三原市消防本部・女性消防士が語る、働くということ

三原市役所

2026/09/15

「女性の方がいて安心した」と言ってもらえて――

 

そう振り返るのは、三原消防署消防第二係第一消防隊隊員として働く、入庁2年目の杉岡さん。令和7年度、三原消防で3人目の女性消防士として採用されました。現在は消防隊員として火災現場の対応にあたりながら、学校や公民館での訓練指導、地域の行事での啓発活動にも携わっています。

 

今回は、女性消防士として働く魅力や日々の仕事、そして女性だからこそ感じてきたことについて、たっぷりとお話を伺いました。

 


 

消防車を見た瞬間、これだなって。父が倒れた日の記憶が導いた消防士への道

ー消防士を目指したきっかけを教えてください。

 

杉岡:高校3年生の時に消防士を目指し始めました。当時は就職で工場に就くことも考えていましたが、「自分がしたいことではない」と感じて、やりたいことを探していたときに、たまたま出動している消防車を見て「これだな」とピンときたんです。

 

ー消防士を目指す決め手になった出来事はありますか。

 

杉岡:小学1年生の時に、父が目の前で倒れたことがあって。その時の記憶は今でも鮮明に覚えています。救急車を見たときにすごく安心したのを覚えていて、何かあったときに現場に駆けつけられる仕事に就きたいと思うようになりました。

 

ー柔道部だったそうですが、体力面や資格の面でも消防士を意識するきっかけがあったのでしょうか。

 

杉岡:柔道部で男子部員の中、女子部員が1人という環境で、練習も同じメニューを行っていたため体力もなんとか頑張っていけるかなと思っていました。学生時代に危険物取扱の資格も取得していたので、それも消防士として生かせると感じていました。

 

ー高校卒業後は専門学校に進まれたそうですね。三原市を選んだ経緯を聞かせてください。

 

杉岡:専門学校に2年間通いながら消防士採用試験を受けていて、第一志望の試験では補欠合格にとどまってしまいました。もう1年間アルバイトをしながら受け直す中で、たまたま日程が重ならなかった三原市の試験を受けたのがきっかけです。調べていくと、県内初の女性救助隊員の記事を見て、「女性も活躍できる職場なんだな」というのが最初の印象でした。

 

杉岡:実際に面接を受けたときも、中身の部分をきちんと聞いてくれる姿勢を感じました。以前受けた試験では面接官10人に対して受験者1人という形式で、かなり緊張感があったんですが、三原市の面接は、じっくり話を聞いてもらえる印象でした。面接官の雰囲気や、買い物に行ったときの街の人の雰囲気も良くて、いい街だなと思ったことも印象に残っています。

24時間勤務。三原消防署で過ごす、ある1日

ー配属後の勤務体制について教えてください。

 

杉岡:三原消防署は1つの係に35人ほどが所属していて、そのうち20人程度が署に集まって24時間勤務にあたります。1回勤務して休み、また勤務して休み、という形を3回繰り返してから週休になります。救助隊・救急隊・消防隊・当直責任者(係長級)を合わせた体制の中で、私は消火活動を担う消防隊員として勤務しています。

 

ー1日の流れを教えてください。

 

杉岡:朝8時半に出勤して庁舎や車両の点検を行い、ミーティングを経て各隊で訓練を行います。お昼はうどんが定番で、持参する人以外はうどん・そば・ラーメンの冷凍麺を食べます。食べた分を記録しておき、月末にまとめて精算する仕組みになっています。午後は放水訓練などを行い、夕方には若手で夕食を作ります。夜7時半には車両点検があり、その後は書類整理などの雑務や自主的な体力トレーニングを行い、10時ごろまで訓練をしてから入浴して、夜間の出動に備え仮眠をとります。翌朝は事務処理、庁舎清掃、申し送り等を行い、8時半の勤務交代で1日を終えます。

 

ー忙しい毎日だと思いますが、働いていて感じることはありますか。

 

杉岡:忙しいですけど、すごい充実しているので、あっという間に1日が終わります。気は張っているんですけど、皆さんの面白い冗談を聞いて笑ったりする時間もあります。

消火だけが仕事じゃない。学校での訓練指導、消防まつりでの一コマ

ー消防活動以外にどのような業務がありますか。

 

杉岡:学校や公民館に出向いて、消火器の使い方を教える訓練指導を行っています。避難訓練の様子を見学し、その後に講評を行うこともあります。頻度としては、月に1回程度、多い月では2〜3回ほど依頼を受けて対応しています。

 

杉岡:そのほか、消防団の方と合同で訓練を行ったり、10月半ばに開催される消防まつりにも携わっています。はしご車の展示や搭乗体験、ロープを使った体験コーナーなど、家族連れの方が仕事の様子を知ることができるイベントです。前年はクイズ大会の景品として、お菓子で作った30センチほどのトロフィーを隊の皆で作成したことが印象に残っています。

「女性がいて安心した」その言葉が力になる

ー実際に働いてみて、想像と違ったことはありますか。

 

杉岡:2つあります。1つは、初めて木造一軒家の火災現場に出動したときのことです。想像以上に熱く、体力的にも想像以上に厳しいと実感しました。もう1つは、救助大会に向けた訓練の様子です。入庁前は「動きが速くてすごい」という印象だけでしたが、実際に救助隊の方々が毎日訓練を積み重ねている姿を間近で見て、現場での動きの裏にはとんでもない量の訓練があるのだと知りました。

 

ー女性消防士として働く中で、感じることはありますか。

 

杉岡:体力の差はどうしても努力で埋めていく必要があると感じています。一方で、以前救急の現場に出動した際、旦那さんが倒れてパニックになっていたお婆さんから「女性の方がいて安心した」と声をかけていただいたことがありました。その言葉を聞いて、女性である自分にできることがあるのだと感じられた出来事でした。

杉岡:職場では、男性が多い環境の中、やりたいという声を頭ごなしに否定されることはなく、男女一緒に訓練を見てもらえる環境で、女性としての体力面には配慮されつつも、指導自体は同じように受けられていると感じています。

 

ー女性としての交友関係についてはいかがですか。

 

杉岡:外傷患者対応の訓練講習(JPTEC)で知り合った看護師の友人がいます。同じく1人で三原に来ているそうで、似た職種という事もあり、休みも合いやすく、お互いの家でご飯を食べたり、一緒に出かけたりしています。消防の仲間だけでなく、こうしたつながりを持てるところも魅力の一つだと感じています。

 

ー今後、目指していきたいことを教えてください。

杉岡:体力面での差を埋める努力は続けていきたいと思っています。将来的には、救助隊員と同じくらいの体力と知識を身につけられるようになりたいというのが、今の目標です。三原消防に必要とされる人材になりたいです。

 

ー最後に、女性消防士を目指す方へメッセージをお願いします。

 

杉岡:三原消防は、やりたいという気持ちを伝えやすい環境だと思います。男女一緒に訓練を見てもらえますし、女性としての体力面には配慮してもらいながらも、きちんと同じように指導してもらえます。今年4月からは三原西エリアを管轄する三原西消防署でも新庁舎が完成し、女性専用の設備が整備されました。少しでも興味があれば、ぜひ挑戦してみてほしいです。

ー本日はありがとうございました。

 

小学1年生の時に見た救急車の記憶が、今の仕事につながっている。そう語る杉岡さんの言葉には、迷いのなさがにじんでいた。24時間勤務、消防まつりの準備、そして「女性がいて安心した」という一言。淡々と語られる日常の中に、女性消防士として一歩ずつ積み重ねてきた実感があった。取材を通じて、その芯の強さが印象に残った。

 

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年9月取材)

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