民間の経験を行政に。八戸市の介護保険制度を「面」で支える介護支援専門員のリアル
八戸市役所
介護や福祉の現場で培った知識や経験は、行政という新たな舞台でどのように花開くのでしょうか。今回は、八戸市役所福祉部介護保険課で活躍する2人の介護支援専門員(ケアマネジャー)、SさんとHさんにお話を伺いました。
前職での病院相談員や障害福祉施設、ケアマネジャーとしての経験を経て入庁したお二人は、行政職員としてどのような想いで日々市民や事業者に向き合っているのでしょうか。民間現場との違いや行政だからこそ味わえるやりがい、そして子育て世代も働きやすい職場環境のリアルに迫ります。
2人が歩んできたキャリアと転職への想い
ーまずは、お二人が八戸市役所に入庁されるまでの経歴や、福祉の道を志したきっかけについて教えていただけますか?
S:私は大学を卒業した後に、精神科の病院で相談員(ソーシャルワーカー)として6年間勤務しました。その後、平成23年度に八戸市役所に入庁し、現在は福祉部介護保険課の介護事業者グループに所属しています。
実は、昔から「福祉で世界を変えてやる」といったような強い志があったわけではありませんでした。学生時代はもともと心理学に興味を持っていたのですが、当時は就職氷河期と言われる時代でしたので、医療や福祉の分野まで視野を広げた方が、幅広く職を選択できるのではないかと考え、この道に興味を持ちました。
H:私は専門学校を卒業してから、八戸市内の民間障害福祉施設に16年ほど勤務しました。その間に入所施設の介護職員や障害者の相談員を経験し、その後、市内のケアマネジャーとして1年半ほど勤務しました。
そして令和4年度に入庁し、現在は介護保険課の認定給付グループに所属しています。私も最初は漠然と「福祉の仕事が自分に向いているかもしれない」という興味からスタートしたのがきっかけでした。
ーお二人とも前職で長い現場経験をお持ちですが、なぜ行政職への転職を決意されたのでしょうか?
S:私の場合は、何か大きなきっかけがあったのではなく、本当にタイミングとご縁でしたね(笑)
病院で働いていた頃から市役所の職員さんと連携して仕事をする機会が多くあったのですが、ある日、市役所の方に会いに行った際に「今、専門職の募集をやっているよ」と教えていただいたのです。当時は結婚を控えていたこともあり、「安定した職」といった点で興味を抱き、軽い気持ちで受験したのが正直なところです。
今思えば、あの時に声をかけてもらっていなければ、今の自分はありませんでしたね。
H:私も、在宅の障害者相談員やケアマネジャーとして1年半ほど働く中で、行政と関わる機会が非常に多くありました。その中で「行政という立場から福祉に関わる働き方もあるのだな」と自然と感じるようになっていたのです。
そんな折に新聞広告で市役所の職員募集を見かけました。年齢制限や専門資格などの条件が自分にぴったり当てはまっていたため、思い切って挑戦してみようと決意しました。
ー入庁前、お二人は「市役所で働く介護支援専門員」に対してどのようなイメージを持っていましたか?
S:病院時代に市役所の窓口へ手続きに行ったり、会議を一緒にやったりしていたので、申請の受付窓口や困難ケースの対応をするのだろうなという漠然としたイメージを持っていました。実際に入庁してみるとデスクワークが中心で、想像していた仕事とはまた少し違う奥深さがありました。
H:私もSさんと同じで、要介護認定の申請窓口であったり、困難な相談ケースへの対応を行ったりするのだろうと思っていました。民間とは違う「行政という立場」から市民の方々と関わることになるのだろうなというイメージを抱いて入庁しました。

対市民と対事業者。同じ「窓口」でも異なる介護保険業務とは?
