「最後の砦」として島の暮らしに寄り添う。西ノ島町役場の社会福祉士が語る、仕事のやりがいと島暮らし
西ノ島町役場
「行政は最後のセーフティネット、最後の砦のような存在だと感じています」
そう語るのは、西ノ島町役場健康福祉課で社会福祉士として働く入庁7年目の山中さん。
デイサービスの介護員や特別養護老人ホームの生活相談員として民間の福祉の現場を経験し、令和2年4月に社会福祉の専門職として入庁。現在は福祉係で、生活保護や障害福祉、児童虐待への対応などを担当しています。
今回は、社会福祉士を目指す方や島暮らしに関心がある方に向けて、行政で福祉に携わるやりがいや西ノ島での暮らしについて、たっぷりとお話を伺いました。
「島でも働ける仕事を」と選んだ福祉の道。民間の現場を経て町役場へ
ーまずは、これまでの経歴を教えてください。
山中:父のルーツが海士町で、保育園を卒園するまで海士町で過ごしました。小学4年生までは父の転勤で西ノ島に住み、5年生からは松江市で暮らしていました。正直、自分は都会よりも島が好きで、毎年夏休みには、欠かさず隠岐の祖父母のもとへ帰っていましたね。
ー福祉の道を選んだのはなぜですか。
山中:島ではたらくことをまず考え、福祉の仕事なら働けるのかなと思ったのがきっかけです。介護福祉士を養成する専門学校に2年通った後、岡山県津山市の大学に3年次から編入し、社会福祉士の資格を取りました。
卒業後は社会福祉協議会のデイサービスで介護員として5年間勤め、その後は医療事務の仕事や老人保健施設の生活相談員なども経験しています。やはり西ノ島で働きたいという気持ちが強く、西ノ島町内の特別養護老人ホームで生活相談員として3年間働きました。その後、今後のキャリアや待遇面に悩んでいた所、たまたま役場での社会福祉士の募集が出たため、入庁いたしました。
「お伺い」と「公平性」の壁。1年かけてたどり着いた出会い
ー入庁されて、どんなことを感じましたか。
山中:入庁したのは、ちょうどコロナが広がり始めた頃でした。健康福祉課は感染症やワクチンを扱う部署なので、かなり大変な雰囲気だったというのが正直な印象です。また、裁量や仕事の進め方も、最初は非常にやりにくさを感じていました。
ー福祉係の仕事には、すぐに慣れましたか。
山中:学生時代に勉強した分野ではありましたが、仕事にするのは初めてで、最初は手探りでした。とにかく、その人と話をして、その人のことを知らないと何も始まりません。少しずつ信頼関係を深め、さまざまな制度や西ノ島という環境と照らし合わせて、どうすればこの町で安心して暮らしていけるかを考えていきました。
最初は点と点がまったく結びつかなかったのが、徐々に「これならこの制度が使える」「あれならこの人に相談してみよう」と、枝分かれするようにつながるようになりました。
ー民間の福祉職と役場の社会福祉職とでは、勝手が違いましたか。
山中:民間にいた頃は、「ここまでしてあげたい」という善意で動ける部分がありました。でも公務員には公平性が求められます。「ここまでしたら、今後は役場がここまでしないといけなくなる」と指摘されたこともあり、「ここからはご本人次第です」と線を引く場面が多くなりました。そのギャップにすごく苦しんだ時期があります。
ただ、抱えている問題によっては自分でできない方もいるので、その人の力に合わせて、線を相手ごとに調整できるようになりました。無意識のうちに身についてきた気がします。

