「一生懸命やらないと面白くないじゃないですか」——新宮市の難題に本気で挑んできた職員、いま観光協会の司令塔に

新宮市役所

2026/09/03

「一生懸命やらないと、面白くないじゃないですか」

 

峪中さんの言葉には、迷いがない。

神戸で経験した震災、継げなかった家具屋、地元に戻りたいという思い。新宮市役所での30年は、その一言に集約されているように思える。

 

新宮市生まれ、新宮市育ち。大学卒業後、地元に戻るために市役所の試験を受けたのが1995年のことだった。以来、商工観光課を中心に、県境で綱引きをする大会や、地球深部探査船「ちきゅう」の受け入れ、

市営公衆浴場の緊急設置など、数々の「大変だけど楽しい」仕事に携わってきた。

いまは企画政策部参事として、新宮観光協会の事務局長を務めている。

 


地元に戻るために選んだ道

生まれは新宮。神戸の大学に進学するまではずっと新宮にいて、大学を出てまた戻ってきた、と峪中さんは振り返る。

 

もともとは実家の家具屋を継ぐつもりだったが、四つ上の兄が店を継ぐことになった。地元に戻りたいという思いはずっとあって、ちょうど新宮市役所の募集をしていたので試験を受けた。

それが、公務員人生の始まりだった。

 

卒業を控えた1月に卒論を出したあと、震災に見舞われた。それでも歩みは止めず、7月ごろからは新宮市役所でアルバイトを始め、1995年12月に正規職員として採用された。

 

新宮市愛に溢れ、話し出すと止まらない人だ。最初の配属は教育委員会の社会教育課市民文化係。市民の文化行事や文化財に関する業務を幅広く担当していたという。

 

そして2000年、商工観光課へ。ここでの日々が、峪中さんのキャリアを大きく形づくっていく。

綱引き大会と「ちきゅう」。大変だけど、誇れる仕事

和歌山県と三重県の県境を流れる熊野川。その橋の上で、二県交流綱引き大会という行事が開かれていた。200人対200人で綱を引き合い、勝った方に県境が1メートル動くという、なんとも大胆な催しだ。峪中さんは2000年からこの事務局を担当することになる。

 

参加者は2,000人規模。スポンサー集めも参加者、ボランティアスタッフの募集も、すべて実行委員会と事務局の仕事だった。国道の通行規制を伴う大会は、国土交通省の中部地方整備局と近畿地方整備局、両方との調整が欠かせなかった。「調整が大変だった」と峪中さんは苦笑する。半年以上、このことばかりしていた時期もあったそうだ。

 

実行委員会には、三重県紀宝町(旧紀宝町・旧鵜殿村)の職員、各自治体の商工会議所や商工会のメンバーも名を連ねていた。当日が終わるまで、「もう二度としたくない」と思いながらも、やっぱり楽しい。そこで築かれた人のつながりは、今でも貴重な財産として仕事に活きているという。

 

もう一つ、印象深いのが地球深部探査船「ちきゅう」の受け入れだ。港湾担当だった6年間、クルーズ船や調査船を新宮に呼び込むための仕掛けをいろいろと考えた。「ちきゅう」が新宮港に入ったときは、一般公開や国際シンポジウムなど、関連事業もたくさん実施したという。

 

港湾の仕事では、部下の存在も大きかった。当時の部下は、「ちきゅう」の受け入れに絡めたイベントを一生懸命考えてくれたそうだ。クルーズ船の誘致は決まるまでに二、三年かかるため、成果はすぐには出ない。それでも部下は港のアピールや観光地の紹介を頑張ってくれて、新宮港への客船の入港は少しずつ、目に見えて増えていく。

 

自分が異動したあとも、残った人たちが客船を迎えるための活動を続けてくれている、と峪中さんはうれしそうに話す。業務マニュアルには載らない、そのひとこと。けれどきっと、この仕事の芯は、こういう瞬間にしか宿らないのだと思う。
 

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半年で銭湯を復活。役所が一丸となった経験

ほかにも、忘れられない仕事がある。市営公衆浴場の設置だ。市内の銭湯が突然閉鎖され、自宅に風呂がない人にとっては死活問題になってしまう。当時の副市長が「市として復活させないといけない」と切り出した。ちょうど環境衛生係にいた峪中さんが、昔の銭湯を借りるための所有者との交渉、保健所や消防など許可関係の調整を担当することになる。

 

議会は普通、年4回しか開かれない。それでは間に合わないからと、このためだけに臨時議会を開くことになった。総務課、消防、いろんな部署が一丸となって準備を進め、半年ほどで開設にこぎつけたという。通常では絶対にありえないスピード感だったそうだ。

 

この開設への取り組みが評価され、その年の新宮市優良事績表彰の市長賞に選ばれた。賞をとるために仕事をするわけではないが、職員の努力や頑張りを称えてくれる賞があることも、また、次の仕事へのモチベーションアップにつながるのだろう。

 

「役所全体が一丸となって頑張れば、乗り越えられないものはない」。峪中さんはいまも、この経験をそう語る。こんなに大変な思いをしてまで、なぜやり切るのだろう。答えは、案外シンプルなのかもしれない。