ー現在、お二人が担当されている具体的な業務内容について教えてください。
S:私は介護事業者グループに所属しており、主に介護サービス事業所の指導監督を担当しています。具体的には、新しい事業所が営業を開始する際の指定申請の受付や、運営開始後にきちんと法令や基準に沿って運営されているかを確認する現地での指導監督です。
また、深刻化する介護人材の不足に対応するための「介護人材確保事業」の企画・運営も行っています。
最近では、先日発生した地震による災害復旧補助金の受付や国への提出手続きなどに追われておりまして、非常に膨大な資料と格闘しているところです。
H:私は認定給付グループにおります。Sさんの部署が「事業者向け」だとすれば、私の部署は「市民向け」の窓口になります。
介護保険サービスを利用するために必要な「要介護認定」の申請受付や相談対応が主な業務です。さらに、認定を受けた方が自宅に手すりを付けたり段差を解消したりする「住宅改修」の補助金申請の受付・審査、現地調査なども担当しています。
ー同じ課でも業務の性質が大きく異なるのですね。
S:そうですね。私の業務は事業者や制度全体を対象にすることが多いため、どちらかといえばデスクワークの比重が高くなります。入庁前のイメージにあったような「個別ケースの現場へ直接駆けつける」というよりは、事業所が適正に運営されるための仕組みづくりや手続きが中心になります。
H:窓口には毎日多くの市民の方々が来庁されますので、日々多様なご相談に対応しています。制度の解説から具体的な手続きのご案内まで、市民の皆様の暮らしに直接届くサポートを行っています。
前職の現場体験が拓く、行政職員としての強みー「点」から「面」へ広がる支援の形
ー前職の経験は、現在の市役所での業務にどのように活かされていますか?
S:正直に言いますと、介護保険課に配属された当初は介護保険制度の詳しい仕組みについてほとんど知識がありませんでした(笑)
介護支援専門員の資格は持っていたものの、実践で活かせるような知識はあまりなかったのです。ですが、前職の精神科病院で様々な患者様やご家族と接してきた経験は、窓口対応で大きく活かされました。
精神障害をお持ちの方や、強い感情をぶつけてこられる方が窓口に来られた際も、焦らず落ち着いて対応することができるんです。相手の病気や障害という背景を理解した上で言葉を受け止めることができるため、精神的なストレスを感じることなく接することができたのは前職の経験があってこそだと思っています。
H:私は長年、障害福祉の分野で相談員などをしていましたので、高齢者だけでなく障害をお持ちの方への窓口対応に前職の経験が活きていると感じます。
窓口には「何か困っているけれど、どの制度を使えばいいか分からない」という市民の方が多く来られます。介護保険の対象外であっても、私自身が障害福祉制度の仕組みを理解しているため、状況を正確に把握してスムーズに障害福祉課などの適切な部署へお繋ぎすることができます。
縦割りの隙間に落ちてしまいそうな相談者を迷わせずに案内できる点は、経験があったからこそだと感じています。

ー民間の現場と行政職員とでは、支援に対する「アプローチの違い」もあるのでしょうか?
S:民間は目の前の利用者さんお一人おひとりに対して「点」で直接手厚く支援を行います。一方で行政は、制度の構築や事業所の指導、予算の獲得などを通じて、地域全体を「面」で支える役割を果たします。
ゼロベースから課題を分析し、新しい事業を立ち上げて制度化していくような仕事は、行政でしかできないダイナミックな魅力だと感じています。
H:民間の現場にいた頃は、困っている方がいれば自分が直接現地に出向いて前面に立ち、対応を一緒に検討していました。しかし行政の立場では、直接個別の介入をするというよりも、適切なサービスや事業者に繋ぐための後方支援に回ることが多くなります。
立場や役割が変わったからこそできる支援の形があるのだと実感しています。
予算要求から感謝の言葉までー行政だからこそ味わえるスケール感と手応え
ーこれまで市役所で働いてきた中で、特に印象に残っている出来事や「やりがい」を感じたエピソードがあれば教えてください。
S:私はゼロから企画した「介護人材確保事業」が非常に強く印象に残っています。秋口から翌年度に向けた下準備を進め、県の補助金や国の制度を徹底的に調べ上げました。
財政課に対して「事業の必要性」について熱意を持って説明し、無事に予算が通って翌年度から事業をスタートできた瞬間は、大きな達成感がありました。
ー予算を獲得するところから事業を立ち上げるのは、まさに行政ならではの仕事ですね。
S:本当にその通りです。2年ほど前には、東京から講師をお招きし、厚生労働省の担当者様にもご登壇いただく大規模な研修会を企画しました。夏頃から国との調整を重ね、2月に開催したのですが、目標100名に対して150名を超える方々が集まってくださったのです。
会場がいっぱいになった光景を見たときは、「準備して本当によかった」と心から思える瞬間でしたね。
H:私は日々の窓口業務や現地調査の中で、自分の仕事が市民の生活に繋がっていると実感できた出来事が忘れられません。
要介護認定の申請受付は毎日のように行っておりますので、後からその方がどのような生活を送られているかまで追うことは難しいのが現状です。ですが、住宅改修の支給後調査でご自宅を訪問した際、利用者の方から「あの時は本当にお世話になりました」と声をかけていただいたのです。
ー以前、窓口で対応されたことを覚えていらっしゃったのですね。
H:そうなんです。私が申請を受け付けた際に、サービス利用や住宅改修についてアドバイスさせていただいたそうで、その通りに手すりを設置したことで自宅での生活がとてもスムーズになり、今も安心して暮らせているというお礼の言葉をいただきました。
普段は自分の対応がどう活きているか見えにくい部分もあるのですが、現地で直接「あの時のおかげで救われました」と言っていただけたときは、この仕事をやっていることの意義を心から実感しました。
充実の待遇と子育て応援の環境ー八戸市役所で描くワークライフバランスと未来への挑戦
ー一般的に「福祉関連の部署は大変」というイメージを持たれることも多いですが、八戸市役所の職場環境や働きやすさはいかがですか?