ー印象に残っている出来事はありますか。
山中:入庁して1年ほどたった頃、なかなか人の中に入っていけない方がいました。ご家族を通じて関わりを続けたのですが、ご本人に会えたのは相談を受けてから1年近くたってからでした。
今も関わりを続けていて、少しずつ話ができるようになり、ご本人が変わっていく感覚があります。思い通りにいかないことばかりでしたが、粘り強く関わり続けて、相手に少し認めてもらえたのかなと感じられたのはよかったです。
行政は「最後の砦」。顔の見える島だからこそできる福祉
ー会うまでに1年という関わり方に驚きました。行政の福祉職のやりがいは、どこにあると感じますか。
山中:行政は最後のセーフティネット、最後の砦のような存在だと感じています。その分、その人の人生を左右することもあり、民間で働いていた頃とは責任感が違います。一方で、公的な制度やサービスを、自分の進め方次第でその人に合った形で届けられる。それは民間ではできないことだと思います。支援がうまく結びついて軌道に乗っていくと、やりがいを感じますね。
ー島ならではの働き方もあるのでしょうか。
山中:地域ぐるみで関係機関がその人のことを知っていたりするので、とても連携が取りやすい環境です。よその自治体だと、電話で声は聞いたことがあるけれど顔は知らない、というやり取りが多いと思います。
ここでは病院の方など仕事で関わる人とも顔見知りで、どんな人かも分かっています。それが逆に働きにくいと感じるときもありますが、僕としては、やりやすさにつながっていることのほうが多いですね。
ー職場の雰囲気はいかがですか。
山中:健康福祉課には福祉係、介護保険係、健康増進係の3つの係があり、1つの課ですべての分野を網羅しています。こぢんまりとしていてデスクも近く、係をまたいで話がしやすいのは強みです。専門職は基本的に異動がないので、長く一緒にいるうちに話もしやすくなりました。今年は20代の新規職員も入り、コロナの頃と比べると全然違うくらい明るい雰囲気になっています。課長もそういう雰囲気を大事にしてくれる方なので、やりやすいです。
ー今後、取り組んでいきたいことはありますか。
山中:小さな島なので、ひきこもりの方や身寄りのない方が、ふらっと出かけられる場所がないんです。そういう居場所をつくり、ニーズの掘り起こしにつなげられたらと思っています。具体的なイメージはまだ持てていないので、いろいろな自治体の取り組みを見ながら絵を描いていきたいです。

仕事帰りに晩ご飯のおかずを釣る。島暮らしの楽しさと不便さ
ー働き方や、仕事以外の時間について教えてください。
山中:入りたての頃は残業が多かったのですが、今はだいぶ少なくなりました。有給休暇も、みんなで休みが重ならないように調整しているので取りやすいです。釣りが趣味なので、仕事が終わってから釣りに行ったり、休みの日も釣りをしたりしています。仲間とバンドを組んでギターも弾いていて、釣った魚でお酒を飲んだりもします。自分らしい生活ができているなと思います。
ー実際の島暮らしはいかがですか。
山中:通勤は10分もかかりません。役場は島の真ん中のほうにあるので、一番遠いところからでも15分か20分くらいだと思います。通勤のストレスはまったくありません。仕事帰りにそのまま釣りに行って、晩ご飯のおかずを釣ることもありますし、家庭菜園をしていれば正真正銘の自給自足です。そういう暮らしが好きな人には最高の場所だと思います。ご近所さんと仲良くなれば、野菜や魚のお裾分けもあります。
SNS等の僕の投稿を通じて、島外の友人から「島での暮らしぶりが、いきいきとしていて羨ましい」と言われたことがありました。西ノ島での生活が人から見ても自分らしいと思ってくれたことがすごく嬉しかったです。今後も島暮らしの魅力を僕なりに色んな所で発信できたらなと思っています。自然との触れ合いや人との関わりが好き。


ー不便に感じることはありますか。
山中:娯楽が少ないのはデメリットです。冬は海がしけて船が3日連続で止まることもたまにあり、物資が届かないなど生活しにくいと感じることは正直あります。物価も少し高く、広島から来た妻はとても驚いていました。
ただ、通販を上手に使えば、物によっては翌日に届くので、そこまで不便は感じません。お寿司屋さんに気軽にふらっと行けなくても、魚を釣って自分で作ればいいじゃないか、という発想になりました。それが逆に楽しみになっています。

ー本日はありがとうございました。
「思い通りにいかないことばかりでした」と振り返りながら、1年かけてたどり着いた出会いについて話してくださった山中さん。制度を一人ひとりに合わせて届け、顔の見える関係機関と連携しながら暮らしを支える。小さな島の役場だからこそ、住民の生活に深く関われる仕事なのだと感じました。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年9月取材)
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