楽しく、本気で。新宮の未来を描く観光協会の司令塔として

「とにかく楽しく、頑張れる環境をつくる。それが自分の中で一番大事にしていることだ」と峪中さんは言う。目標を共有し、否定はしない。若い職員が提案してくれたことは、基本的にはやりきってもらう。責任は自分が取るから、ハシゴは外さない。そう宣言することを常に心がけているという。
 

「一生懸命やらないと、面白くないじゃないですか」。冒頭の言葉が、また響く。市営公衆浴場の話にしても、めんどくさいと思えばめちゃくちゃめんどくさい。楽しく、なんて簡単に言うけれど、本気でなければ楽しくはならないのだろう。
 

そんな峪中さんの姿勢には、初めて配属されたときの上司の影響が大きいという。楽しく頑張れる雰囲気をつくり、自分の時間を犠牲にしてでも頑張る姿を見せる。何かあれば謝りにも、守りにも、時にはけんかまでして駆けつけてくれる人だったそうだ。生涯にわたって大きな影響を受けた、人生の師。仲人までしてもらった、と峪中さんは懐かしそうに語る。その背中を見て育った峪中さんは今、部下に同じことを伝えるようにしている。

 

2025年4月から、峪中さんの立場も新しい局面を迎えた。企画政策部参事として、新宮市観光協会の事務局長を併任することになったのだ。もともと観光案内など、市のお手伝い的な立ち位置だった観光協会。峪中さんはこれを、新宮の観光を推進していく組織へと変えていきたいと考えている。一般社団法人化に向けた準備を進め、今年度は観光庁の補助事業の採択も受けられたそうだ。

 

「以前から観光協会の役員をしてくださっている方たちが、『いろんなことやってるねえ』と言ってくれるんです」。そう話す峪中さんの声は、心なしか弾んでいる。

海と山と川に抱かれたまちで、待っている「未来の仲間」へ

新宮市は、世界遺産に登録された神社が、駅から歩いて15分、20分ほどのところに3社もある。国の史跡に指定された城跡もあるし、和菓子屋が多く、食べ物もおいしい。海と山と川に囲まれたまちだから、海でも川でも泳げる。見ても楽しめるし、食べても楽しめる場所だという。

 

ただ、地元の人にとっては、いろんな景色が当たり前すぎるらしい。新宮のいいところを聞いても、あまりぱっと出てこないのだそう。地元が当たり前すぎて言葉にならない、というのも、裏を返せばそれだけ深く根を張っている証なのかもしれない。すぐには変わらないと分かっていても、少しずつ、「いかに新宮が素晴らしい場所か」を市民から共有してもらいたい。それが、峪中さんの目下の目標だという。
 

市役所の職場としての魅力を尋ねると、「どの分野でも挑戦できる環境が整っていて、その分野の先輩やプロがしっかり見守り、指導してくれます」。峪中さんはこう答えた。休暇も取りやすくなっていて、男性の育児休暇を取る職員も増えているそうだ。

 

最後に、これから新宮市役所を目指す人へのメッセージを尋ねた。「一緒に楽しく頑張ってくれる人を待っています。新宮を少しでも笑顔の多いまちにしましょう」。峪中さんはそう、まっすぐに答えてくれた。

 

綱引き大会も、調査船や客船の受け入れも、銭湯の復活も。振り返れば「大変だった」で終わる話ばかりだが、峪中さんの語り口はどこまでも楽しそうだった。一生懸命やらないと面白くない。その言葉のとおり、本気で向き合ってきたからこそ、周りの人を巻き込み、まちを動かしてきたのだろう。

 

「一生懸命やらないと、面白くないじゃないですか」。峪中さんの言葉に、迷いはない。その本気は、観光協会という新しい舞台でも、きっと新宮の魅力をさらに広げていくはずだ。

客船見送りセレモニー
新宮城跡から見る熊野川
熊野速玉大社
王子ケ浜
神倉神社から見る新宮市内

取材・文:パブリックコネクト編集部(2026年8月取材)

職員インタビュー

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新宮市は、和歌山県、奈良県および三重県の県境が隣接する紀伊半島の東南部に位置して太平洋に面し、温暖で高湿多雨な気候風土により豊かな水資源と樹木育成に恵まれた素晴らしい自然環境の中にあります。 世界遺産登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野古道「大雲取越え」「小雲取越え」「高野坂」や川の参詣道「熊野川」など、熊野の海や山や川の織りなす豊かな大自然にあふれています。 新宮市では、『市民の誰もが元気で心豊かに暮らすまち』『新宮に住んでみたい、住み続けたいと思えるまち』を実現するため、“人とまちが輝き、『未来』へつなぐまち 新宮市”の創造を目指しています。 また、移ろいゆく時代にあっても変わらない市職員としての3つの心、“感謝”と“情熱”と“誇り”を持って職務に取り組み、市民と向き合う職員を求めています。 私たちと一緒に、“人とまちが輝き、『未来』へつなぐまち 新宮市”を創っていきましょう。

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