S:介護事業者グループは年間スケジュールが概ね決まっているため、計画的に業務を進めることができます。突発的な災害対応などがない限りは、基本的に定時で帰宅できる日が多く、無理のないペースで働くことができています。
H:職場の雰囲気は非常に温かく、話しやすい環境です。今のグループには同世代の子育て世代が多く在籍していますので、仕事の相談はもちろん、子どもの学校行事や育児の情報交換なども自然に行われています。
何か課題が発生した際も、チーム全体で意見を出し合って解決しようという風土がありますので、一人で悩みを抱え込むことがありません。

ー休暇の取りやすさや待遇面について、前職と比較して変化はありましたか?
S:休暇制度は非常に恵まれていると感じます。我が家には小学生以下の子どもが2人おりますので、年に10日間(1人につき5日間)の看護休暇が付与されています。しかもこの看護休暇は1時間単位で取得できますので、急な発熱によるお迎えなどの際も柔軟に対応でき、家庭的にも本当に助かっています。
前職では、休むためには原則として事前に有給申請を行う必要があったのですが、市役所では突発的な休みであっても、お互いにフォローし合いながら取得することができています。
H:給与や待遇面での安心感も大きな魅力です。医療や福祉の現場は診療報酬や介護報酬という国が決めた枠組みがありますので、どうしても昇給には一定の制約や限界がありますが私自身入庁したことで前職より収入が上がりました。将来を見据えて安心して長く働き続けられる環境が整っていると感じます。
ーそれでは最後に、これから八戸市役所や行政の福祉職を目指す方々へメッセージをお願いいたします!
S:「自分に介護保険の知識がないから不安だ」と恐れる必要は全くありません。私自身も入庁当時は介護保険の知識がほとんどゼロからのスタートでした。
市役所には親身になって教えてくれる温かい先輩職員がたくさんいますので、ほったらかしにされることは絶対にありません。まずは怖がらずに飛び込んできてほしいですね。
八戸市という自分が暮らす街の制度を「面」で支える仕事には、民間では味わえない大きなやりがいが詰まっています!
H:自分が住んでいる街のことや市民の皆様の暮らしに、直接「自分ごと」として関われるのが市役所で働く最大の魅力です。自分の仕事が街の未来や誰かの人生を支えていることを実感できる、とても誇らしい仕事です。
皆様と一緒に八戸市の福祉を支えていける日を心から楽しみにしています!
ー本日はありがとうございました。
編集後記
民間の現場で経験を積み、40代前後で行政の世界へと飛び込んだSさんとHさん。インタビュー中、お二人が終始仲間を信頼し、柔らかい笑顔で語り合っていた姿がとても印象的でした。
「自分にできるだろうか」という最初の不安を乗り越え、前職で培った対人スキルを武器に、今では八戸市の介護保険制度という大きな土台をしっかりと支えています。民間での「点」の支援を知っているからこそ、行政としての「面」の支援の価値を誰よりも理解し、深い誇りを持って仕事に向き合えるのだと深く納得させられました。
「知識がなくても温かく教えてくれる仲間がいる」というお二人の言葉は、これから新しい一歩を踏み出そうとする求職者の背中を、優しく後押ししてくれるはずです。
取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年7月取材)
この記事の官公庁・自治体
八戸市は、平成29年に当市は中核市へ移行し、近隣の7町村と八戸圏域連携中枢都市圏を形成しながら、北東北地域の住民生活と地域経済を支える拠点として、更なる飛躍を遂げています。さらに、市発展のため、人口減少・少子高齢化の進行やグローバル化・デジタル化の進展に加え、グリーン社会の実現に向けた取組の加速化や、水産資源確保・中心市街地の賑わい創出に関する取組など、様々な課題へ立ち向かっています。
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