比較的取りやすい職場だと感じます。実は私自身も10月に第一子が誕生予定でして、業務の状況を見ながら育休を取得できればと考えているところです。
ー職員同士のコミュニケーションはいかがですか。
小松:業務の相談は上司や同僚にしやすい環境ですし、休憩時間には雑談も飛び交うような、明るい職場です。それだけでなく、職員同士で定期的に食事に出かけることもあります。私自身も趣味のゴルフで、部署の異なる上司と休日に一緒にラウンドすることがあります。
仕事の場を離れても自然と顔を合わせる機会が多いからこそ、いざという時に相談しやすい関係が築けているのだと思います。人吉市は、職員同士の距離がとても近いまちだと感じています。
ー人吉市の魅力について教えてください。
小松:自然豊かなところです。市内の真ん中を流れる球磨川は日本三大急流のひとつで、初めて見た時は圧倒されました。また、文化財も多く残っており、自然と歴史、両方の魅力が身近にあるまちだと思います。
ー最後に、人吉市役所をめざす方へメッセージをお願いします。
小松:人吉市に限らず、今、公務員全体で建築技師は不足している状況です。公務員と民間企業で一番違うのは、市民の方と直接お話しする機会が多いことです。人吉市民に寄り添って地域に貢献したいという方、そして元気と向上心のある方をお待ちしています。ぜひ一緒に人吉市役所に入庁して、このまちを良くしていけたらと思っています。

ー本日はありがとうございました。
画面越しの取材ではありましたが、小松さんの言葉の端々から、人吉というまちへの静かな愛着が伝わってきました。子どもの頃にテレビで見た「形に残る仕事」への憧れは、就職浪人という回り道を経て、母方の祖父母が暮らす人吉という縁の土地で、8年目を迎えた今も色褪せていないようです。
水害から3年をかけて建て替えた公民館の話をするとき、小松さんの声にはひときわ力がこもっていました。人の暮らしのそばで、形に残る仕事をする。その手応えを、これからも人吉で積み重ねていかれるのだろうと感じさせるインタビューでした。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年7月取材)
この記事の官公庁・自治体
人吉市は熊本県の南端にあり、宮崎・鹿児島両県に接しています。熊本市・宮崎市・鹿児島市のほぼ中央に位置し、各都市へ九州自動車道で約1時間の好アクセス。南九州の交通の要衝となっています。 鎌倉時代から明治維新まで続いた相良氏の城下町で、人吉球磨地域の経済・文化の中心地として栄えてきました。中心市街地には昔ながらの商店街があり、少し郊外へ行くとのどかな田園風景が広がります。ものすごく田舎というわけではなく、程よい田舎でとても暮らしやすいまちです。 人口は約3万人で、住んでいる人たちはとても穏やか。子どもたちとすれ違えば、元気にあいさつしてくれます。人と人との結びつきを大切にする"お人よし"が暮らすまちです。
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